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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
最終章 最後の戦い
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第218話 ドールのタクト

「なんで!どうしてわたしたちだけなの!レドウは!どうしてレドウを置き去りにしたのっ!」


 シルフィが『ドール』に食ってかかっていた。

 時間がなかったためではあるが、ろくな説明もせずにシルフィ達三人を転移させた『ドール』が《危険だから退避した》としか伝えなかったためだ。ちなみにここは城塞都市シーランではなく、例の南岸遺跡の秘密基地である。


《ごめんね。でも本当に時間がないのさ。ボクもすぐにあの場に戻らないと……って、そんな。思ったより魔導エネルギーの乱れが激しい。座標の特定が……》


 シルフィへの説明もそこそこに『ドール』はすぐに転移で戻ろうとしたが、上手く戻れないようだ。その場にいる者の中では『ドール』以外にトラブルの内容がよくわかっていないのだが……。


「ねぇ!お願い。教えて!『ドール』はレドウと同じように《創造魔法》が使えるんだよね?それが闇属性魔法であることは私も知ってる。闇属性魔法って魔元素石があれば私にも使えるの?私にはどうしても使えない?お願い!力になりたいの」


《いま忙しい……けど、今すぐに転移出来なさそうだから説明するよ。でも準備出来たらすぐに移動するからね》

「それでいい。お願い!」


 シルフィは険しい表情をしている『ドール』に懇願する。この瞬間も『ドール』は魔導力エネルギー観点での転移先座標を演算子続けているようだ。


《結論から言うと、魔晶石レベルの魔元素含有量では《創造魔法》は扱えない。闇属性魔法は燃費が悪いんだ。最低でも聖魔石……いや聖魔晶でないと効果が出ないかも》

「じゃあ、あのロイは何で使えるの?まさか神器(アーティファクト)でもない闇属性の聖魔晶を持ってるの?」


《そういうことになるね。持っている理由は分からないけど、権力は自由だったみたいだから、研究者に開発させたんじゃない?》

「……そんな簡単に開発できるもの?」


《ん……難しいと思うけどね、でもウィンガルデで最初に戦った時に既に《創造魔法》を使ってたから、その時点で手にしていたと思うよ。(おおやけ)にしてなかっただけで、もともと開発してたんじゃない?》

「そう……いえ、そうとしか考えられないってことね」


 シルフィの言葉に『ドール』が頷く。シルフィは少し考える素振りを見せる。


「で、じゃ質問を変える。もし聖魔晶があったなら、私は使えるの?いえ、使えると思う?」


《……使える。それは間違いないよ。ボクの見立てでは、魔導力の制御に関してはマスターよりシルフィの方が扱える総量が多いし、精密な制御が出来てると思う。あと足りないのは……》

「足りないのは?」


 シルフィがオウム返しに質問する。


《うん、足りないのは《創造魔法》を扱うためのイメージ力。マスターはこれが突出してるんだ。このイメージ力があるから、少々の魔導力操作の雑さがあっても全てカバー出来ちゃうんだ……どうしよう、全然座標が絞れない》


 『ドール』は焦りを口にした。

 ただ、シルフィと会話しているから出来ない……という訳ではなさそうである。


「提案があるの。まず確認だけど、『ドール』はレドウを助けるために戻りたい。でも魔導力の乱れがあって……それはレドウとロイが魔導力による戦いをしているから……だよね?で、『ドール』はそれのせいで戻れないでいる。合ってる?」

《合ってる》


 『ドール』の回答が予想したものであってシルフィの表情がホッとしたものになる。


「私は……実は、私には魔導力の流れを追うことで、多分だけどレドウの位置が見えている。で、ここからが提案……といっても出来るかわからないけど、もし私が『今すぐ闇属性魔法を使いたい』って言ったとしたら、その手段はある?もし使えるなら、私がレドウのもとへ『ドール』を連れて行けるんじゃないかって……」

《出来る。手段はあるよ。でも一つだけ間違ってる。シルフィが助けに行ったのなら、ボクじゃなくてシルフィがシルフィ自身の力で助けなきゃいけない。理由は手段の説明をしたらすぐに分かる……けど、そんな危ない橋を渡らせるわけには……》


 シルフィは『ドール』の手を握るとジッと『ドール』を見つめた。


「大丈夫。レドウの為になることなら何でもやる」


 どうやらシルフィの決意は固いようだ。『ドール』から『闇属性魔法』……ようするに《創造魔法》を使える手段があると聞き、より覚悟が決まったようである。


《分かった。じゃあシルフィに任せる……けど、これだけは伝えておくよ。マスターとロイは《創造魔法》の奥義……《物質魔元素化》のせめぎ合いをしている。あの場に行けたとして、ロイの奥義に抵抗しないことには、全てが……シルフィ自身も魔元素に分解されて消滅する。それでもやる?》


 シルフィは無言で頷く。もはや迷いなどはない。


《じゃあこれを使って。これなら《創造魔法》が使えるから》


 そう言ってカランという音と共に一本のタクトが地面に転がった。同時に『ドール』の姿がその場から消えていなくなった。


「え……これ?もしかして」


 シルフィは地面のタクトを拾い上げる。すると、突然シルフィの頭の中で『ドール』の声が響く。


《こうしないと会話出来ないからさ、一時的に魂回路(ソウルコネクト)を繋がせてもらったよ》


 そう、シルフィの考えた通り急に現れたこのタクトは『ドール』が変化した物だった。


《【ドールのタクト】とでも呼んでよ。さ、そんなことよりさっさとマスターを助けにいくよ。本当にシルフィに座標が特定出来ているなら……って本当に出来てた。凄い》

(……これ、考えただけで『ドール』に意思が伝わるのね?)


 すぐにシルフィは魂回路(ソウルコネクト)に馴染んだようだ。


「アイリス、留守を頼みます」


 シルフィはベッドに寝かせたジラールと、看病しているアイリスに声を掛けた。一連のやり取りを聞いていたアイリスはおよそ話の流れが理解出来ている。


「気をつけてください」


 アイリスの言葉に力強く頷くとシルフィは【ドールのタクト】で《イメージ固定化》という魔法を創り全身に巡らせる。シルフィが考えた《物質魔元素化》に対抗するための魔法である。身につけているものを全体を正確にイメージし続けることは難しい。《イメージ固定化》は、これを補助するために創ったシルフィのオリジナル魔法で、この魔法で記憶した物質は術者の意識内で投影し続ける事が出来るという、支援魔法だ。


《凄い!たったあれだけの説明で脅威を正確に理解しているし、もう使いこなしてる》


 意識内で驚く『ドール』。


「じゃあ、いくわ」


 シルフィはレドウのもとへ飛べる転移ゲートを創ると、【ドールのタクト】の出力を最大にしてゲートをくぐった。


……


 一方のレドウ。

 ロイによる《物質魔元素化》が引き起こす《魔導力》の嵐の中で、一人抵抗し続けていた。


 抵抗発動の最初こそ《物質魔元素化》のエネルギーに耐えきれず片刃剣(ファルシオン)を失ってしまったが、その後は《物質魔元素化》に抵抗するという行為自体に徐々に慣れてきた。要するに【王者のタクト】の出力を全開にしながら、自分自身をイメージし続ければいいだけのことである。

 ただ、これは口で言うだけは簡単だが、実践しようとしても普通は(・・・)すぐに出来る話ではない。人のイメージなど非常に難しいのである。


 この辺に『ドール』の言うレドウの特技……イメージ力の強さが現れているのだが、当のレドウ本人にとっては『呼吸をする』のと同じくらい自然に出来ることである。


 気持ちの余裕が出来てきたレドウは、去り際に『ドール』が言っていた『こちらからの攻撃』を試みる……が、これはどうも上手くいかない。

 恐らくはロイの《物質魔元素化》攻撃に抵抗するために制御している魔導力の総量が、レドウが制御出来るほぼ全力であるということらしい。自分自身を創造する為のイメージという点については余裕があるのだが、魔導力操作という意味ではギリギリの水位であったようだ。


(しゃあねぇな……攻撃出来る余裕がないなら、こうして耐えているだけしか出来ねぇってことか。それにしても『ドール』のやつ遅ぇな)


 なかなか戻ってこない『ドール』をレドウは気にかける。

 レドウは知るまいが、このときこの地は魔導力による赤い光が嵐の中のような奔流となり、渦を巻いて埋め尽くしていたのだ。魔元素エネルギーが『不安定』どころの騒ぎではない。『ドール』がいつもの調子で転移先座標を特定出来なかったのは、無理のないことであったのだ。


 だが、シルフィは違った。

 遠方ではあったがあまりに巨大な魔元素エネルギーであったが故に、その存在を認識でき、かつ全体を渦として正確に捉えたためその中心にレドウを確認するに至ったのだ。


 ロイの攻撃への抵抗に慣れてしばらく経った頃、レドウのすぐ近くに転移ゲートが現れ、ゲートからシルフィが現れたのだった。

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