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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第一章 邂逅
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第2話 来訪者

 冒険者ギルドの一日は長く、朝は早い。


 リズはカウンターの整理を終え、待合のテーブルを一通り拭き終わると、ほうきを手に外に出た。

 辺りはまだ暗く、タルテシュ中央交差点の街灯もまだ煌々と輝いている。


 もう一刻も経てば、東の空から白み始めギルドの朝もスタートする。

 依頼者や冒険者の来訪を待つのが仕事なのだから、気持ちよく訪れてもらうために毎朝の掃除は欠かさないのがリズのポリシーだ。


 鼻歌交じりでギルド前の中央通の掃き掃除をしていると、二名の冒険者が西門の方角からこちらへ歩いてくるのが見えた。

 流石に時間が早すぎるし、西門方面に冒険者たちの宿舎はない。


 リズは違和感を感じつつも、こういう都市なのでおかしなことだってあるだろうと気を取り直して掃除を再開した。

 そうしているうちに二人はどんどんリズのいるギルド前に近づいてきた。


 さっきは冒険者かと思ったが、本当に冒険者だろうか。

 リズは仕事柄たくさんの冒険者と会っているため印象の薄い冒険者もいるが、会った事があるかどうかくらいは感覚で分かるつもりだ。

 その感覚がリズに伝える。見知らぬ二人であり、冒険者登録をしていないと。

 となれば、ギルドに用事のある人間といえば依頼者しかいないだろう。よく見ると一人は小柄な女性のようである。


「ギルドに御用ですかぁ?まだ時間前ですけどぉ」


 リズはいつもの調子で二人に声をかける。

 すると背の高い方が目深に被ったフードを脱いだ。なんとこちらも女性だった。しかも驚くほど美人だ。


「そうでしたか。申し訳ありません。冒険者の方を探して訪れたのですが、時間まで待たせてもらってもよろしいでしょうか。

「どうぞぉ。中でお待ちください!」


 相手は非常に丁寧な物腰だ。リズの知る限り冒険者ではありえない。

 一人はフードで顔を隠しているし、貴族のお忍びかな。と適当にあたりをつけたリズはギルド内の個室応接に案内した。


「掃除が終わったら戻りますのでぇ」


 リズはそういって応接のドアを静かに閉めると、再びほうきを持って中央通に出た。すると今度は見知った女性が南側から近づいてくるのが見える。


「リーサさぁん!おはようございまぁす」

「リズさん。相変わらず早いですね」

「お客様はいついらっしゃるか分からないですからねぇ。あぁ、そうそう。実はもう一組いらっしゃっててぇ」

「え、そうなんですか?でもまだ開店前ですよね」


 リーサはリズの同僚で同じ冒険者ギルドの窓口担当だ。

 リズよりも年齢は上だが、リズの方が先輩である。


「大丈夫!私が対応するからぁ、リーサさんの窓口準備できたら教えてぇ」

「わかりました」

「対応が長引くかもしれないからぁ、今日の窓口しばらくリーサさんにお願いしちゃうかもだけどぉ?」

「お任せください。もう私だけでもほとんどのことは大丈夫です」


 そう言ってリーサはギルドの中に入っていった。

 ほどなくして、中からリーサの呼ぶ声かした。


「リズさん。準備できました。本日の業務開始です!」

「じゃぁ、しばらくよろしくね!応接の依頼者さんワケありっぽいからぁ、どうしても私が必要な面倒ごとが発生したらノックで教えてねぇ」

「了解です!」


 リズは冒険者登録帳と書かれた分厚いバインダーを手に取ると、先ほどの二人が待つ個室応接のドアをノックした。


「お待たせいたしましたぁ」


 中に入ると二人は応接のソファに行儀良く腰掛けていた。

 小柄な女性はまだフードを被っていた。よっぽどの状況なのか。それともただの恥ずかしがり屋か。


「今日はぁ、どんな冒険者をお探しですかぁ?」


 リズの言葉に美人女性さんの眼差しが真剣になる。


「恥ずかしながら、あまり資金がございません。ですので、出来れば安価で雇える方にお願いできたらと考えてます。ただ……」

「ただぁ?」

「いえ、あの希望の条件と金額がマッチしないと思うので、相談させていただけたらと考えてます」


 リズは女性の話を聞きながらメモを走らせる。


「タルテシュから少し離れた未踏の遺跡に向かう予定です。距離もありますので同行する期間などを考えると数日間の契約が出来る方が望ましいです」

「ふむふむ!でしたらぁ、未踏遺跡ということで探索者優先、もしくはぁ経験豊富な戦闘系ですねぇ。さらにに期間専属契約が出来る人ってことでぇ……」


 顔を上げたリズは、バインダーを手に取るとものすごい勢いでめくり始めた。と、思いきや突然その手を止めた。


「ちなみにぃ、戦闘系でしたらぁ戦士と魔法使いとどちらがいいかなぁ?」

「そうですね。出来れば戦士系の方で。でもいなければ魔法使いでもかまわないです」

「承知しましたぁ!」


 再びものすごい勢いでバインダーをめくり始めた。

 そして何枚かを引き抜いてテーブルに並べた。


「探索者でぇ、条件に合う人だとぉ、この辺ですね!安いところですとぉLv15くらいから2~3人紹介できそうですぅ」

「それはおいくらくらいなのですか?」」

「あぁぁ。ごめんなさいぃ。ギルドの価格設定をお伝えしてなかったでしたぁ。こんな感じになってまぁす」


 リズはバインダーの一枚目を引き抜くとテーブルに置いた。


 『依頼価格/日当』

 -------------------------------------------------

 初級:Lv 1~ 9 (Lv数)×100リル

 中級:Lv10~19 (Lv数)×100リル+補正金 500リル

 上級:Lv20~29 (Lv数)×100リル+補正金 1,000リル

 特級:Lv30~ (Lv数)×100リル+補正金 2,000リル

 -------------------------------------------------

 ギルド認定資格★1つにつき+補正金 500リル

 -------------------------------------------------

 御見積例)

 Lv 1 冒険者  : 100リル/日

 Lv 5 冒険者  : 500リル/日

 Lv10 冒険者  :1,500リル/日

 Lv15 冒険者  :2,000リル/日

 Lv20 冒険者  :3,000リル/日

 Lv25 冒険者★ :4,000リル/日

 Lv30 冒険者★★:6,000リル/日

 -------------------------------------------------


「ですのでぇ、今ご紹介できる最も安い探索者ですとぉ、2,000リル/日からになりまぁす。期間専属契約でぇ、例えば五日ですとぉ10,000リルってことですねぇ」

「そうですね、私たちの予算では残念ですが高いです。戦闘系ではどうですか?」

「お待ちくださぁい!」


 またもリズはバインダーを恐ろしい勢いでめくり始めた。が、登録者シートを引き抜くことなくパタリと閉じた。


「んー。安い登録者さん。いることはいるんですがぁ、Lv5以下の方たちばかりなんですよぉ」

「何か問題が?」

「実はぁ、ギルドの規定でLv5以下の冒険者は近隣の遺跡で経験を積むこととしてましてぇ。単日契約のみなんですよぉ。期間専属契約となると結局Lv13の戦士くらいから……あ!」

「どうしました?」

「うん。普段はあまりお勧めしないんですがぁ、一名適任がいましたぁ!」」


 リズはバインダーの下の方から一枚の冒険者登録証を引き抜いた。


「この人なんですけどぉ、Lv3の魔法使いなので300リル/日になりますぅ」」

「でもLv3ではギルドの決まりに違反してしまうのでは?」

「この人はぁ、特別です!もともと戦士登録でLv12を獲得してるんですけどぉ、魔法使いで登録したいって戦士をやめちゃったんですぅ」

「……」

「そーんな変な人誰も雇わないじゃないですかぁ。だから魔法使いで登録してからぜーんぜん実績が上がらなくてぇ、まだLv3なんですよぉ」

「大丈夫なんですか?その人は」

「遺跡探索冒険者としてのしての実力は保証しまぁす。変な人で頑固で扱いにくいってことさえ我慢できれば破格かなぁ。会ってみますぅ?」


 美人女性さんは腕を組んで思案していたが、リズの方を見た。


「予算的に他に選択肢はなさそうですし、先に会っておけるならお願いしたいですね」

「わかりましたぁ!こちらへ呼んできますのでぇ、少々お待ちくださぁい!」


 リズはそう言って個室応接を退出した。


……


 ミライド亭の昼下がり。

 いつもの場所にいつものレドウ。


「マスター!いつものエールおかわり!」


 レドウの声もいつもの通り。


「今日は四杯までだからな。分かってるだろうが。ちなみにこれ二杯目な」

「わかってるさ。マスターも細かいな」

「普通だ!普通!」


 不機嫌そうにカウンターに戻るマスターを見ながら、レドウが手元に来た二杯目のジョッキに手を伸ばしたその時だった。


 バタンッ!と大きな音をたててミライド亭のドアが開くと、一人の女性が飛び込んできた。


「マスタァ。レドウいるぅ?」


 リズだ。

 マスターは無言で左手の親指を立てると、いつもの彼の特等席をクイっと指した。


「なんだ。リズ、騒々しいな」

「あんたに依頼だよぉ」

「おぉ。そうか。わざわざどうも」


 特に動こうともしないレドウのところへリズがつかつかと近寄る。


「ほら、いくよぉ。依頼者さん待ってるんだからぁ」


 レドウの左腕をむんずと掴むとリズは力任せに席を立たせようとした。


「わ!バカ!まだ飲んでんだよ。あ、こら!ひっぱるな。どんな怪力だよ」

「ごちゃごちゃうるさぁい。さっさと行くのぉ」


 テーブルにしがみつこうとするレドウをなおも強引に引っ張り出口の方へ引っ張っていくリズ。


「なんてことすんだ。俺のエールが!まだ飲んでないんだぞ!……あ、マスター!二杯目ノーカウントな!」


 レドウはリズに引きずられながら、せこい捨て台詞とともにミライド亭の外に消えていった。


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