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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第三章 胎動
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第34話 暗躍する者たち

 ダン!と木製の机を叩く音がする。


 夜か昼かもわからない窓のない石壁の部屋。

 ところどころに設置されている間接照明のみがその部屋を照らしている。

 よく見ると調度品の他に槍や長剣などの武器が所狭しと並べられており、長い影がいたるところに散乱している。


「火の神器が復活じゃと!あんなハズベルトの小倅に神託など笑い話もいいとこじゃ。無知はこれだから困る」


 いらだちを隠そうともせず、初老の男が歯噛みする。男の額には深い皺が刻まれていた。


「おちつけ。真理を見つめよ。さすればいま何をすべきか自ずとわかるもの」


 部屋にはもう一人いた。


 光の加減で容貌を窺い知ることができないが、苛立っている初老の男よりは若く精悍な印象を受ける。

 壮年といったところだろうが、年に似合わぬ落ち着き払った態度には底知れぬ威圧感がある。

 この男の存在が部屋の空気を冷たく張り詰めさせていた。


「じゃが、お主もわかっておろう!『火』が復活したというその意味を!これが落ち着いていられるか」


 初老の男が壮年の男に噛み付いた。しかし壮年の男は涼しい顔で受け流す。


「では聞くがお前がここで苛立ったことで何か解決するのか?」

「くっ……」


 何も言い返せず押し黙る初老の男。

 その様子をフンッと嘲ると壮年の男は立ち上がり、静かに背後の壁に飾られている絵に軽く左手を添える。すると何もなかったはずの壁に収納扉が現れる。

 壮年の男は収納扉から一本の杖を取り出して右手で掴んだ。


「落ち着いて物事を見据えよと言っているのだ。いまお前が成すべきことはなんだ?」

「……復活した火の神器を我が手に。あとは闇の神器を復活させた首謀者を洗い出すことじゃな」


 壮年の男が右手の杖で石畳をコツンと軽く叩いた。


「踏み込みが足らないな。『火』に関しては幸い所在がわかっている。『どんな手を使ってでも』入手するのだ。時間はかかってもいいだろう。そして」


 やや萎縮している初老の男に一瞥した壮年の男が言葉を続ける。


「『闇」に関しては味方に引き入れよ。あれは使用者を選ぶと記録に残っているであろう」

「確かに、そうでしたな」

「為せぬなら、始末せよ。不要だ」


 壮年の男の声が低く部屋に響く。

 初老の男も理解したという表情でうなずいた。


「もうひとつお話がありまして、実は『種』が倒されたのじゃ。理解しがたいことじゃ」


 先ほど取り出した杖をもてあそびながら、壮年の男は初老の男の報告を聞いている。


「あの『種』はな、力を引き出すことを前提に行った実験試作品なのじゃ。結果、制御機構が上手く働かず、やむなく廃棄したのじゃが……」

「討伐できる人間がいたと。予想外だと。そう言いたいのだな?」


 壮年の男の冷やかな視線が、初老の男を射抜く。

 蛇に睨まれた蛙のように何もいえなくなる初老の男。


「最近売り出し中のようだな。第八位の女騎士団長か。なかなかの手練だそうじゃないか」

「剣豪として名を馳せているようでして。暗部によれば思慮深く油断のならぬ人物であるとも聞いておりますじゃ」


 その瞬間、壮年の男は恐ろしく滑らかな身のこなしで、右手の杖を初老の男の首にあてた。

 初老の男の表情が恐怖で固まる。

 杖を首にあてたまま壮年の男が低い声で静かに威圧する。


「今の話、重要な点は何だ?」

「え、あっ!つまり『種』の存在が明るみに出るのは危険じゃ。我らの研究開発が明るみに出ることは避けたいということでして」


 壮年の男は初老の男の首から杖を引くと中央にあった広めのソファに身体を預けた。


「その話も分からんではない。だが、お前はその歳まで何をしてきた。お前のその頭は飾りか!」


 叱責しつつもやや失望した様子だ。

 何を言っているのか分からないといった様子の初老の男を覗き見る。

 しかし、初老の男は期待する考えに至らないでいるようだ。


「では聞くが、お前の持つデータで『種』の強さはどれほどだ。いかに強者と言えど、いち騎士団長が討伐できるという見立てで良いのか?」


 初老の男の思考を促すように核心に触れる。


「確かに。おかしいとは思っていたのじゃが、アレは人の手におえるレベルではないはず」


 その回答に納得できるとうなずく壮年の男。


「第五位のところが養子にしてまで欲しがった稀代の英雄候補。それを『種』は容易く惨殺したのだろう?いかに第八位の達人がいたところで、それほど大きな力量差があるとは思えぬ。このことと、今回の『火』の復活。整理するとどんな仮説が成り立つ?」


 ちょっと考えた初老の男だったが、はっとした様子で目を見開く。


「『闇』を復活させたのは話題の女騎士団長本人、もしくはその近親者」

「そういうことだ。少し考えればわかるだろう?」


 壮年の男はソファから立ち上がると、部屋の扉に手をかけた。


「アレの開発も手を緩めるなよ」


 そう言って壮年の男は出て行った。

 それだけで部屋の間接照明は本来の暖かみを取り戻したかのようだ。


 壮年の男の気配が消えるやいな、初老の男は近くにあったペンを壁に投げつけた。


「おのれ、若造が偉そうに」


 部屋の中央に設置された木製の机はまだかすかにカタカタと揺れていた。


……


「……と、いうことでだ。ちょいと実家に戻ってこようと思うんだが」


 レドウはウィンガルデの自室に戻ってきていた。

 部屋にはシルフィとアイリスの他に、アレクも同席している。


 ことの発端はハイラム=イスト=ハズベルトの降臨の儀に出席したアレクが、その時の奇跡について娘のシルフィに語って聞かせたことだった。


 話を聞いたシルフィは神器復活の可能性に気づき、慌ててアイリスに声をかけて事態の整理を始める。

 そこにレドウが帰ってきて火の神器【勇気の大剣】の復活を確認したというわけだ。


 四人の共通認識は予想より他の神器復活が早かったということ。

 そして存在が皆の知るところとなることで、時間的な猶予がほぼなくなったということの二点だ。


 神器復活の『鍵』捜索を実家の祖父の遺品に賭けてみようというのがレドウの案だった。


「それだけでは『鍵』の決め手にかける気がしますので、私は古文書を調べてみます」


 とのアイリスの言葉。


 ハズベルト家に代々伝わっていた宝剣が『鍵』の一つだったことを受けて『アスタルテ家にも何か代々伝わっているものがないかを調査してみよう』というのがアレクの意見であった。シルフィに関しては「私もパパと一緒に家に伝わってるものを探してみるね」とのことで、王家に伝わる品に関してはシルフィ親子で探すことになった。


 四名それぞれ別軸で調査することが決定したところで、レドウが三つの指輪を取り出した。


「これなに?」


 シルフィが期待をこめた目でレドウに説明を求める。レドウは一つの指輪を手に取る。


「これは遠隔通信が出来る魔道具だ。指輪をしているもの同士ならいつでも念話が可能だ」


 シルフィとアイリスが一つずつ指輪を手に取り嵌める。


「あれ。もしかしてわしの分がない?」


 ちょっと寂しそうなアレク閣下。


「わりぃ。今度おっさんの分も創っておくよ」

「すまんな」

「これ凄いですね!距離関係なく意思疎通がとれるのであれば安心して別行動が取れます」


 アイリスが興奮している。

 好奇心の塊になっている三人をレドウは手で制した。


「先に言っとくが、指輪自体に効果がついているわけじゃねぇ。指輪の中心に緑色の小さな魔晶石があるだろ?こいつを媒介にしている」


 レドウは指輪の石部分を三人に見せながら説明を続ける。


「だからあんまり考えたくはねぇが、もし指輪を奪われそうになったり念話機能を悪用されそうな事態に陥ったら、この魔晶石を外すか傷をつけるかするんだ。外すことができればそもそも念話対象にはならんし、傷がつくだけでもノイズが入って念話出来なくなる。魔晶石になんらかの異変があれば、緊急事態として俺に伝わるようになってるから、そこは安心してくれ」

「ちょ、わしにも使わせてくれ」


 レドウの説明に一番興奮していたのはどうもアレクのようだ。

 (シルフィ)が持っていた指輪を奪い取ると、能天気なメッセージが送られてきた。


『はろ~!わしじゃわし。ア・レ・ク!じゃ。聞こえてるかなぁ?聞こえてたら手を挙げてみよう』


 はぁ。とため息をつくアイリス。


「閣下。この魔道具が興味深いのは間違いないですが、あまり力の抜けるようなメッセージを送られますと、閣下の威厳を損ねますよ」

「なになに?パパ一体どんな念話したのよ」


 唯一指輪をつけてなかったシルフィにだけアレクの声は聞こえなかったのだが、まあ聞こえてなくてよかったのだろう。


「とりあえずだ、これでこの先の行動の準備が整ったわけだ」


 四人は力強くうなずいた。


 翌日、レドウはウィンガルデの武器防具店、サラの店で聖銀(ミスリル)製のクレイモアという両手剣を護身用に仕入れた後、実家へと向かったのだった。


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