第20話 王都でお買い物~その2
やや肩をいからせながら先導するシルフィについて商業区画までやってきたレドウ。
レドウは、今朝ここの入口で衛兵に捕まって詰所に連れて行かれたのを思い出す。あれからいろいろあったような気がするが、まだ半日も経っていない。
残念?ながら今の自分を見て振り返る者たちもいない。
たまに振り返る者がいたが、レドウではなくシルフィが対象である。王族だし、王都ではそれなりに有名なのかもしれない。
「レドウ?お昼食べてないでしょ?」
突然振り返り、レドウをじっと見つめるシルフィ。
良く考えてみるとお昼どころか朝も食べてない。
「あぁ、確かに腹減ったな。酒場にでも入るか」
「……酒場なんてこんな時間にやってないわよ」
「それじゃあ飲めないじゃねぇか!」
「あのねぇ。ここは王都よ。タルテシュと一緒にしないで。いい?カフェに入るわよ」
「……酒場がねぇのは死活問題だな」
ぶつぶつ言いながらシルフィについていくレドウ。
商業区画の端にあるカフェの扉を開けると、カランカランと小気味よい鐘の音がした。
「いらっしゃいませ~」
マスターの声を背に奥まった席に座る。
すぐに水とおしぼりを持ったにウェイトレスがやってくる。
「ご注文がお決まりになったら、お声掛けください」
そして、決まり文句とともにその場を離れていく。
「はい、メニュー。言っとくけどお酒はないからね」
シルフィからメニュー表を受け取ったレドウは、少しメニューを眺めたところですぐに見るのをやめた。
「……早いわね。もう決まったの?」
「いや……、このメニュー表には何が書いてあるのか良くわからん」
「?」
「肉とパンが食いたいんが、どこにも書いてないだろ?しかもメニューの意味がわからん。何が来るかもわからんのにどうやって注文できるんだ?」
そう、カフェのメニューには『クラブハウスサンド』やら『ペペロンチーノ』やら、まあそういったファストフード系のメニューが並んでいたわけだが、レドウがそんなものを食べたことがあるわけはなく……。ということのようだ。
「……はぁ。田舎者ってことね。私が適当に注文するけど、文句言わないでよね」
「任せた。何でも食うから心配いらん」
……
シルフィが適当に見繕って注文したものを食べるレドウ。
「これがあのよくわからんメニューで出てくるのか。王都はどうなってんだ」
「どうかなってるのはレドウの方だと思う。フューズにもカフェあったわよ?」
「タルテシュにはねぇな」
実際にはタルテシュにもカフェはあるが、レドウがギルド前の酒場にしか立ち寄らないため、知らないだけである。
すると隣のテーブルからひそひそ話が聞こえてきた。
「(ねぇ、あそこにいるのってシルフィア様よね?一緒にいる男は誰かしら?)」
「(婚約者?……にしては結構歳離れてるわよね。護衛?)」
「(でも、でも、シルフィア様っていくつも縁談蹴り続けてるって話、有名じゃない?)」
「(そうね。案外ああいうのが好みなのかもね)」
「(それなら縁談を蹴ってる理由わかるわね。好みが全く合わないってことだものね……)」
「(え~、シルフィア様ってそういう趣味だったんだ……)」
「(私はあぁいうムサいのはノーサンキューだわ)」
「(あたしも~)」
(うっせぇな。噂話なら聞こえないとこでやれよ)
内容はレドウにとってどうでも良かったが、おちついて飯食いたい時に、自分らのことをいろいろ言われるのはさすがにうざったい。
食事に集中していたレドウだったが、さすがにシルフィの様子でも確認しようかと、手にしていたトーストサンドを皿に置き、前を向くとそこに座ってるはずのシルフィの姿はもうそこにいなかった。
「ちょっとあんたたち!こそこそ言ってないで堂々と言いなさいよ。気分悪い。私たちがここでランチしてたらいけないの?」
既に隣のテーブルの客に食ってかかっていた。
それをみて慌ててマスターがとんでくる。
「申し訳ありません、店内でトラブルは……」
「トラブルになるようなことを言ってたのはそっちよ」
「シルフィ、座れ」
「……でも!」
「いいから座れ」
ややキツめに諭され、シルフィがしぶしぶ席に座る。
「今日は大人のレディなんだろ?ちったぁ余裕あるとこを逆に見せつけてやれよ」
「む……、わかった」
「よし」
と、シルフィが落ち着いたのを確認すると、レドウが噂話をしていた隣のテーブルの方を向く。
「おめぇらも、なんかの拍子で怪我したくねぇなら、聞こえるように揶揄すんのはやめときな」
噂話をしていた客はバツが悪そうにそそくさと出て行った。
「マスターも、迷惑かけたな」
「いえ、出すぎたことを申し訳ありません。贔屓にして頂いているシルフィア様ですし、気持ちよくご利用頂きたいのですが……」
「……責任者としての対応は合ってるだろ。問題ねぇ。シルフィ、行くぞ。次の店だ。案内よろしくな」
「わかった」
「申し訳ありません。シルフィア様と同行されているあたり、名のある方と存じます。お名前聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん?俺の名か?俺はレドウだ。よろしくな」
「……そういう名のことじゃないと思うけど……」
シルフィが出掛けにボソリと呟いた。
……
「……いつまでブスっとしてんだ」
カフェを出た二人はレドウのタクトを買うため、商業区画の武器屋を目指して歩いてる。
「あいつら、レドウの悪口言ってたのよ。なんでレドウは怒らないの」
「うるせぇとは思うが、怒ってもしゃあねぇだろ?それに俺は偉大だから小物の戯言なんざ気にしねぇのさ」
「はぁ。……レドウが、無駄に尊大だってことはわかったわ」
「無駄とはなんだ」
どうやらシルフィがいつもの調子を取り戻したようだ。
「ここよ」
シルフィが案内したのは、ショーウィンドーや店内ディスプレイが並べられているようなところではなく、商業区画の中ほどにあるビルの入り口だった。
「ここの3階にいい店があるわ。店員は……正直ちょっと苦手だけど」
「……また卸商なんじゃないだろうな」
「品数が多くて、私たちと直接取引があるとこよ。騎士団員の装備もここで揃えてるのよ」
やはり勝手知ったる店と言わんばかりにずんずん中に入っていくシルフィ。ついていくレドウ。
「いらっしゃいませ~。あらシルちゃん。どうしたの?」
「サラ、こんにちは。タクトを見に来たわ」
これまでで一番くだけた対応だ。店員はサラというおば……お姉さんだ。
シルフィに続いてレドウが入ると、サラの目が怪しく光ったような気がした。
「あら、いい男。シルちゃん、紹介してくださる?」
「え……あ、えっと、この人はレドウ。元々冒険者で明日からウチの騎士団の……」
「魔法使いのレドウだ。よろしく」
サラがすすっとレドウに身体を寄せ、密着するように近づけてくる。
「こんなに素晴らしい身体をお持ちなのに魔法使いなのね。素敵だわ。で……どんなタクトをお求めかしら?」
「えっと、そうだな……」
「……」
無言でシルフィがレドウとサラの間に割って入る。
「あぁら、野暮ねぇ。それともシルちゃんの想い人だった?それならそうと先に言ってくれないと、この人わたしのモロ好みだわよ」
「そーじゃない!そーじゃないけど……。サラの好み広すぎなんじゃない?こないだラウルにも言い寄ってたじゃない」
「まぁ、なんでもいいけどよ。タクト選ばせてくれるか?」
すると、妖艶な笑みは浮かべたまま、サラは営業モードに戻る。
「どんなものがほしいの?」
「そうだな……。元素石は1つでいいんだが、高出力のものがいいな」
「一途に一点集中攻撃するのね」
表現がやや怪しい。本気で営業モードに戻っているかも疑わしい。
「そんな貴方にピッタリの品があるわ」
そう言って奥の棚から取り出し、レドウの前に一本の白銀に輝くタクトを置いた。
「大量のエナジー放出に耐えられる聖銀製よ。Lv3までセットできるわ」
「確かに良さそうだな」
サラはタクトを持つと手を取ってレドウに握らせた。そしてそのまま手を握り締め、擦り寄るように身体を密着させる。。
「この逞しい腕でタクトを振るわれるのね……」
この瞬間、シルフィの中の何かかが振り切った。
「ダメ!」
サラに突進するシルフィ。そして、それを見透かしたようにすっと避けるサラ。
その結果シルフィは、サラと入れ替わるようにレドウに抱きつく形になった。
「おぃおぃ」
「は!」
慌てて飛びのくシルフィ。
余裕の表情で既にカウンターにもどっているサラ。
「ふふ。相変わらず可愛いわね。シルちゃんは。からかいがいがあるわぁ」
「?!」
「あんたも相当悪戯好きだな」
あまりの過剰演出に途中からなんとなく察していたレドウは、渦中のはずが傍観者モードだ。
「ぅ……みんなしてからかって」
ちょっと涙目になっている。シルフィを見てレドウが慌てる。
「ちょ。泣くなよ?あんたもその辺にしといてやらんと、俺がアイリスに怒られるわ」
「ふん。もう言いつけ確定だもん」
「ごめんねぇ。お詫びにこれタダであげるから」
と、取り出した火の魔晶石とLv3制御石をカウンターに置いた。
「……そんなのレドウが得するだけじゃん!」
「シルちゃんにもちゃんとあるわよぉ」
と、聖銀のタクトを取り出した。但し、レドウ用のものと明らかに違う箇所があり、元素石のスロットが三つついていた。
「これ!トリプルタクト?!」
「そうよ。こないだ誕生日だったらしいわね。事前に言伝てがあってね?アレク様からの誕生日プレゼントよ。欲しかったんでしょ?これ」
「すごい……。パパ……ありがとう!」
今度こそ本格的に泣き出してしまった。
サラがからかった結果でなくて、良かったと本気で思ったレドウだった。




