表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第三章 胎動
41/239

第39話 戦いを終えて

 首領(ドン)との戦いで疲弊していた二人は、炭となった洞窟前の小屋跡で休憩をとった。

 もちろん洞窟内に盗賊らしき人の気配がないことを確認した上でのことである。

 休憩といっても完全に警戒を怠ることも出来ない。側近(サブ)が再度襲撃してくる可能性があるためである。どちらかというとある意味首領(ドン)より厄介であるため、レドウはあまり再戦をしたいと思っていなかった。


 しばらくして、絶命した首領(ドン)が魔石化した。


 人間の魔物化なんてこれまで聞いたこともなかったが、よく考えれば野生動物で発生していることが人間で起こらないと決めつけるのも良くないようだ。

 ただし、魔物化する直前に首領(ドン)が何かの液体を飲んでいたことがレドウには気になっていた。

 恐らくは『自らの意思で人為的に魔物化した』ということだからだ。


 ちなみにドロップした魔石は全てレーナに譲った。

 先日の地竜(グランドドラゴン)と同じくらいの量だ。換金すれば25万リル程度になるだろう。


 こんなに受け取れないとレーナは拒否していたが、両親の治療費と当面の生活費に充てろと説得する。

 後で水魔法を使って回復治療をしていく予定ではあるが、ちゃんと診てもらった方がいいに違いない。

 郊外であれば、新居を構えることが出来るくらいの資金でもある。


 そんなことを話しながら、休憩を終えた二人は盗賊の居なくなった洞窟内を捜索する。

 予想より物がない。


 もともと貧しい地域であるし、周辺集落から奪った金品がほとんどなかったのかもしれない。

 攫われた娘たちこそが一番の宝であったというのもありそうな話だ。


 さらに捜索を続けると、一番奥の部屋にカザルス家から持ち出されたと思われる幾つかの品が無造作に置かれていた。

 さっさと売り払われていたら大変だったが、レーナの確認によると幸い全部ありそうだ。


 レドウはその場で品物を確認する。


「あった。たぶんこいつだ」


 レドウが取り上げたもの。それは木箱にしまわれたサークレットであった。

 品物自体は古く色がくすんでおり、とても値打ち物には見えない代物であるが、箱にあの遺跡にあった文字が彫られていたのだ。

 古代文字(これ)こそがレドウが探していた品である可能性を濃厚にする。


 文字を解読すると『叡智を司る冠』と記載されていた。

 『鍵』であることは、まず間違いないようだ。


 問題は、どこの祭殿で復活する『鍵』なのか。ということだが「あとでみんなで考えりゃいいだろう」と思うレドウであった。



「本当にもう行っちまうのか?」


 生家から立ち去ろうとするレドウに向かってレーナが声をかける。

 両親に回復魔法で応急措置は施した。あとはゆっくり養生することが何よりの薬だろう。


「あぁ。これでも一応やることがあるんだ」


 レーナには、この場所に強い思い入れがないのであれば荒れ果てたロイズ地区から、港町シーランの郊外あたりに引っ越しをすべきだと伝えた。

 盗賊を一人打ち漏らしていることが大きな理由だ。

 報復をしてくるような奴には見えなかったが、何かしらの行動を起こされる可能性はある。


 資金が足りないようならば、用立てるから連絡をよこすよう伝えた。

 連絡先として王都ウィンガルデのアスタルテ家を伝えたら両親がひっくり返ったのは記憶に新しい。

 これまでのレドウからは想像もつかない回答だったからだろう。無理のない話だ。


「じゃあな。引っ越し先が決まったら連絡よこせよ」

「わかった。兄貴も気をつけて」


 レドウは目的の品である『鍵』をしっかり手にし、ロイズ地区の生家をあとにした。


 カザルス一家の引っ越しが行われたのは、それからほどなくしてのことである。


……


首領(ドン)情けないわ。結局やられてるし、役立たずにもほどがある」


 側近(サブ)だ。アジトまで戻ってきたのだ。

 

 しばらく周辺で時間をつぶして戦線に復帰するつもりであったが、レーナの警戒網が思ったより広く、射程に入った瞬間にターゲットされていたため、一度完全に戦線を離脱することを選択したのだった。

 その後、森林地帯のとタガデア砂漠の境をぐるりと迂回し、二人の背後を突くべくリーデル大河側から戻ってきたのだった。


 しかし時すでに遅く、戦闘は終了していた。

 しかも首領(ドン)の姿はなく、洞窟内の盗品が持ち去られていたとあれば、首領(ドン)の敗北を断定せざるを得ない。


 (魔法使いレドウ。魔法使いかどうかはともかく、こんな田舎の村人に覚醒した首領(ドン)を倒せる力があったとは)


 戦いの様子を確認出来なかったのが悔やまれる。


 というより、覚醒状態の首領(ドン)がそう簡単に負けるとは露ほどにも思っていなかったのが本音だ。

 側近(サブ)の知る限り、魔元素の制御における最新の技術を首領(ドン)に与えている。

 その能力を発動させるスイッチとなるのが、首領(ドン)が戦闘前に飲みほしていた薬だった。


 側近(サブ)は、その技術利用における人体実験の命を受けていた。

 とはいえ手近な人間をおおっぴらに利用するわけにはいかない。

 死刑囚による技術的な機能実験は水面下で行っているが、側近(サブ)に下っていた実験命令は、この技術が引き起こす人間社会における影響度の確認である。


 命令を受けた側近(サブ)は、まずヴィスタリア連合王国の中でも王都の影響度の薄い南方に下った。

 タガデア砂漠を越え、南方の商業都市のスラムで細々と活動していた盗賊に側近(サブ)は目をつける。

 言葉巧みに一人の屈強な盗賊頭にレドウの言うところの『魔物化』の力を与え、盗賊団を結成させた。そして自分は副官におさまる。


 その盗賊頭こそが首領(ドン)である。


 すると首領(ドン)は、魔物化していない通常時においても筋力、瞬発力がアップしたのだ。

 またたく間にカリスマ化した首領(ドン)を中心に盗賊団は勢力を増す。

 南方都市の盗賊団を抗争の結果一つに纏め上げたのだ。


 この時点で首領(ドン)に怖いものはもはや存在しなかった。

 商業都市にあったギルドは全て掌握した。

 自分たちを取り締まる南方の騎士団は壊滅させた。

 かつてない贅沢を謳歌し、絶対的な力を振るった。

 逆らう者など存在しないのだ。

 居たところで蹂躙すれば良いだけのことだ。


 当然欲が出る。

 しょせん南方の商業都市など、ヴィスタリア連合王国における絶大な権力の及ばない田舎である。

 自分の力は王国をを統べる力に届きうると考えた。

 

 彼は忘れていたのだ。その力は側近(サブ)によってもたらされたものであったことを。

 側近(サブ)は一体どうやってその力をもたらしたのか?

 そういった細やかな考察を首領(ドン)はしなかった。

 結局、力におぼれている自らに気づくことが出来なかったのだ。


 彼はまず側近(サブ)を含めた精鋭で北方を探ることにした。

 手始めにヴィスタリア連合王国の威光が届く中でも南方のセーリア川周辺集落をターゲットにした。

 アジトは使いやすい拠点であれば良かった。なぜなら最強だからだ。


 手始めに集落を襲ったところ、首領(ドン)の力は問題なく通用した。

 ただ残念なことに金銭的な収益は思うように得られない。

 商業都市で暴れていたときの方がよっぽど実入りが良かった。

 

 ただ、良い点もあった。女だ。

 田舎であるにも関わらず、商業都市では味わえなかった美しいの女性たちが無防備に住んでいたのだ。

 

 彼は狂喜した。


 側近(サブ)によって改造された力のせいだろうか。彼は自らの欲望に非常に弱くなっていた。

 望んだことは全て力づくで実現出来てきたのだ。弱くなっても仕方ない。

 

 結果として首領(ドン)はロイズ地区南のアジトに居座った。

 当初の予定では南方の商業都市に待機させている部下の盗賊たちを呼び集め、北へ侵攻するはずだったにも関わらずだ。


 ただ、なかなか首領(ドン)の思い通りにならないこともあった。

 ロイズ地区に住んでいたカザルス一家だ。

 奴らは強かった。

 純粋な力では彼の方が圧倒的に強いにも関わらず、蹂躙出来ないのだ。

 敵は三人しかいないにも関わらずだ。

 

 やむなく首領(ドン)は連れてきていた盗賊団全員を投入し、攻め落とした。

 だが、カザルス家の娘を捕えることは叶わなかった。


 そんな折、カザルス家長男のレドウがやってきたのだった。


 こうした首領(ドン)の行動と影響の一部始終は、全て側近(サブ)はレポートとして纏めていた。

 あたりまえである。それが彼の『真の任務』だったのだから。


 だが、その分析結果を大きく覆す事態が起こったというわけだ。


 覚醒した時の力。それは圧倒的な人外の力である。

 首領(ドン)に関わらず、覚醒した者は膂力も装甲も一介の人間に倒せるレベルをはるかに凌駕しているはずなのだ。


 それが田舎の村人に倒されるなど想定外もいいとこだ。

 いずれにしても観察対象である首領(ドン)はもうこの世にいない。


「仕方ねぇな。盗賊ごっこはここまでだ」


 側近(サブ)は、頭のターバンを捨て、身にまとった外套もその場に捨てた。そして付け髭と鼻の特殊メイクを取ると全くの別人に変わった。

 知っていた人間でも、盗賊団にいた側近(サブ)だとは誰も思わないであろう。


(まずは上に報告だ)


 そして森から一つの気配が忽然と消えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ