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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第一章 邂逅
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第1話 レドウとジラール

 パルロカ大陸の東。


 一千年余を経て統合された巨大国家、ヴィスタリア連合王国。

 山岳地帯に程近い聖教神殿を中心に王都ウィンガルデは王国の首都として栄華を極めていた。

 そして、首都ウィンガルデから約1,000ヴィーレほど東方に遺跡都市タルテシュがある。


 タルテシュが遺跡都市と呼ばれるのは理由がある。


 周辺地域には、ヴィスタリア連合王国が統治する遥か昔に栄えていた旧文明の遺跡が多数発見されており、考古学者を筆頭に遺跡の財宝を求めて各地から探索者があつまって出来た集落が、都市に発展したのがタルテシュだ。


 遺跡には侵入者を阻む仕掛けがあることが多く、また内部には長い年月を経て発生した魔物たちが徘徊しているため、「冒険者」と呼ばれる探索専門の傭兵を雇うことが通例であり、タルテシュにはこうした専門の傭兵たちを束ねる冒険者ギルドが存在する。


 冒険者は主に探索傭兵と戦闘傭兵の2種類に分類される。


 探索傭兵は遺跡の歴史的分析を行う雇われ考古学者や、遺跡の仕掛けを見極めて依頼者を安全に内部へと案内する探索者などであり、戦闘傭兵は文字通り遺跡内の魔物と戦い排除することで依頼者の身を守ることが仕事だ。

 いずれも冒険者としてギルドで雇うことができ、登録者の得意な分野や戦闘手段が一目で分かるよう「役職」というカテゴリで登録されている。

 「役職」にはもう一つの役割があり、冒険者実績を図る指針としてレベルが設定されている。依頼者は、この情報で冒険者たちの契約料や任務遂行力の信頼性を確認できるシステムとなっていた。


 タルテシュの冒険者ギルドの向かいにミライド亭という酒場があり、ギルドに登録している冒険者たちが集う酒場となっていた。誰が決めたわけでもないが 1Fに実績の少ない冒険者、2Fに熟練の冒険者がいることが多い。

 2Fには個室があり、その場で依頼内容の打ち合わせを行ったりするのに丁度いいからだろう。


 ミライド亭にはいつも変わらぬ景色があった。1F右奥の席に、恵まれた体躯の戦士然とした男がいつも安いエールをあおっている。


 レドウだ。この席はレドウの特等席だ。


 朝から飲み続けて5杯目が空になろうとしていた。


 突然、2階の階段から数人の足音がしたかと思うと、身なりの良い男とレドウの同類の男が姿を現した。


「よう!レドウ。相変わらず依頼なしか。ん~?お前の一角は朝と景色が変わらんな。わっはっは」

「うるせえな。用がないならさっさと向こういけよ」


 レドウは声の主を一瞥した。

 (見たことはあるやつだが、名前が分からないな。よし、こいつの名はザグバンということにしよう)


「上機嫌なんだからちったあ勘弁しろよ。久しぶりに貴族様からの依頼を請け負ったんだ」

「自慢ならもっと要らん。さっさと視界から消えろ。ザグバン」

「……誰だよザグバンって。俺はガイルだよ!一文字も合ってねえよ」


 (ん。あぁあぁ、ガイルか。確かにそんな名前だったかもしれん)


「そうか。じゃあガイルさんよ。そのまま回れ右して店から出ていきな」

「わっはっは。自分が依頼なしだからってつれねえな」


 ガイルはそのままレドウの向かいに腰を下ろした。


「ち、しつこいな。だいたい一緒に2階から下りてきた貴族様はとっくに外に出てったぞ。待たせていいのかよ」

「問題ねえな。契約は明日からだ」

「全く、ガイルに依頼を持ってくる貴族だなんて酔狂な奴もいたもんだ。マスター!エールおかわり!」


 レドウの声に、ミライド亭のマスターが不機嫌そうに一番安いエールを持ってきた。


「金はあんのか?レドウ。6杯目だぞ」

「今日はガイルのおごりだ。問題ない」

「誰がおごるって?エールくらい自分で払えや。じゃあな」


 ガイルはやや慌てて席を立ち、そのまま店を後にした。


「ということはお金がないと、そういうことですか?」


 マスターはレドウのところに持ってきたエールをそのまま持ち上げてカウンターに戻っていく。


「いや、待ってくれ。ある。金はあるぞ。ジラールが出してくれるはずだ」

「やれやれ。私もおごるなんて言ってませんよ」


 涼やかな声が聞こえると、一人の男が店に入ってきた。


「これはこれはジラール様。お忙しい中ミライド亭にお越しいただきましてありがとうございます」

「マスター!対応が全然違うじゃないか」


 思わず立ち上がったレドウにマスターは真顔で振り向いた。


「当然でしょう。ジラール様はタルテシュ冒険者ギルドの星。あなたと一緒の対応では大変失礼ですからして」

「なんだと!」

「まあまあ二人とも。喧嘩はしない。レドウも席について」


 二人をなだめるとジラールは先ほどガイルが座っていた席についた。

 レドウも仕方なくもとの特等席に座る。


「で、私はレドウの財布ではないのですが」

「今度ドカっと稼いだらまとめて返すから。貸してくれないか?」

「そう言ってたまったツケが10,000リルほどになってますよ」

「幼馴染のよしみでそこをなんとか!」


 ジラールはタルテシュでは一、二を争う探索者であり、冒険者関係者では知らぬ者がいないほどの有名人だ。

 また遺跡探索に関する書籍も何冊か出版され、冒険者ギルド推奨の必読書にされているほどである。

 

「依頼は相変わらずのようですね。そろそろ魔法使い登録をやめたらどうです?」


 レドウはジョッキをテーブルにドンと置いた。


「俺は魔法使いだ。誰がなんと言おうと。ジラールに言われてもだ」

「大層な両手剣を携えて、魔法使いだなんて言っても説得力がないですよ」

「これは護身用だからな」


 相変わらず意味のわからないことを……とジラールは呆れ顔だ。


「石のついたタクトを持って振りかざして奇跡起こせるなら、魔法使いだ。しかも威力はピカいちときてる。どうみても魔法使いとしての才能があるとしか……」

「一回使うたびに魔晶石をダメにする魔法使いなんていませんよ。魔法使いを名乗るならそんな古びたモノタクトではなく、いい加減ちゃんと制御石をセットできるタクトを使ったらどうです?」

「これはじじいの形見だ。他のタクトを使う選択肢なんてない」


 レドウは腰に挿した一本の金属棒を取り出した。ところどころが黒くくすんでおり、誰が見ても年代物と分かる。


 タクトと呼ばれる魔道具に魔晶石をセットすることで、魔法と呼ばれる奇跡を起こすことができる。

 セットする魔晶石は大きくわけて2種類あり、一つは元素石、もう一つは制御石と呼ばれている。

 通常のタクトにはこの魔晶石を1種類ずつ、計2つセットすることができ、使う魔法をコントロールする。

 高級なタクトには元素石を複数セットすることが出来るものもあるが、高価であるため上級冒険者でないとあまりお目にかかることはない。


 元素石の種類によって起こす魔法の種類が異なり、例えば火の元素石をセットすれば火の魔法で燃やしたり、仲間の攻撃力を強化したりすることが出来る。

 制御石は制御レベルが存在し、使用できる魔法の出力をコントロールすることができる。

 とはいえ、レベルの高い制御石を使えば誰でも強力な魔法を使えるというものではなく、魔法の才がなければ高レベル制御石を使っても低レベル以下の結果しか得られない。


 ちなみに1つの元素石(魔晶石)から発生させられる魔法は限りがあり、石に蓄えられた魔元素を使い切ると使えなくなる。

 市販の元素石には50回程度の魔法を利用できる魔元素が蓄えられている。


 レドウのもつ年代物には魔晶石を1つしかセットできないため、コントロールできないまま一回で使い切る。と、まあそういうわけだ。


「いずれにしても……そろそろ一度返済してもらわないと、いくら幼馴染の友人といってもこれ以上は貸せないですよ」


 ジラールは席を立つとマスターのところへ向かう。


「今日の飲み代までは貸しておきますよ。マスター、おいくらですか?」

「エールを6杯お飲みですので、120リルになります」

「彼の飲み代として200リル渡しておくから使い切るまでは世話してあげて」

「ジラール様、いつもありがとうございます。今後ともごひいきに」


 マスターが恭しくジラールに一礼する。


「レドウ、あまり飲み過ぎないように」


 そう言って、ジラールはミライド亭をあとにした。


「あと4杯は飲める計算か。それは明日の分にして、これ飲んだら今日はもう帰るわ。マスター、ご馳走さん」


 といって、6杯目のエールをちびちびと飲み始めた。

 もうしばらくは特等席に陣取っていそうな雰囲気である。


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