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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第二章 神器を求めて
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第25話 アルフ

 宿場町ウィードルを出た魔導車が河岸の村リーデルサイドに到着する頃にはすっかり暗くなっていた。


 リーデルサイドは農業が盛んな村であるため、朝も夜も早い。

 最近では『村』というよりも『町』と言っていい発展を遂げているが、それでも村民の生活時間サイクルが大きく変わることはなかった。

 敢えて言えば、行商人や南岸遺跡を求めてやってきた冒険者が遅くまで活動しているのだが、そもそも暗くなると共に村の集落としての機能が低下するため、結局大きな変化は今野ところないようだ。


 レドウたち三人も到着するなり早々に宿をとり、夕食後はすぐに就寝した。

 そして翌朝。


「なにこの景色!すごい!」


 シルフィから感動の声があがった。


 リーデルサイドは、文字通りリーデル大河の河岸に位置する村であるわけだが、まずそのリーデル大河が圧巻である。

 『大河』の名に恥じない規模の流域面積を誇り、少なくともリーデルサイドから対岸は見えない。

 そのため、海沿いにいるかのような錯覚を起こすほどだ。

 

 しかし、視線を右……つまりリーデル湖の方へ向けると、ここが間違いなく大河の岸であることがわかる。


 なぜならリーデル湖から流れ出る水は、何段もの大規模の滝となって対岸まで続いているからだ。

 海のような広がりを見せる広大な水面と、地平の先まで続く壁のような大滝を見られるのはこの地リーデルサイドの名物とされるほどの絶景であった。


「噂には聞いてましたが……これは本当にすごいですね。見ていて飽きない絶景です」


 アイリスもその景色に目を奪われているようだった。


 雄大な景色を眺めながら朝食を取ったあと、レドウたち三人は南岸遺跡へと向かった。


 南岸遺跡はやや上流、リーデルサイドを基準にして最初の滝のあたりにある。

 遺跡目当ての冒険者もだが、絶景目当ての観光客もいるため、遺跡までの道のりで人が途絶えることはなかった。

 冒険者の登竜門として紹介されていることもあってか、この土地特有の声かけをしている人々がいるのも特徴的だ。


 というのは、リーデルサイドから南岸遺跡に向かう道すがら冒険者向けに『遺跡内地図』を売り歩く人や『遺跡案内』の売り込みをかける人のことである。

 『遺跡内地図』は名前の通りの物を売っており、ただの地図から出現する魔物の種類や注意点などの書き込みがあるものまでバリエーションは豊かだ。

 『遺跡案内』については、歩く地図と言っても過言ではなく、戦闘補助もできることから主に初級冒険者向けに売り込みをかけているようである。


 『地図』どおりの探索を予定していないうえ、戦闘補助も不要なレドウたちにとっては道中の声かけは邪魔なだけだった。


「これ……ジラールさんたちもこの声かけの嵐を抜けていったのでしょうか」


 普段冷静なアイリスも流石に疲れた表情で呟いた。


「どうだろうな。あいつは冒険者内ではかなり顔が売れてるから、需要がないと見切って声かからないんじゃねぇか」


 そういいつつレドウも疲れ気味だ。ひっきりなしに寄ってくるため、あしらうのが本当にうっとうしい。なんとか道中を切り抜け、やっとのことで遺跡の入り口前の広場までくると、売り込みは落ち着いたようだ。

 彼らの中でも営業をかけて良い場所について協定でもしかれているのかもしれない。


 南岸遺跡の入り口は『闇の祭壇』のあった北の遺跡の入り口と異なり、扉は開け放されたままになっている。レドウは扉の表が見えるところまで移動してその模様を眺めた。シルフィが一緒についてくる。


「これ、間違いないわね!北で見たのと一緒よ」

「そうですね。でもどこに仕掛けがあるか不明だから慎重に進みましょう」

「目指すは……礼拝の間。だな」

「?それはいったい?」


 アイリスが初めて聞いたという風にレドウを見る。


「あぁ、言ってなかったか?祭壇の間に続く扉のある部屋の名は『礼拝の間』だ。北の遺跡で蜘蛛と戦った部屋の名前がそうだ」

「なるほど……では目指すはその部屋ですね」

「ねぇちょっとあれ……」


 シルフィが指差す先には例の古代文字らしき記号が刻まれていた。


「レドウ、読める?」

「ちょっと待てよ……。あぁ読めるな」

「なんと書いてありますか?北の遺跡の時には、結局入り口の文字を読まずに戻ってきてしまいましたが」

「読むぞ。『来訪者……告ぐ……水……求めよ』だな」


 シルフィとアイリスの目が輝く。


「これは本当に間違いないですね」

「あれよね『水の祭壇』がここにある。ってことよね」

「じゃあ入るぞ」


 三人は確認しあう様にうなずき、遺跡の中に足を踏み入れた。


 南岸遺跡が北の遺跡と大きく異なるところ。それは大きく二つ。

 雷光蟲の気配が一切ないということ。それからいたるところで冒険者の光魔法が輝いているため、レドウたちが光を出す必要がないということだ。


「人の気配であふれてるな。この様子じゃ魔物なんて駆りつくされてほとんどいないんじゃねぇか?」

「ちょっと失敗しました。追い払うのに必死でしたが、遺跡の構造がわかるだけでも『地図』くらい買っても良かったかもしれないですね」

「いや、いらねぇ」


 レドウが遺跡の構造地図を開いた。


「これは、ジラールが駆け出しの頃に書き起こしたこの遺跡の地図だ。もっともやつは当時のことなど覚えちゃいないだろうが」

「すごい……。売込みが見せてきた地図よりよっぽどしっかり書き込みされているじゃないですか」


 この地図はジラールが遺跡探索者として修行をしていた頃、自身のアイデアを駆使して書いたものだった。

 『レドウが南岸遺跡に行くことがあったらこれを使ってみてください。きっと役に立つはずです。』と、初めて書いた地図を託されたのだった。

 結局のところ、レドウが南岸遺跡を訪れることはなく、現在に至る。


(入魂の一作、有効活用させてもらうぞ、ジラール)


「でだ、この遺跡地図によるとこの遺跡は階層ではなく区画毎にまとまっていることがわかる。この四つ目……仮に第四区画と呼ぶが、この奥のこの部屋。ここが怪しくないか?」


 アイリスが地図を覗き込み、うなずく。シルフィは地図が苦手なのか見ようともしないが、まあ信頼してくれているのだろう。


「じゃあここに向かうぞ。途中の道はちょっと不明だけどな……」


 三人は第四区画の奥の部屋を目指して探索を再開した。


……


(まずい、まずいぞ……。こんなはずじゃなかった。こいつらここまで貧弱だったとは)


 ジラールの地図でいうところの第二区画の入り口。

 一人の冒険者風の男がトカゲ風の魔物に囲まれてあせっていた。

 タクトを構えつつ体術で魔物の攻撃を紙一重で交わし、なんとか繋いでいたがかなりまずい状況だ。


 実際、彼の周りには喉を食い破られて絶命している冒険者の遺体が三体、物言わぬ躯となって転がっていた。


 実はこの男、初級冒険者に『遺跡案内』を売り込んだ冒険者兼商人である。

 第一区画に出現する蝙蝠型の魔物までは顧客であった初級冒険者たちも対応できていたのだが、蝙蝠型魔物では魔石収入がほとんど見込めないため男は第二区画の蜥蜴(リザード)を提案したのだった。

 しかし、初級冒険者たちは第二区画で戦える力量をもっておらず、足を踏み入れたとたんこの男以外が全滅したのだった。

 顧客の力量見極めに失敗しているあたり『遺跡案内』としては当然失格であるが、前金でもらっているため逃げ切れさえすれば勝ちだと考えていた。


 だがそんな男の考えをあざ笑うかのように蜥蜴(リザード)たちは次々と仲間を増やし、男の退路を絶ち、集団で食いかかろうとしていたのだった。


(くそ。こんな時ほど周りに助けになる冒険者がいないとは……。だが、こんなところで終わるわけには……)


 男の戦闘手段はタクトによる魔法攻撃が主流なのだが、光魔法(ライト)で遺跡の照明に使用していたため、攻撃手段にも欠いていた。

 鍛え上げた体術でかわし続けていたのだが、攻撃ができているわけでないため蜥蜴(リザード)たちが血の匂いに誘われて集まってきていたのだ。


 ここで男は一つのミスをする。蜥蜴(リザード)の攻撃を避け、着地しようとしたところに蜥蜴(リザード)の尻尾があり、バランスを崩したのだ。


(やばい!)


 男が覚悟を決めたその瞬間凄まじい炎の柱が立ち上り、周りにいた蜥蜴(リザード)たちを焼失させたのだ。

 いままさに男に襲い掛かろうとしていた蜥蜴(リザード)たちの動きが止まる。

 その一瞬の機を逃さず、一人の女性剣士が炎を逃れた蜥蜴(リザード)たちを切り裂いていった。


(……やった。あっしはまだ天に見捨てられてやしなかった。明らかにこいつらとは違う手練の冒険者の助けだ……)


 ほっとした男はすぐに立ち上がると戦闘域を離脱し、魔法がとんできた支援部隊と思われる二人のところにたどり着いた。


「た、助かりやした。ありがとうございます」

蜥蜴(リザード)ごときに手間取ってんじゃねぇぞ。ここで手が出ないならこっちの区画に入らん方がいい」


 男に話しかけてきたのは、大剣を背負った筋骨隆々の大男だ。だがタクトを構えているあたり、先ほどの炎の柱はこの男が放ったのだろうか。


「そんな冷たいこと言わないの。きっとこの人はあそこで倒れてる人たちの仲間よ。半壊してたら立て直せないことくらいわかるでしょ」


 そんな大男を嗜める少女がいた。この少女も相当立派なタクトを構えている。もしかしたらこちらの少女の魔法だったのかもしれない。


「いやいや、とんでもねぇ。ミスったのはあっしらだ。助かりやした。まだお連れの剣士様は戦ってらっしゃるようですが?」

「大丈夫よ。あとはアイリスに任せておけばこのへんの蜥蜴(リザード)は殲滅できるわ。この光魔法(ライト)は貴方が?」

「えぇ。そうです。消せば私も戦えるのですが……」

「問題ねぇ。そのまま照らしててくれ。そのうちアイリスが戻ってくるはずだ」


 大男はそういって、特に何かをするわけでもなく手に持っていたタクトを腰に挿した。


「……あ、申し送れました。あっしは『遺跡案内』をしておりますアルフと申します。改めて、助けて頂きましてありがとうございやす」

「そうか。俺はレドウだ」

「『遺跡案内』っていうと……じゃああそこの魔物にやられて倒れている冒険者さんたちは……」

「はい。あっしのお客様……ですね。ですが、この区画に入るなりやられてしまいやして……。腕を過信してらっしゃる方たちでして、入るのはお止めしたのですが……」


 アルフは死人に口なしとばかりに自己擁護を始めた。実際は嘘であるが、この際レドウたちにはどうでもいいことだろう。


「遺跡に入る以上いつでも命の保障がないことは理解して入ってるわけだし。仕方ないわよね」


 シルフィのドライな反応にアルフは少しほっとした様子だ。


「で、そいつらはなんかいいもんでも持ってるか?ここに放置したところで仕方ねぇ。ギルドの作法として遺体の持ち物の再利用は認められているしな」


 レドウが倒れた冒険者たちの様子を探った。

 恐らく荷物管理をしていたと思われる男の懐から金貨1枚、銀貨3枚、小さな魔石5個を発見し、懐に入れた。


 レドウの言い方には語弊があるが、ギルドとしては冒険者の命を最優先し、下記3箇条を定めていた。


 ・遺跡で命失われた遺体は捨て置くこと。

 ・遺跡で魔石を放置しないこと。

 ・遺体が所持している金品は、発見した遺跡探索者の報酬と認める。


 もともとの基準は『遺跡内に魔石を放置すると魔物の(コア)となってしまうため、遺体を調査してでも必ず持ち帰る』ことを規定していたのだが、じゃあその他金品はどうするんだ?貴重な装備品はどうするんだ?などと冒険者たちから質問があり、ギルドで行動規範を規定した。というのがことの経緯だ。

 レドウがジラールから買い取った聖銀(ミスリル)の大剣も、こうした経緯でジラールが遺跡から持ち帰ったものである。


 しばらくするとアイリスが第二区画の奥から戻ってきた。


「この辺りの魔物は一掃しました。魔石化を待って回収しましょう」


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