第28話 トラップ
「よくやった!シルフィ」
「びっくりしました。これほどの魔法を使えるようになっていたのですね」
シルフィが得意げに胸を張った。
「これでパーティNo.1魔法使いの座は、私で決定ね!」
「いや、それはまだ譲れねぇな」
「……強がりは今のうちよ」
そんなやりとりを見ながらアルフが愚痴をこぼす。
「はぁ。あんたらやっぱり化けもんだよ」
ふっと雰囲気が和んだが、ここでアイリスが気持ちをしめなおす。
「まだ終わったわけではありません。この先の広間にまだたくさんの大蜥蜴がいます」
「よし、掃討戦だ!」
四人はやや広めの通路をすすみ、突き当りを右に折れたところで広間にたどり着いた。
「10……いえ、20はいますね」
「ひえっ、あまり多いのは勘弁願いたいです」
「望むところよ」
「初撃は任せて!」
さっとタクトを振り上げたシルフィは無数の光輝く矢を放った。こちらを確認し襲い掛かろうとしていた何匹かの大蜥蜴が直撃を食らって倒れる。
「真の魔法使いの威力を見せてやろう!」
レドウがタクトを振った刹那、豪火の壁が取り囲むように現われ、大蜥蜴の群れを焼き尽くした。
「これ、北の遺跡で使った魔法よね?」
「あぁ、扉のところでな。あいにく今はすぐ火が消えちまうが……な」
「充分よ!」
ぶすぶすと腐った肉の焼けた匂いが辺りに充満する。と、その匂いに釣られてか、その周りに倍以上の大蜥蜴が群れをなして集まってきているのが見えた。
「キリがないですね」
「わ、私も魔法で戦った方が良いでしょうか?」
おずおずとアルフが進言する。
「あぁ、じゃあよろしくな。ここなら雷光蟲がいるから光魔法は必須じゃねぇし」
「私だって皆さんに負けませんよ。マジックミサイル!」
振り上げたアルフのタクトから、光弾がマシンガンのように掃射された。威力こそシルフィの光輝く矢の半分にも満たなそうだったが、確実に大蜥蜴の足を捉えて機動力を奪った。熟練の技というところだろうか、狙いが非常に正確だ。
「おぉ、思ったよりやるじゃねぇか」
レドウはアルフの魔法で動きの鈍った大蜥蜴二体を切り伏せる。
そしてそのまま広間中心付近に踏み込み、奥の4体に向かって剣をなぎ払うと、レドウの攻撃を受けた大蜥蜴たちが吹き飛んだ。
だが、その時誰も予想し得ない異変が起こった。
レドウの姿がその場からフッと消えたのだ。
「レドウ?!」
「レドウさん??」
驚いて駆け寄ろうとする二人。しかし、襲いかかる大蜥蜴たちをかいくぐって近寄るのは困難だ。
そこへアイリスから指示が飛ぶ。
「いけません!レドウさんは心配ですが、こちらが隊形を乱して崩壊しては駄目です!まずは目の前の魔物を片付けましょう」
「おっけ!じゃあでかいのいくわ!」
シルフィは一歩下がりタクトをかざして魔元素を練り上げる。
「伏せて!イクスプロージョン!」
アイリスはシルフィの掛け声に合わせて手前の大蜥蜴にシールドバッシュを放ち、後方に身を投げた。
その次の瞬間、広間にシルフィによる大爆発が再び遺跡を震撼させた。
その場にいた大蜥蜴十数匹を巻き込んで灰燼と化す。
辛うじて爆発を逃れた数匹の大蜥蜴がいたが、これはアイリスがすぐに斬り伏せた。
「レドウは?」
シルフィは大蜥蜴が一掃されたことを確認し、広場の中央まで駆け寄った。
しかしそこにはレドウがいた形跡すらも見当たらない。もちろん爆発に巻き込まれた風でもない。
そう、彼は忽然とその場から消えうせていたのだ。
「もしかして、ジラール殿の言っていた失踪の原因って……」
「え。いやよそんなの」
ちょっと泣きそうなシルフィ。
やや考え事をしていたアルフが口を挟んだ。
「恐らくですが、遺跡に仕掛けられたトラップの一種じゃないかと思いやす。隠されているかもしれやせんが、その辺の床に起動スイッチみたいのないですかね?」
「待って。もう囲まれてるわ。大蜥蜴どんだけいるのよ」
シルフィの警戒を促す声にアイリスが構える。
「あった!多分これでやす!」
床をごそごそ探っていたアルフが声を上げた。
アルフが指し示す場所にだけ、手のひらほどの小さな石畳がはめ込まれている。
「サイズ的に一人ずつ行くしかないでやすね。この小さな床を足で踏むと、踏んだ人間にだけ作動するタイプのようでやす」
「アルフさんありがとう。助かります。私がしんがりを務めますので、順番に行きましょう。シルフィ?」
「わかったわ!私がまず追いかける!」
シルフィは振り返り、アルフの指し示す床を踏んだ。その瞬間、先ほどのレドウのようにシルフィの姿がフッと消える。
「ビンゴでやす。次あっしが行きます。アイリスさん、床の位置わかりやすか?」
「問題ありません。確認しました」
「では、次あっしが行きます!」
アルフが床を踏み、その姿をフッと消した。
「みんな同じ場所にちゃんと転送されていればいいのですが……」
そんなことが一瞬頭をよぎった。
アルフが『トラップ』という言葉を使ったからかもしれないが、人を別の場所へ強制的に転送させるようなトラップが、毎回同じ箇所へ転送されるとは限らないと思ったのだ。
(今はもう考えても仕方ないですわね。せめて『トラップ』ではなく古代の人々による移動手段であったことを願います)
やや躊躇したアイリスだったが、意を決しシルフィやアイリスと同様にスイッチ床を踏んだ。
その瞬間アイリスの姿もその場から忽然と姿を消す。
次の瞬間、彼女を狙って飛びかかった数十匹の大蜥蜴の爪と牙は空を切ったのだった。
……
少し時は遡る。
アルフの魔法で鈍った大蜥蜴にとどめを刺すため、レドウは群れの中に踏み込んだ。
まずは手前の二匹をうち最初の一匹を袈裟に斬り、もう一匹を左から右へ殴り斬る。その遠心力を利用し、さらに奥にいる四匹を身体を回転させるようになぎ払った。
手ごたえはあった。が、次の瞬間周りの景色が一変したのだ。
「なんだ??何が起こった。みんなはどうした」
周りには人の気配がなく真っ暗……いや、若干の雷光蟲がいるようだ。ほんのり部屋の中に光を感じる。しかし周りの状況を把握できるほどではない。
先ほど戦っていた大蜥蜴の気配もない。いや、何か睨め付けられているようなジトッとした視線を感じる。
最大の違いは、辺りに立ち込める強烈な臭いだ。肉の腐ったような異臭がレドウを襲う。大蜥蜴と戦っていた時とは比べ物にならないほど空気が張り詰めている。
「死臭か?!やべぇなこれ」
レドウはややすり足で静かに剣を構える。暗がりでよくわからないが視線の先を注意深く追う。
少し空気が動いた。
次の瞬間、右から強烈な衝撃がレドウを襲った。反射的に剣で受けるも壁まで吹き飛ばされ、叩きつけられる。
「んのやろう」
わき腹に激痛を感じる。今の一撃で少々肋骨が何本か逝ったかもしれない。
レドウが立ち上がろうと手をついたところには異物感がある。
良くは見えなかったが、鎧をつけた冒険者のなれの果てであった。
(これは本格的にまじぃ。ボスクラスの魔物の部屋に転送するデストラップかなんかを踏んだか?!)
こちらからは良く見えなくても敵からは見えていると仮定するなら、ゆっくり動いたりジッとしているのは悪手だ。激痛を堪え、すばやく立ち上がるとその場から右の方へ全力で飛びのく。
先ほどレドウがいたあたりで衝撃音がし、そこにあった遺体が砕けるような音がした。
(相手がキッチリ見えねぇことには話にならねぇ)
空気の動きと気配で攻撃のタイミングこそわかるが、最適な対処が出来ないのであれば結局いつかは終わりがくる。
と、そのとき自分と同じように誰かが転移してきたのがわかった。シルフィだ。
敵が新しい獲物と認識したのか、激しい空気の流れが起こる。
「シルフィ!あぶねぇ!」
間一髪、魔物の攻撃より早くシルフィに飛びつき床を転がって回避した。
「え?え?どういうこと?」
「敵だ!とびきり危険なやつだ。姿が見えねぇのがさらにやっかいだ」
まだ良くわかってない様子のシルフィにレドウが簡単に説明する。
と、今度はアルフが転移してきたのが見えた。シルフィをかばって体勢が崩れているレドウに対し、敵はアルフも更なる獲物として認識した気配がある。
「アルフ!後ろへ飛べ!」
レドウの怒号にも似た声に、アルフは反射的に身をかがめながら後ろへジャンプした。
恐らくギリギリで攻撃を回避出来たようだ。
「アルフ!光魔法だ!全力で照らせ!」
「わかりやした!」
アルフのいるあたりからまばゆい光が放たれ、部屋を照らしてゆく。
その光が部屋の内部と敵の全容を照らし出した。
「でかいっ!」
「巨大な蜥蜴?!」
「竜だ……」
レドウたちの前に姿を現したのは、大蜥蜴が進化したと思われる、巨大な地竜だった。




