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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第三章 胎動
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第42話 成果

 国立図書館に今日もアイリスの姿があった。

 目的は当然『鍵』の解明と、祭壇の場所。それから神器(アーティファクト)についての情報収集である。


 同時に暗部であるラピスにも他家の動向を探らせていた。

 これだけの重要な力についての情報である。学術的価値も相当高いのではとにらんでいたからである。

 にもかかわらず公開されていないという事実。これは大きく二つの可能性が考えられる。


 一つは本当に知られておらず、失われていた旧帝国の技術がレドウによって偶然発掘されたという可能性。

 もう一つは一部の人間だけがこの事実を知っており、国家を脅かす力になりかねないとして秘匿され続けていたという可能性である。


 もちろん前者である可能性はある。


 もともとレドウが持っていた古ぼけたタクトが神器(アーティファクト)の『鍵』であるなど誰が考えるだろう。

 旧帝国がいかにこの技術を秘匿したかったかが伺える事実だとアイリスは考えていた。

 ただそれを肯定すると、ひとつ引っかかりというか違和感があった。


 ヴィスタリア連合王国の建国神話との矛盾である。


 神話では、ヴィスタ聖教国に侵攻してきた巨大帝国に対して対抗すべく八人の英雄が現れたことになっている。それほど強大な力をもった勢力が、本来弱小国であったヴィスタ聖教国を相手に必死で技術を隠そうとするだろうか?という点についてしっくりいかなかったのだ。


 むしろ逆である方が納得がいく。


 仮に巨大帝国はあったが、他国へ侵攻をするような好戦的な国でなく(もしくは侵攻しなくても困らない豊かな国であり)、魔導技術に優れた大国であったと仮定する。

 そこへ八人の英雄を有したヴィスタ聖教国がその技術を欲しさに攻め込む。

 当然帝国は奪われないよう様々な手段でその技術を隠蔽していく。

 戦争にはヴィスタ聖教国が勝利するが、もっとも欲していた最先端の魔導技術は帝国から奪うことができず、今に至る。


 それをたまたまレドウが復活させた。という仮説が前者の場合しっくりいくのだ。


 では、後者であった場合はどうか。


 この場合でもさきほどの仮説を一部流用できる。

 帝国はすべての技術を秘匿しきることができず、魔導技術の一部はヴィスタ聖教国が奪った。ということになる。


 ただ、何が奪えて何が奪えなかったのかはまるでわからない。


 考えても結論などでない考察であったが、少なくとも後者である場合、目的である肝心の書籍が一般公開されている書架に蔵書として保管されていないのではないかという疑念がつきまとうのだ。


(きっとやみくもに探しても駄目ね。なんとかして公開されていない書籍を見せてもらう方法はないかしら)


 図書館や王国立大学院は第二位ロイスウェル家の管轄である。残念ながらアイリスはロイスウェル家につながりは持っていなかった。大学院卒業時にロイスウェル家党首であるロイ=イスト=ロイスウェルと首席卒業生として二、三言葉を交わした程度である。


 とりあえず、秘匿文書のありそうな書架として第四区画:魔導研究開発用専門書と第六区画:歴史書をターゲットを絞り、書籍を斜め読みしていた。


 今日も、いつものように読み漁っていると、ひとりの男が声をかけてきた。


「剣豪アイリス=カルーナ様でいらっしゃいますね?」

「貴方は?」


 アイリスが声のした方を見るとそこには華奢なつくりの男性が立っていた。

 どう見ても武闘派ではなさそうである。ここの司書であろうか?

 

「あぁ、これは申し遅れました。私は本図書館の司書長を務めております。ウィルヘルム=サリダンと申します」


 そう言って華奢な男が名刺を差し出した。確かにこの国立図書館の司書長のようだ。


「これはご丁寧に。私はアスタルテ家直属騎士団団長のアイリス=カルーナです。剣豪とは恐れ多い二つ名でして……」

「いえいえ、ご謙遜なさらず。ご武勇はいまやヴィスタリアでは知らぬ者などいないでしょう」


 司書長ウィルヘルムが恭しく首を垂れる。


「で、ご用件は?」


 アイリスは司書長ウィルヘルムの方から話しかけてきたことを思い出し、用件を聞くことにする。


「はい。実はここのところ毎日アイリス様が図書館を訪れ、熱心に何事かをお調べになっていると受付の者から聞きまして。本図書館は蔵書数で国内最大を誇っておりますゆえ、お探しの本が見つからない場合にお助けできるかと考えました次第です」


 アイリスは少し考える。

 

 目の前のこの男がどういった本心で声をかけてきているかである。

 少なくともアイリスが何を調べているのかを探りに来ていることは間違いない。それが単に好意と好奇心である場合、素直に協力を要請するのが正解であろう。

 だが、何者かによって探るよう指示されている場合は、本来情報を渡すべきではない。だからといって、ここで断ることで勘ぐられるのも好ましくない。仮に前者であったとしても後からヒアリングされたら答えてしまうだろう。であるならば……。

 

「えぇ、是非お願いしたいです。蔵書が多くてなかなか知りたいことが見つからないのです」

「そうでしょうとも。種類と数の豊富さが当館の自慢でありますゆえ」


 司書長ウィルヘルムがにこやかに微笑む。


「武勇は……と、お話頂いたということは、先日私が(ドラゴン)と戦ったことはご存知かと思います」

「えぇ。存じております。大活躍であったとのお話で」


 ウィルヘルムは表情を崩さない。


「その際、倒したあと相当数の魔石に変化したのです。魔石を有した野生生物が魔物化するというお話は存じておりますが、あのように強化された魔物はかつて聞いたことがありません。そこで過去の文献にそういった事例があったのか?また魔元素の量次第でそう言ったことがありうるのか。といった魔石、魔元素にまつわる学術書、もしくは歴史書がないかを探しているのです。今回はたまたま勝利することが出来ましたが、こういった魔物が今後も現れるようであれば、対策を打たねばならないと考えているところなのです」

「なるほど、そうでしたか。非常にご立派なお考えかと存じます。と、同時にやはり今のお話を聞く限り、一般書架では見つからないと思います。こちらへどうぞ」


 司書長ウィルヘルムはクルリと向きを変えると書架の奥に歩き出した。

 アイリスは油断せず周囲に気を配りつつ後に続く。

 もしこれが国家機密に抵触する情報で、隠匿目的の情報であるならば探りを入れているアイリスを消そうと動く可能性があるからだ。


 司書長ウィルヘルムの後について、奥の階段から三階に上がると金庫の扉のような物々しい鍵が掛かった部屋の前についた。


「この部屋の中の文献を探してみてはいかがでしょうか?」


 わりと軽い感じで提案する司書長ウィルヘルム。そして部屋の鍵を開けた。

 中には、通常閲覧出来ないだろうお宝クラスと思われる文献が所狭しと並んでいる。


「よろしいのですか?」


 思わずアイリスが尋ねる。


「ええ。もちろんでございます。もちろんただの一般学生に開放することはありませんが、身元も実績も確かなアイリス様にお見せすることに何も問題はございません」


 ここで再び司書長ウィルヘルムが恭しく首を垂れる。


「アイリス様が中に入られましたらこの扉を閉めさせて頂きます。自動で鍵が掛かる仕組みとなっておりますが、中からは自由に出られるようになっております。但し、一度外に出られますと再び入るためには私による解錠が必要となりますので、外出の際にはお忘れ物なきようお願い致します。また保管されている書籍は持ち出し厳禁となっておりますので、ご協力お願い致します」

「ありがとうございます。助かります」


 低く響く音で扉が閉まった。

 アイリスは念の為中から扉を開けてみると問題なく開くようである。


 極秘文書の保管されている書架を確認した。本日中に調べきる必要がある。

 次回も司書長が中に入れてくれるとは限らない。


 まずは失われた帝国の文献である。

 千年以上昔の資料となるはずである。ヴィスタリアの記載した文献には欲しい情報は載っていないだろう。数百冊ある蔵書の中から、旧帝国によって記載がされている文献を軒並み取りだした。数にして十冊程度、意外と少ない。


 その中でタイトルが例の古代文字で記載されている古文書が二冊見つかった。恐らくこれに違いない。

 恐る恐る古文書を手に取り開いてみる。が、中も全てその文字で記載されていた。


(ここにレドウさんがいたら!)


 と、アイリスは思う。だが、レドウが居たらこの部屋への入室は許可されていないであろうし、そもそも図書館に入館すること自体が不可能だ。

 そこでシルフィから聞いていた古代文字解読法を、事前に転記した資料をゆっくり広げる。


(レドウさんほど読めないにしても、ルティア様に感謝しなくては)


 資料を確認しながら古文書の記載を眺める。

 どうやらこのページは目次のようだ。

 まずは目次に記載の文字を読み進める。帝国の歴史について等、興味深い項目があったりしたが、今はそこを読むべきではない。時間は限られている。


 さらに目次を読み進めると、魔元素の取り扱いと聖魔晶、そして神器について記載されているらしき項目を発見した。


(第五章ね……どこが第五章かしら)


 慎重に古文書をめくり進めるアイリス。

 それにしても、ルティアの残した暗号解読法はかなり優秀である。

 シルフィの話では「断片的にしか読めない」とのことであったが、古代文字解読に必要な基本的な考え方について記載があるため、辞書的に記載がない表現であっても少しずつなら読み進めることができるのだ。

 

(問題は、解読速度)

 

 一行読むのに半刻はかかる。下手したら一ページ読み終わる頃には夜になってしまうだろう。

 なんとなく文章の記載の仕方から、本丸と思える箇所を効率よく解読しなくてはならない。

 

 そんなことを考えながら少しずつ読んでいたのだが、ドアをノックする音で現実に戻った。


「アイリス殿、そろそろ閉館の時間なのですが」

 

 司書長ウィルヘルムの声だ。もうそんな時間になってしまっていたのか。

 

「はい。ただいま退出します。」


 アイリスは返事をすると、手早く古文書を書架に戻す。

 次回入室できた時にすぐに手に取れるよう、自分の分かりやすい箇所にこっそりしまっておく。


「いかがでした?目的の情報は得られましたか?」


 にこやかに語りかけてくる司書長。


「いえ、本がたくさんありますので、どこに何が書いてあるのかを探すので精一杯ですね。なんと書いてあるのかも分からない文書もありましたし」

「そうでしたか。私も中の本の内容については把握できておりませんので……」


 ちょっと残念そうな司書長。

 

「また来ても宜しいでしょうか」

「ええ、是非。いつでもお越しください」


 そんな会話をかわしつつ図書館をあとにするアイリス。

 全く成果がなかったわけではない。あとで、皆で共有しようと思っていた。


明日、土曜日は一日外出の予定がありまして、更新をお休みします。次回は日曜に更新します。

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