第31話 聖剣エクスカリバー
ヴィスタリア連合王国に伝わる御伽噺の一節にこんなくだりがある。
あるところに絶対的な力を行使し、連戦連勝を続ける強国があった。
強国を率いる英雄が振るう剣は、戦場で刀身が眩いばかりに光輝き、味方の士気を高めたという。
英雄が手にした剣の名は『聖剣エクスカリバー』
自軍の勝利を約束すると謳われたその剣をもって動乱を制した英雄はその国の王となる。
以来、王の証として代々受け継がれたという。
……
《マスター、ご報告いたします》
(どうした。こんな時に)
《ただいま【王者のタクト】の剣化を行ったことで、知識レベルで封印中の一部が開放され……》
(それはあとだ!まずはこいつをなんとかする!)
《承知いたしました》
そして光が舞った。
レドウの両手に収まった両刃の大剣は、振るわれるたびに刀身がより強く輝きを増してゆく。
地竜はしばらく呆けたように固まっていたが、再びブレスを放射した。
そのブレスに対してレドウが光の大剣を振るうと実体がないはずのブレスが斬り裂かれ、霧散する。
それを見た地竜は、間髪入れずにテールスイングを放った。
予備動作を見たレドウは落ち着いて距離を詰め、先ほどのように尾の根元で受けるべく光の大剣を構える。
しかし、今度は結果が大きく異なった。
剣を構えた箇所で凶悪な長い地竜の尾がスッパリと切れたのだ。
切れた尾はテールスイングの勢いのまま、後ろに控えていたシルフィたちのすぐ近くの壁に激突した。
激しい衝撃音は遺跡全体に響き渡る。
「あ、危ないじゃないの!」
心配そうに見ていたはずのシルフィが目を丸くして怒った!
「わりぃ。この切れ味は予想外だった」
思わず謝るレドウ。しかし視線は地竜から外さない。
強力な武器でもあった尻尾が根元から切れ、バランスを失ったために二足歩行がつらそうな地竜がこちらを恨めしそうに睨み付けている。
『グギャァァァォォォォ!!!』
二足歩行を諦め、四肢で体勢を整えると地竜は咆哮とともにレドウに突進してきた。
右前前方に転がるようにしてかわすレドウ。
勢いがついた地竜はそのまま壁に激突し、遺跡を揺るがすような衝撃を引き起こした。
尾が壁に激突したときの比ではない。足元が地震でも起こったようにグラグラと揺れている。
平気な顔をして振り返った地竜は再びレドウめがけて突進してくる。
これもギリギリでかわすが、やはり地震のおまけつきだ。
突進はいずれシルフィたちの方角に向いてしまうだろう。
レドウは地竜が壁に直撃した直後を狙って走り始めた。
足元が揺れるためにまっすぐ進みづらいのが難点だが、地竜が体勢を整えるまでには充分な時間がある。
レドウは振り返った直後の地竜の前足を狙って光の大剣を振るった。
『ギャアァァァァ!』
尾を切り落とした切れ味はまぐれではなかった。
レドウの光の大剣は、その刃を受け止めようと地竜が繰り出した爪ごと切り裂いたのだ。
相当苦しめられた相手だったが、もうレドウの敵ではなかった。
痛みにのけぞった地竜の喉もとをめがけて光の大剣を突き立てると、そのまま地竜を両断したのだった。
「レドウゥゥゥ!」
戦いを終えたレドウのもとにシルフィが飛び込んできた。そのまま抱きついて離れない。
部屋の隅には腰が抜けたように座り込んでいるアルフと、立ち上がって歩けるくらいまでは回復していたアイリスの姿があった。
レドウは引っ付いているシルフィの頭を優しく撫で、二人のところまで戻る。
光の大剣は既に【王者のタクト】へと戻っていた。
「レドウさん!今の剣、聖剣エクスカリバーでやすね?」
アルフの目がキラキラと輝いている。しかしおっさんが目を輝かせても何も嬉しくはない。
「ん?なんだエクスカリバーって?」
レドウの辞書に『エクスカリバー』の文字はなかった。
「おとぎ話にあるじゃない。光り輝く剣って」
レドウにひっついたまま離れないシルフィが助け舟を出す。しかし、知らないものは知らないのだ。
「王都では有名なおとぎ話ですが、レドウさんの生まれ故郷で知られている話かは分からないですね」
「あぁ、全く分からねぇ。そんなに有名なのか?」
アイリスに尋ね返すレドウ。
「いやぁ、あっしはあのおとぎ話大好きなんでやすよ。レドウさんの剣が光輝いているのを見た時、思わず童心に返り身震いしました。あれ、剣はどうしたんです?」
ここでアルフは剣が見当たらないことに気づいた。
「あれは俺の魔法だ。剣がなんだかは知らねぇが、魔法使いに不可能などない!」
「なるほど!じゃあおとぎ話もきっと魔法の光だったんですね」
レドウの適当すぎる説明で何故か納得しているアルフ。憧れの存在の登場で相当盲目になっているようだ。
「折角だからおとぎ話から名前をもらって、あの魔法の名前を『エクスカリバー』ってことにしよう。名前があった方がいいだろう」
アルフの熱狂振りに負け、剣(魔法?)の名前が決まった。
【王者のタクト】で創造した光の大剣の名前は『聖剣エクスカリバー』となったのだ。
落ち着いた四人は部屋を捜索する。
思っていた以上に冒険者の遺体が多く、十数人どころの話ではない。
既に白骨化しているものから、まだ腐敗が始まったばかりの遺体もある。
身なりも立派な鎧を身にまとっている者から、ちょっと前のレドウのように革の鎧だけの者。
魔法使いと思しき服装の女性の遺体の傍には壊れたタクトなどが散乱していた。
突然この部屋に転移させられ、出会い頭に地竜の攻撃をくらっては、熟練の冒険者であってもひとたまりもなかっただろう。
ここに地竜がいると知って、生還できた者はいなかったのではないだろうか。
『聖剣エクスカリバー』がなかったら、レドウたちだってどうなっていたか分からない。
アイリスはそれぞれの遺体に手を合わせつつ、使える武器や盾がないか探しているようだ。
彼女はこの戦いで剣も盾も失っている。間に合わせでもかまわないから必要だろう。
そういう意味ではレドウも聖銀の大剣に代わるような獲物を探したいところだが、さっきからシルフィがひっついて離れない。
そのままレドウの膝を枕にして寝てしまったため、ますます動けなくなってしまった。
ちょっと前までアルフが羨ましそうに見ていたが、彼も遺体に手を合わせながら遺品を捜している。
遺体調査と魔石収集、そして出口の捜索は二人に任せておけば良さそうだ。
どのくらい時間が経っただろうか。
レドウも少し寝てしまっていたようだ。
目を開けると、目の前ではアイリスが拾得物であろう剣と盾を構え、素振りをしていた。
「目が覚めましたか?レドウさん」
レドウの様子に気づいてアイリスが声をかけてきた。
よく見るとずいぶん立派な剣と盾を装備している。
「業物がありました。身につけていた鎧の紋章から、恐らく第五位パーン家に連なる騎士のものと思われます」
そういってアイリスが見せた剣は『デュランダル』と呼ばれる名剣だった。
ちなみに盾は立派に見えたが、装飾が派手なだけであって普通の聖銀の盾だった。
剣は持ち帰ってパーン家まで返却するそうだ。きっと喜ばれることだろう。
「あっしはですね。帰りの転移ゲートを見つけやした!」
アルフは両手に抱えるほどの大量の魔石を手に満面の笑みを浮かべた。
どうやら【王者のタクト】の転移魔法を使わなくても無事に戻れそうだ。




