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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第十一章 終わらぬ戦
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第201話 リズとゴルド

 突然『敵にハメられた!』と叫び、門の制御室のある方向へ走り出したルズツールを呆然と眺めていたギャルド。

 ギャルドにとってみれば、まだ『ハメられた』ことに対しての実感が、恐らくはルズツールほどには湧いていなかった。どこか現実感のない訴え……頭では分かっていたのだろうが、認めたくない自分が圧倒的に強かったためだ。


 門にはイズノフが居るはず(・・・・)だ。

 ルズツールが間に合って門が閉じ始めれば、突撃体制の兵達も門に挟まれたくないために二の足を踏む。このタイミングであれば、まだ半数は出撃せずにこの場に留まることが出来そうである。


 しかし、現実はそんな楽観的な考えで進まない。

 衛兵の宿舎に走り出したルズツールが、賊……恐らくはこの事態を仕掛けた勢力によって襲われたからだ。


 ルズツールに襲いかかった賊は約二名。

 出撃最中という、ある種混乱の中で始まった諍いに兵士達には『賊の襲撃』であると認識出来ていない。あるいは出撃における順番争いで喧嘩でも始まったか?程度に感じていたのかもしれないが。


 だが、当事者であるルズツール、そして事態を理解したばかりのギャルドにはそれが謀られた襲撃であると即座に判断する。


「おのれ!二対一とは卑怯なっ!」


 戦争に卑怯もクソもないのだが、ともかくギャルドはルズツールを助けるために走り出した。が、数歩も進まぬうちに自分の進路に立ちはだかる男によって歩みを止めさせられる。

 その男は兵士にしては帯剣しているわけでもないし、軍支給の甲冑を纏っているわけでもない。武器も持たず(・・・)にその場に立ち、ギャルドの進行を止める者……それは明らかに賊であった。


「お前っ!このギャルド様の前に立ちはだかるとは、覚悟は出来てるんだろうなっ?」


 そう叫ぶやいな抜刀し、そのまま賊の首を狙う。が、ギャルドの剣はギャリッという気持ち悪い音とともに上向きに弾かれた。

 そしてギャルドの目の前には何か黒いモノが勢いよく飛んでくる。


「くっ!」


 ギャルドは一瞬の判断で、その黒い塊を左手の小型のバックラーで受け流した。


「おぉ?思ったよりやるじゃねぇか。さすがは側近さんってとこかい?」


 ガランと金属音をたてて、ギャルドのバックラーは地面に落ちた。賊の一撃を受けて鉄製のバックラーがひしゃげ、ギャルドの腕から外れたのだ。

 軽量化をの為に補強材を減らしたモデルではあるが、そうそう壊れる代物では無いはずだが……。


 ギャルドは気づいた。賊である目の前の男は、武器を持っていないわけではない。その拳が武器だったのだと。よく見れば腕にも脚にも、武骨な金属製の保護装備をしている。


「お前……格闘家かっ!」

「お前さんはよ、しばらくここで俺と武術の稽古だ」

「……ふんっ!」


 ギャルドは、賊の言葉を無視してガードの無い胴をめがけて剣を払った。しかし、これは高く引き上げられた脚のグリーヴによって防がれてしまう。


 その一撃を始めとして、ギャルドは次々と斬撃を繰り出していく。しかし、それらの斬撃は全て弾かれてしまったのだ。恐ろしい防御の技術である。

 だからといって業を煮やしたギャルドが、賊の男を無視してルズツールの元へ向かおうとすると、すかさず急所目掛けて鉄拳が飛んでくるという徹底ぶりだ。リーチの差をどこで詰めているのかギャルドには理解出来なかったが、このままでは目の前の賊の言う通り時間稼ぎをさせられてしまう。


 こうしている間にも兵士達のほとんどは既に出撃してしまっていった。


「こざかしい野郎だ」


 完全に行動を止められているギャルドに業を煮やしたルヴェリクは、いつの間にかタクトを握りしめていた。

 ルヴェリクから放たれた大火球(ファイアボール)が、ギャルドを巻き添えに賊の男を狙う。


「ルヴェリク閣下!」


 ギャルドは信じられないといった表情で、その火球をギリギリで避ける。ルヴェリクの大火球(ファイアボール)は、ギャルドの頭を掠めて賊に襲いかかって炎上した。


「閣下!なぜ私まで……」

「お前の技量ならば躱せるだろう?躱せるのなら当たらないのだから問題ない。違うか?」

「……」


 不満そうなギャルドであったが、事実足止めされていた状況を解消したのはルヴェリク閣下の魔法である。もう遅いかもしれないが、ギャルドは再びルズツールを追うべく前を向いた。だが、目の前に見えた景色の中に居てはならぬモノがいた。先ほどの格闘家の賊の姿が無傷のままそこに居たのだ。


「ゴルドさん、大丈夫でしたか?」

「奥方さま、すんません!助かりやした!」


 よく見るとそこにいたのは先ほどの格闘家だけではなく。もう一人、宙に浮いたままの魔導師と思われる少女がいたのだ。


「油断してぇるからぁよぉ……」


 そしてもう一人。いつの間にギャルドの目の前を横切ったのか、ゴルドと呼ばれた男格闘家と似たような装備を身につけた女が、ルヴェリクの目の前に立っていたのだ。


「閣下!」

「大丈夫だ。お前はそっちを()れ」


 ルヴェリクの方に行った女も格闘タイプである。会話の内容から察するに女の方が上位者ということだろうか。


「ふん。問題ねぇ。どっちにしろやらにゃ進めねえってことらしいからな」

「下らねぇ邪魔が入ったが、これで振り出しにもどったな」

「ゴルドさん!頑張って下さい!」


 魔導師の女がフワフワとその場を去って行く。しかし、ギャルドにとって魔導師の女などもはやどうでも良かった。握り直した手の中には愛用の太刀が収まっている。


「ゴルドとかいうお前、残念だったな。もうこのギャルド様に油断はねぇぞ」


 相変わらず手に何も持たないまま構えているゴルドに向かって、牽制の意味を含めて剣を振り抜いた。だがその斬撃は、再びゴルドの手甲によって弾かれる。


「ふぅ……別に残念という程のもんでもねぇ。そのくれぇじゃねぇとな。お前こそ、この俺を甘く見ない方が……あぁ、別に油断してくれてもかまわねぇぞ。そんなつまらん戦いはさっさと終わらせるがよ?」

「その強がりがいつまで続くか……お前は骸になって後悔するがいい」


 そうしてここにゴルド vs ギャルドの対決が始まった。


 背後で始まった戦いを尻目に、リズがルヴェリクに向かう。


「む!貴様、この私と()る気か?相手になってやるぞ」

「えぇ?私はぁ、あんたみたいのぉ、特に好みでもなんでもぉないんだけどぉ……」

「……ふざけやがって。俺の剣を雑魚扱いすると後悔するぞ」


 リズの舌っ足らずな話し方はルヴェリクの癇癪を誘ったようだ。ルヴェリクは腰から長剣(サーベル)を抜き、リズと正対する。


「してぇないよぉ?ゴルドォよりぃ、わたしの方がぁ強いしぃ」


 リズは一瞬にして距離を詰めると、長剣(サーベル)を持つルヴェリクの手を掌底で跳ね上げる。そして体勢を低くして鋭くルヴェリクの脚を狙った。


「ちっ……流石に、んな簡単に……」


 剣ごと腕を跳ね上げられた反動で、ルヴェリクの上体が不安定になる。そこを狙ったリズの足払いであったが、予測したルヴェリクは軽い跳躍で躱した。だが、リズの追撃は終わらない。足払いがヒットしなかった直後、ルヴェリクの身体の中心目掛けて体当たりを仕掛ける。

 最初の足払いを避けるために後方に逃れたルヴェリクは、体勢を崩したままリズの体当たりをまともに食らってしまった。


「ぐっ……」


 リズの体当たりの直撃を受けたルヴェリクは、そのまま後方に転がった。反動で剣が手元から離れてしまう。


「しまった!」


 慌てて剣を取りに動き出すルヴェリクだったが、リズの方が早かった。

 ルヴェリクを仰向けで捕らえると、マウントを取って顔面に二発正拳をを突き入れる。それだけで、ルヴェリクは動かなくなった。


 リズの勝利である。

 ちなみに、ルヴェリクの顔を殴った時には、ギミックを使って手甲を外していた。相手を殺すつもりであればそのまま殴っていたが、今回の目的はそれではない。


 気を失ったルヴェリクを縛り上げると、リズは戦況を確認する。


「ん。おおむねぇ、わたしぃたちのぉ勝ちねぇ」


 リズは満足そうに頷いた。


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