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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第三章 胎動
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第35話 アイリスとシルフィのそれぞれ

 王族特別区から見て大神殿参道を挟んだ向かいにある広大な公共施設区。その一般区画側の一角に王国立大学院がある。王国国民でも一握りの優秀な学生しか門をくぐる事さえ許されない狭き門の大学院だが、そこに併設されている図書館がある。


 ヴィスタリア連合王国、国立図書館である。


 この図書館には単純だが非常に厳しい入場制限が敷かれている。

 入場出来るのは『王国立大学院』の現役学生、及び卒業生のみである。

 ルールは身分に関わらず適用されるため、資格を持たないものは王族とて入場することが出来ないのだ。


 そのため『王国立大学院』に入学できたこと自体が大きなステータスとなる。


 国立図書館の入り口にアイリスが立っていた。

 入り口を固める衛兵が近寄り、決まり文句を発する。


「所属学部と学科、名前を述べよ」

「基本戦術学部、剣術学科卒業生のアイリス=カルーナです」

「どうぞこちらへ」


 衛兵は書類を確認することもなく、入場を促した。

 『王国立大学院』を首席で卒業後一年で八輝章家の騎士団長に就任したアイリスは『王国立大学院』でも伝説の有名人である。また先日の南岸遺跡での事件で、パーン家の無念を晴らした英雄として再び名が売れたため、『王国立大学院』は元より王都内で知らぬ人などいない有名人となっていた。


(本当は目立つことはしたくないですけど、こればかりは仕方ないでしょう。レドウさんの存在を影に隠すためなら)


 結果としてアイリスは自由に国立図書館に入室出来るのだが、実は卒業後に訪れるのは初めてである。


「では、ご自由にご覧下さいませ」


 衛兵に見送られて館内に入る。

 彼らとて資格なき者はあの位置から中へ入ることは許されていないのである。


(どの辺を探したら目的の本があるでしょうか?)


 図書館内部は分野ごとに蔵書の区画整理がされている。


 第一区画:軍師、戦場での指揮

 第二区画:技能指南(片手剣、両手剣、槍、短剣、弓、砲術、タクト)

 第三区画:魔法行使(タクトの構造、魔晶石について)

 第四区画:魔導研究開発用専門書(魔元素基礎工学)

 第五区画:言語研究書

 第六区画:歴史書

 ……


 そのほかにも多岐にわたる文書が蔵書として保管されている、王国最大の図書館である。

 上記の例ではないが、例えば『美味しい料理レシピ』や、ジラール著の『探索者の心得』などもここの蔵書となっている。


(さて、本が多すぎて大変ですが目的の本はどのへんでしょうか。ある程度あたりをつけたあとは毎日しらみつぶしに見ていくしかなさそうですね)


 大量の書籍群の中へアイリスは探索の旅に出たのだった。


……


「パパ、うちに代々伝わる家宝とか、古書とかそういうのってどこにある?」


 アスタルテ家居城、四階執務室からシルフィの声がする。

 昨日『二人で自宅を捜索』ということになりはしたものの、実質探すのはシルフィのお仕事になる。

 普段暇そうに見えても、当主としてすべき公務はそこそこあって忙しいためだ。


 その証拠にパパことアレク=イスト=アスタルテは、執務室でデスクに座りっぱなしだが、わりと頻繁に使用人が書類の束を持ち込んでくるのである。

 これではそうそう部屋を空けることは難しいだろう。


 シルフィの呼びかけに、視線を書類から(シルフィ)に移す。


「そうだな。お前(シルフィ)も知ってのとおり、ここ数百年のアスタルテ家は女系家族だ。わしも婿養子だから古いことはよく知らんのだが、あるとしたらママの遺品じゃないかな。例えばママからおシルフィがもらった装飾品とか、今は使ってない寝室とかママのドレスルームとか。その辺を見てみたらどうかな」

「そうね、ママの部屋か。ありがとう見てみる」


 執務室を出たシルフィは五階に向かう。


 五階には当主夫妻専用の寝室があるのだが、アレクの妻ルティア=イスト=アスタルテが流行り病のために若くして亡くなって以降、使われていない。

 アレク自身も今ではあまり部屋に入りたがらず、執務室に簡易ベッドを持ち込んで寝室としているのも、やはり思い出してしまうからなのだろう。


 シルフィが寝室の部屋をあけると、綺麗に片付けられてはいるが十年前から時間が止まっているかのようだ。

 ふっと鼻につく香りすらも幼い頃の記憶を思い起こさせる。

 この部屋からは在りし日のルティアの面影が至るところから感じることが出来た。


(パパが入りたがらないわけよね。辛すぎるでしょ)


 寝室の枕元までくると、そこに見覚えのあるペンダントが置かれている。ルティアが生前いつも身につけていたものだ。アスタルテ家の家章をモチーフにしたと思われる意匠が施されているのが特徴的である。

 『家章そのものではないところがお洒落で気に入っている』と生前ルティアママが言っていたことをシルフィは思い出す。


(これ、ママがいつも身につけていたペンダントよね。『鍵』かどうかはともかく、そろそろ私が付けてもいいよね?ママ)


 枕元のペンダントをそっと身につけるシルフィ。

 懐かしさと心地よさ、そして何故か身の引き締まる思い。


(もっと早く受け取りにくれば良かった。大事にするね。ママ)


 他にも何かないか部屋の中を静かに探すシルフィ。


 寝室には他に『鍵』となりそうなものは見当たらなかったため、シルフィは部屋に併設しているドレスルームを見てみることにした。

 ルティアの衣装が保管されている部屋……いわゆるウォークインクローゼットであるのだが、化粧台の他に机、椅子、筆記用具なども持ち込まれており、当時はルティア個人の書斎のように使用されていた部屋だった。

 そういった使われ方であったため、ドレスルームは夫であるアレクも殆ど入ったことのないルティアのプライベート空間であった。

 幼いシルフィアは時々ルティアママに連れられて何度か入っていたが、当時は秘密基地にでも入るようにわくわくしていたことを覚えている。


(本当に懐かしいわ。全部当時のままね)


 シルフィは、吊り下げられた衣装を掻き分けながら奥にあるルティアママの机を目指す。

 化粧台と並べて置かれた机の上は綺麗に片付けられており、羽ペンが差してある以外は何もなかった。

 当時ルティアママが座っていたのと同じように椅子に腰掛けるシルフィ。


 すると足元に何か置いてあることに気づく。


(なにかしら?)


 そこにあったのはやや大きめの何の変哲もない木箱だったが、木箱の中からはさきほど身につけたペンダントと同じ……つまり『家章そのものではない』モチーフの意匠が施された宝石箱が出てきたのだ。材質の木の感じから非常に古いものであることがわかる。


(え?このモチーフってママが職人に依頼してデザインしてもらったものじゃないの?こんなに古い宝石箱に全く同じ意匠が??)


 シルフィは胸の鼓動が早くなるのを感じた。これは恐らくパパだって知らない事実に違いない。

 震える手で宝石箱を開けると、中には今自分が身につけているものと似たペンダントが収められていた。

 大きな違いは、ペンダント中央に深く青い魔晶石があしらわれていたことだ。輝きからいって魔晶石というより輝石かもしれない。


(もしかして、こっちが本物……いつもつけていたものはレプリカ??)


 本物?のペンダントを宝石箱から取り出そうとすると底がカタッと小さく鳴った。


(二重底?!)


 シルフィは取り出したペンダントをルティアママの机に置くと宝石箱の底を取り外した。

 中には茶色く変色した羊皮紙の手紙が入っていた。


 そっと手紙を開くシルフィ。手紙にはシルフィの読めない文字で書かれた文書がところ狭しと記載されている。

 読めはしないが、その文字にシルフィは見覚えがあった。


(レドウしか読めない文字!でもなんで?レドウのお祖父(じい)さんだけが知っていた文字で書かれた手紙がママのところに?どういうこと?!)


 シルフィは震えが止まらない手で手紙を閉じると、本物?のペンダントと共に懐にしまった。

 どちらにしてもこの文字をシルフィは読むことが出来ない。レドウに読んでもらうしかないのだ。


(ほ、他にはないかしら?)


 シルフィはルティアママの机の引き出しを一つずつ丁寧に開けて確認していく。

 すると今度は鍵つきの日記が出てきた。


(鍵つき……開け方なんて分からないよね)


 日記の鍵の部分をよく観察するシルフィ。

 鍵穴?に相当する部分の形状がどうも鍵っぽくない。

 よく見るとその形状はさっき見たアレに良く似ていたのだ。


(ペンダント!)


 ためしに身につけているほうのレプリカペンダントを当ててみる。サイズは合っているのだが、特に日記の鍵が開く気配はない。


(やっぱり本物?じゃないとだめかな)


 懐にしまった本物のペンダントを鍵に当てると、カチリという金属音と共に開いたのだ。


(わ!ママ、秘密だらけじゃない!)


 恐る恐る日記を開くシルフィ。

 そこにはルティアママの想いが溢れていた。


 アレクに対しての想い、妊娠とシルフィの誕生、シルフィにかける想いなどもルティアの肉筆文章として残されていた。


(ママ……)


 じんわり滲む視界を拭いながら読み進めると、気になる記載が現れた。


『私はついに文字解読の手がかりをつかんだ。私たちアスタルテ家が先祖から何を託されたのか、その手がかりはここにしかない。もし私が解読を完成出来なかったとしても、きっとシルフィアが後を継いでくれる。あの()はとても賢くて聡明。きっと理解してくれる。いつか私から引き継ぐその時のために』


 全てではないが、文字の解読の仕方の一部が記載されていた。


(ママ、凄い。ママはこの文字を全く読めなかったはずなのに、ここまで解読していたなんて)


 日記に書かれている文字の判読方法を見ながら、先ほどの羊皮紙の手紙を広げる。

 レドウが言っていた『こいつはそんなスラスラ読むための文字じゃねぇんだ』『言葉遊び的に使われていた文字』という言葉の意味が今なら分かる。


 ルティアママの判読法によれば、これは一種の暗号だ。

 ただ、ルティアママも全ての解読が終わっているわけではなさそうだ。


(ちゃんと読むのはレドウに任せるとして、今分かるだけでも読んでみたいわよね……って殆ど読めないわ。えっと)


『娘

 我ら……私とお前……望み……お前……嫁ぐ……お前……我ら……始まる。我ら……復活……お前……ペンダント……託す。ペンダント……お前……娘……ヴィスタリア……私……家族……我ら……存続

 父』


(だめ。意味をなさない。でもこれは父親が嫁ぐ娘に宛てた手紙であって、その際にこのペンダントを贈ったことだけはわかった。そしてきっとどれかの『鍵』で間違いないわ)

 

 シルフィは立ち上がる。

 そしてルティアママの思い出に溢れるこの部屋を時々訪れようと思った。


少し当初想定していたプロットよりお話が広がってきたため、一度世界観と設定を整理をしたいと思います。そのため少々申し訳ないですが、1週間程度更新を休止します。

次回は7/14になります。忘れないでいて頂けるとありがたいです。

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