第27話 第三区画
レドウは驚いていた。
シルフィの魔法の威力に。だ。
(吸血蝙蝠の動きが鈍ればいい。くらいに考えてたが、やるじゃねぇか。この調子なら名実共にダブルウィザードでいけるかもしれん)
アイリスの頭上から襲い掛かろうとしていた大蜥蜴を切り捨てながら、そんなことを考えていた。
「アイリス、気をつけろ。らしくねぇぞ」
「すみません。ここから先は第三区画……つまり深層域の入り口ですよね。ジラール殿の警告を改めて心に留めて戦います」
「お?おぅ。そうだな」
すっかり忘れていたレドウだった。
それにしても聖銀の大剣はレドウにとって非常に使い勝手がよかった。
使用者にはあまり重さは感じられないが、敵対象にはしっかり重さが乗るというすばらしいウェイトバランス、剣自体の強度、そしてラウルの手入れによる素晴らしい切れ味。この三点が見事に融合していた。
吸血蝙蝠の処理は完全にシルフィに任せ、どんどん集まってくる大蜥蜴を斬り伏せてゆく。
一刀で大蜥蜴を屠れるこの状況が非常に心地よい。
ついアイリスに任せたはずの獲物まで倒してしまった。
大蜥蜴の群れの奥まで攻め入り、後ろのメンバーから少し離れたところで、レドウは【王者のタクト】を取り出した。
一つ確かめておきたいことがあったのだ。
(タクトよ。魔物の体内にあるコアから魔元素を吸収せよ!)
レドウはそう命じて【王者のタクト】を振りかざした。
しかし何かが起こった様子はない。これまでと変わらない大きさ、膂力で大蜥蜴が襲い掛かってくる。
(タクト、魔元素は吸収できたのか?)
《お答えいたします。魔元素は吸収できておりません。》
(なぜだ?)
《お答えいたします。魔物化して生物となっている魔元素は変質しており、純粋なエネルギーとして利用できません。》
(じゃあ、吸収して弱体化させたり……ってことはできないんだな?)
《知識解放レベル1の範囲でお答え致します。原則できません。》
(できる方法があるって言ってるようなもんじゃねぇか)
《お答え出来ません。現在の知識解放レベルは1に限定されております。》
(……融通きかねぇな)
とりあえず『(現時点では)魔物の魔元素を吸収して弱体化することはできない。』という実験結果を得たレドウは再び大蜥蜴狩りを再開したのだった。
……
「おぃ……レドウさん、奥行っちまったけどいいんでやすか?」
やや慌てた様子でアルフが訴える。
戦う相手を完全にレドウに取られた形のアイリスは振り返った。
「レドウさん自身の心配は要りませんが、過去似たようなことがありました。嫌な予感がしますね」
「えぇ?また巨大化するの?」
シルフィがあからさまに嫌そうな表情をする。
「この南岸遺跡というところ、冒険者の往来が多いので元々は心配してなかったのですが、実際に冒険者が多くやってくるのは第二区画まで。つまりこの先は北の遺跡と変わらないほどの魔物がいるということです。充分にありえます」
会話を振ったはずのアルフを完全に置いてきぼりにした二人だったが、アルフが追いついてきた。
「よ、よくわからねぇがよ、このままにしとくのはマズイってことですやね?」
「すぐに全員でレドウさんを追いかけたいところですが、まだ吸血蝙蝠がかなり残ってます。シルフィ、しばらくここをお願いできますか?」
「もちろんよ!」
アイリスの問いかけに、今も魔法を放ち続けているシルフィが答える。
「私がレドウさんの様子を見てきます!」
アイリスは駆けた。
通路を抜け、やや広めの部屋の中央辺りでレドウを視界にとらえる。
なぜ視認できる明るさが確保出来ているのか不思議に思ったが、雷光蟲がいないのは人の往来の多い第二区画までであり、このあたりまでくると南岸遺跡にも北の遺跡と同様に雷光蟲がいるようである。
ともかくアイリスが確認したレドウは、何やらタクトを振りかざしていた。
大蜥蜴たちの猛攻をかわしながら、という点においては余裕すら感じさせる動きであったが、アイリスには何をしているのかよくわからなかった。
数回振りかざし、何も起こらないことを確認?したレドウが再び剣をとって戦い始める頃、アイリスはレドウのもとに合流した。
「レドウさん、お待たせしました。こんなところで何を?」
「アイリスか。いや、ちょっと【王者のタクト】の効果について実験したくてな。まあ今回は失敗だったが」
「そうだったんですね。で、人目につかない……特にアルフさんの目の届かないところまで進出したとわけですね」
アイリスは納得したようだ。
「ところであとの二人は?」
「いま、シルフィが吸血蝙蝠を任せてきてます」
「ほぅ。ここの魔物数体を一人で抑えられるってのは、相当な使い手に成長しているな」
「ええ。でもシルフィは基本的に非戦闘員です。あまり長い間一人にするのは危険です」
「わかった。じゃあ少しずつ戻ろう」
襲いくる大蜥蜴たちを斬り倒しながら、二人はシルフィのところまで少しずつ後退を始めた。
だが、その時二人の背後から凄まじい大轟音を遺跡中に響かせるほどの大爆発が起こったのだ。
「「シルフィ!」」
顔を見合わせた二人は大蜥蜴の群れを無視して駆け戻った。
……
シルフィは楽しんでいた。
頼られるのも気分が良かった。
半分商人とはいえ数年冒険者として過ごしてきたアルフよりも、自分の戦闘力が明らかに勝っていることも優越感の一つだった。
「すごいっすね。相手が第三区画の吸血蝙蝠だとはとても思えねっすよ」
「ふふん。でしょう?これならもうレドウに大きな顔はさせないわ」
そう言いつつ吸血蝙蝠に対して火球を打ち続けていた。
「シルフィ……さん?なんだか吸血蝙蝠の数、増えてやしませんかい?」
アレフの言うとおり、シルフィに襲いかかってくる吸血蝙蝠の数が心なしか増えてきている気がする。シルフィの魔法は確実に倒しているのに敵が増えているのだ。次から次へと集まってきているのかもしれない。
「シャイニングアロー!」
既に、火球から光輝く矢に切り替えて、複数の吸血蝙蝠を撃破し続けている。それでもなお増えているように見えるのだ。
「こ、これ区画内の吸血蝙蝠が群れを成して次々集まってきているんじゃ」
アルフの泣き言を聞きながら、シルフィは北の遺跡で大量に集まってきた犬魔物が魔犬に進化をしたことを思い出していた。
「アルフ、吸血蝙蝠たちが共食いをしていないか見張ってて!」
なぜそんなことを聞くのだろうと怪訝そうなアルフだったが、周りを見回してそれっぽい行為をしている魔物はいないことを確認する。
「そういった魔物はいなさそうですよ」
「ありがとう!じゃあ、試してみたいことがあるから、身をかがめてて?」
そういってシルフィは改めてタクトを構えた。
光の元素石と火の元素石の両方から、魔元素が流れ、二つが融合するイメージを明確に練り上げていく。
「イクスプロージョン!」
シルフィの掛け声とともに突如吸血蝙蝠の群れの中心に光の球が現れたかと思うと、吸血蝙蝠の群れを一斉に巻き込む規模で大爆発が起こった!
この爆発で、集まっていた吸血蝙蝠の全てを倒し切ったようだ。
「や、やったわ。光と火がある程度の規模でコントロール出来るなら理論的に可能だと思ってたのよね」
「爆発魔法??」
「私のオリジナルよ。光と火の魔元素を同量で融合するの」
「そんなことできるわけが、聞いたことないでやすよ。一種類の魔元素を扱うだけだって大変なはずなのに」
ぶつぶつと呟くアルフを尻目に、シルフィは満面の笑みを浮かべた。
(そうかしら?やはりレドウより私の方が天才のようね)
元の場所に戻ったレドウとアイリスが最初に目にした光景は、自信満々のシルフィと頭を抱えてしゃがみこむアルフの姿だった。
「いったい何があったのですか?」
問いかけるアイリスにシルフィがVサインで返してくる。
「私の必殺技が炸裂したのよ!ここに魔物はもういないわ!」
シルフィがにかっと笑いかけた。




