第29話 地竜~その1
単純に大きく進化した大蜥蜴と言えなくもない。
実際のところ大蜥蜴の進化の先がこの地竜なのだろう。
だが、半二足歩行であることや鱗の立派さ。また発達してはいないが羽や角が生えていることなどが大蜥蜴と比較したときの大きな違いだ。
その巨体が予想を超えてすばやく動く。
レドウを目掛けて巨大で長い尻尾を振り回してきた。
前線に立ったレドウは跳躍してそれをかわす。
レドウが囮になっている間にシルフィとアルフは部屋の隅、ギリギリ当たらないところまで避難した。
数回その攻防が続いた時、悲劇が起こった。
テールスイングの丁度軌道上に、アイリスが転移してきたのだった。
結果、部屋に転移した直後にテールスイングの直撃を受け、ベキッという嫌な音とともに外壁に吹き飛ばされた。
「シルフィ、すぐに回復魔法だっ!」
「わかってるわ!」
外壁まで飛ばされた瀕死のアイリスに駆け寄ったシルフィは魔力出力を最大にした回復魔法をかける。
だが、なかなか回復しない。
出会い頭の一撃を無防備状態で食らったのだ。即死してないだけマシかもしれない。
諦めずにシルフィは出力最大の回復魔法をかけ続ける。
「アルフッ!光魔法の出力も最大だ!どんな攻撃も見逃さない光を放て!」
「あいよ!」
今度はアルフに指示をすると、レドウ自らもタクトを取り出して振るった!
(ヘルファイアランスッ!)
北の遺跡で巨大蜘蛛を屠った無慈悲の一撃だ。
だがあの時とは違って制御石Lv3という上限がある分だけ威力が足りないのか、地竜の鱗を突き破るには至らない。
その衝撃が若干地竜の歩みを鈍らせた程度だ。
「上等だっ!」
レドウは聖銀の大剣を握りなおして上段から斬りかかった。
強靭な後ろ足で立ち上がった地竜は右前足で受け止め、グァン!という耳触りの悪い鈍い音がする。
すかさず剣を引き、角度を変えて打ち込むと今度は左前足で横に払われる。
『グアアァォォォ!』
地竜が咆哮を上げると強烈なテールスイングがレドウに襲い掛かる。
辛うじて剣で受けるも体勢が整っていなかった分、身体ごともっていかれた。床に転がったレドウは直ぐに立ち上がり、シルフィたちの反対側へ走る。
「堅過ぎんだよっ!」
そのまま剣で地竜の後ろ足に斬りかかる。
だが硬い鱗で覆われたその後ろ足はやはりガン!という鈍い衝撃音とともに剣を弾いた。
「この攻撃で傷一つつかねぇってのは、気分が萎えるぜ!」
既に一撃でなんとかしようと思っていないレドウは続けざまに足に剣を叩きつける。しかしそんなレドウの足掻きをあざ笑うかのように、地竜はその後ろ足でレドウを踏み潰しにかかる。
気配を察したレドウはとっさに身体を翻して踏み潰し攻撃を交わしたが、直後のテールスイングを再び食らってしまう。
とっさに衝撃を逃がす方向へ飛ぶことで直撃は免れたが、ダメージは大きい。
「くそ。尻尾が厄介だ。あれさえ何とかできれば」
はき捨てるように愚痴るが、尻尾は硬質な鱗で覆われ一筋縄でいくようにも思えない。
攻め手に欠くレドウに今度は大口を開けた地竜が噛み付いてきた。
間一髪かわすが、あのような牙と顎で噛み付かれては、あっと言う間に全身の骨という骨が噛み砕かれてしまうに違いない。
「すみません、お待たせしました」
アイリスがレドウの隣にやってきた。
身にまとっていた白銀の鎧は砕かれてボロボロになっていたが、シルフィの治療魔法は見事にアイリスの怪我と体力を回復させたようだ。
むしろ砕かれた鎧こそが、アイリスを守ってくれたのかもしれない。
「見たかアイリス。ジラールの言っていた冒険者が帰ってこない要因が多分こいつだぞ」
「逃げ道もなさそうですし、間違いないですね」
アイリスが加わり、前衛が二人になったところで散開した。
とにかく周りを走り回ることで、狙いを集中させないように分散することが出来る。
「とにかく後衛の二人をターゲットにさせるな!」あれくらったら、後ろの二人はアウトだぞ!」
攻撃は依然として効いたと思われる有効打は見つからない。
そんな折、レドウの視界の端でタクトを構えるシルフィが見えた。
「よせ!狙われるぞっ!」
地竜の周りを円を描くように動いていたレドウだったが、一目散にシルフィのもとに駆けつける。
「イクスプロージョン!」
覚えたてのシルフィの必殺魔法が地竜の足に炸裂する。
『グギャアアアォォォォォ!』
地竜の怒号のような雄叫びが広間を揺るがした。
爆発魔法の炸裂した地竜の右前足の何枚かが剥がれ落ち、地肌のような黒い皮膚が見えていたのだ。
「効いた……の?」
怒り狂った地竜は、シルフィ目掛けて必殺のテールスイングを繰り出す。
まさに直撃するかと思った攻撃はシルフィのほんの1ルードほど手前で空を切った。
レドウが尻尾の付け根で受けたのがギリギリ間に合ったのだ。
「危ねぇ。しかし、おかげでこの尻尾の攻略法も見えたな」
「地竜の近くで回避ですね。踏み潰しには常に注意です!」
アイリスも地竜との距離を縮めた。
硬い鱗に聖銀のレイピアの突きは通らないが、アイリスは鱗を隙間を狙って刺しいれる。
『グガッ!』
この攻撃も効果があるようだ。アイリスの針の穴を通すように正確な剣の技術とレイピアという剣の形状があって初めて実現可能な攻撃である。
テールスイングも尾の付け根付近を盾で抑えることで最初のような爆発的な破壊力をキャンセルすることが出来た。
なんとアイリスは立て続けに連続で、このテールスイングをキャンセルさせている。一度見聞きしただけで体現するとは恐ろしい才能だ。
日頃の鍛錬があってこその結果であろう。
「いいぞ、だんだん流れがこっちにきてやがる」
パーティ内で最も堅いアイリスの防御が機能し始めたのを確認し、レドウは再び魔法の準備をする。
(さっきのヘルファイアランスは魔力抽出が雑だったが、これならどうよ。もいっちょヘルファイアランス!)
先ほどより魔元素の流れを圧縮した上で、再び地獄の火槍を放った。
が、しかし1発目となにも結果は変わらない。
「嘘だろぅ?!」
「レドウッ!」
シルフィが声を張り上げて呼びかけてきた。
「どうしたっ!」
「あの竜、火に耐性があるかも!」
シルフィの助言に、あぁなるほどと納得した。確かにその可能性は充分にある。が、検証している時間はないのが現実だ。
と、そのとき幾度となく攻撃を無効化された地竜が業を煮やし、アイリス目掛けて両前足を叩き付けた。
「グブッ!」
横の動きに警戒していたアイリスは突然の縦の攻撃をかわしきれず、盾を通してだがまともに直撃を食らった。膝と足に深刻なダメージを負ったのが目に見えてわかる。
レドウは反射的に飛び出し、アイリスを抱えて地竜の追撃を身を低くしてかわしつつ、シルフィの所まで戻ってきた。
「回復だ。俺が時間を稼ぐ」
「ごめんなさい。でも盾と剣が」
そう、盾は今の地竜の一撃を食らってひしゃげてしまい、地面に取り落とした剣は、今まさに地竜によって踏み潰されたところだった。
「武器や盾は、その辺に落ちてるやつを使うんだ。もしかしたら業物があるかもしれん」
それだけ伝え、レドウは攻撃の的を絞らせないよう地竜との距離を縮めた。
迷うことなくシルフィの爆発魔法によって鱗がはがれた足に狙いを定めて、思い切り叩きつけるように剣を振り下ろした。
『グギャアアアォォォォォ!』
傷口をえぐられ、怒り狂う地竜。
シルフィたちが攻撃目標とならないようなヘイトを稼ぐことは出来たが、地竜による嵐のような連撃がレドウの頭上から降り注いだ。
アイリスの前例を見ていたレドウは、出来るだけ受けずに攻撃をギリギリでかわしていく。しかしすぐに限界が訪れ、かわしきれない一撃を剣で受けた。
衝撃をまともに食らわないよう斜めに受けたつもりだったが、ベギッ!という嫌な音とともに聖銀の大剣は中ほどから綺麗に折れてしまった。
「まじぃ」
そんなレドウの様子を見た、地竜がニヤっと笑ったような気がした。




