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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第二章 神器を求めて
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第17話 シルフィア=イスト=アスタルテ

 アイリスに連れられて、レドウはウィンガルデの特別区画に足を踏み入れた。

 レドウは案の定区画の入り口でも止められたが、アイリスの権限でスムーズに入場資格を発行してもらうと堂々と中に入ることができた。


「アイリスは偉ぇ人だったんだな」

「いえ、私は雇われですから偉くはないですよ。こちらです」


 特別区に入って一番手前の屋敷の前で止まった。


「アイリスです。レドウさまをお連れ致しました」

「どうぞ」


 屋敷の使用人と思われる年配の女性の声がして、門が開いた。

 門の中に入るとより顕著だが、屋敷というよりちょっとした城のようである。


「どっから入ったらいいのかわからんな」

「入り口はもう少し先です。この辺は使用人の住居です。中庭に騎士団員の詰所と住居があり、その奥がアスタルテ家の屋敷になります」

「広すぎて、出入りするだけで面倒だな」

「王宮に比べたら狭い方です。施設としては家仕えの者の住居くらいしかないですから」


 中庭を抜けると城門と称して良さそうな扉があり、その中へ二人は入っていった。


「この建物がアスタルテ家の屋敷です。どうぞ」


 アイリスに促されて中に入ると、立派なドレスを着た見覚えのある少女が、腕を組んで仁王立ちしていた。


「お久しぶりね、レドウ。わたくしがアスタルテ家第一王女 シルフィア=イスト=アスタルテ ですわ」

「お、おぅ。なんか話し方おかしくねぇか?それになんで仁王立ち……」

「え?これが普通ですわ。わたくしはこの国では尊い存在ですけど、レドウはこれまでどおり『シルフィ』と気軽に呼んでもよろしくてよ」


 ここでレドウが首をかしげる。


「調子狂うな。これまでどおり……って呼んだことあったっけな?クソガキとしか呼んでねぇと思うが」

「なっ!……一回呼んでくれたじゃない!」


 シルフィが顔を真っ赤にする。


「一回?」

「お嬢様、挨拶はそのくらいにして閣下のところへ」


 アイリスがすかさず助け舟を出す。


「そ、そうですわね。レドウをパパと引き合わせなきゃですわね」

「無理して口調を変えなくてもいいぞ。聞いててこそばゆいし。な、『シルフィ』さん」

「むっ……くっ……・」


 シルフィの顔がゆでだこのようになっている。


「レドウさん。お嬢様をあまりいじめないでやってくださいね」


…………


 城の二階にある謁見の間で、シルフィのパパ……つまり現アスタルテ家当主がレドウの到着を待っていた。


「いやぁ、よく来てくれた。わしがアスタルテ家の当主をしている アレク=イスト=アスタルテ だ。どうやら娘が世話になったようだな。礼を言わせてくれ」

「あ、いやまあ。その、どうも」


 アレクは王族とは思えない気さくさでレドウに挨拶してきた。髭は口髭のみ残して短く丁寧に剃られ、上品でナイスミドルダンディといったところだ。


「まあ我々は王族とは呼ばれていても継承順位は第八位、王位を継ぐような身分じゃあない。気軽に接してもらえると助かる。話し言葉も適当で良いぞ。堅苦しいのは好まんのでな。話しやすいように話してくれ」

「そうか。そいつは助かる。こんな感じでいいか?」

「いいね。わしの周りにそういった砕けた会話をしてくれるものがおらん。友人が増えたようだ。心躍る」


 アレクは非常に満足そうにうなずいた。


「じゃあ早速契約の話なんだが、正直ギルドからは何も聞いちゃいないんで全く理解していないんだが、俺はここで何をしたらいいんだ?」


 おぉ!といった感じでアレクがポンと手を叩く。


「そうだな。わしもよくわかっておらん。わっはっは」


 レドウはずるッと軽く肩を落とした。


「いや実は娘がな、どうしても冒険者のレドウという者をここに呼んで雇って欲しいというもんでな。ついにわが娘にも興味のある異性……」

「パパ!そうじゃないでしょ!」

「あぁ、そうそう。君はなんだかお宝を発見したんだって?そして他にもあるらしいじゃないか。わが娘が永遠の宝を求める旅に君と共に……」

「パパ!余計な脱線してる!」


(……大丈夫か?この父娘は。まあ俺が悪く思われてないのは良かったが)


「つまりですね」


 と、ここでアイリスが割り込む。


「先日の遺跡でレドウさんは力を得ました。で、言い難いことですが、そういった力があることが世に知られると、恐らく他の八輝章家……特に第二位ロイスウェル家、第四位マーニス家あたりが……レドウさんを捕縛することが予想され、最悪実験台にされます」

「なんだって?!」

「そうならないために、先手を打ってレドウさんに身分を与えることで、表立っての行為から守ることができます。王位継承権順位こそ他家が上ですが、お互いにおいそれと他の輝章家の者に手出しは出来ないですから」

「なるほど」


 レドウは唸った。そんな深刻な事態になることなど全く想定外だった。


「だから、私がパパにお願いして来てもらったのよ」


 シルフィは自慢気に胸を張った。


「詳しい話は良くわからんが、『仮』だとしてもここに籍を置いた方が良さそうだということだけはわかった。で、当面どうしたらいい?」

「うむ。それについてなんだが……」


 ここでアレクがやっとまともなことを語りだす。


「うちの……つまりはアスタルテ家の身分を持つためには2つ手段がある。一つはもちろん家族になることだ。そしてもう一つはそこのアイリスと同じように、直属の騎士団員になることだ」

「つまり、ここの騎士団員に所属しろということか?」

「ま、そういう話になるな。アイリスが騎士団長なので、アイリスの部下ということになるが……何か問題はあるかね?」


 神妙な面持ちでレドウが応える。


「一つある。俺は魔法使いなんだが、騎士団員……でいいのか?騎士にはなれねぇぞ」


 シルフィとアイリスは『やっぱりか』といった表情で苦笑する。

 アレクは目を丸くした。


「あっはっは。本当に何から何まで娘の言うとおりだな。かまわんぞ。魔法使い大いに結構!」

「そうか。そいつは助かる」

「そもそも事前に話を聞いてたのでな、君には騎士団員というより騎士団付の魔術師という身分を用意していたのだ。アイリスの話によれば、魔法も剣もうちの騎士団員たちではとても歯が立たない腕前と聞いている。ま、あとで彼らとは顔合わせしてもらうが、彼らと同じ扱いでは失礼だと思っていたのだよ」

「剣の腕はどうだかしらんが、魔法なら絶対の自信があるぞ」

「よし。ではこうしよう」


 アレクはこれまでのややにやけた表情から威厳のある凛々しい顔つきに代わり、覇気を放った。


「レドウ=カザルスよ。これよりそなたに『アスタルテ家直属騎士団付き宮廷魔術師』として当家に使えることを命ず」

「はっ!」


 レドウは思わず堅い返事をしてしまった。


「やべぇ。つい」

「ふふっ。わしの本気の威圧もまだまだいけるだろぅ?」


 アレクはもう最初のふざけモードに戻っている。本性は根っからのいたずら好きだということが良くわかる。


「立場はアイリスと同格になるのでな、騎士団住居ではなく城に居住用の部屋を用意した。自分の家だと思ってくつろいでくれ。部屋の案内と騎士団への顔合わせは……アイリスに任せる」

「承知いたしました」

「じゃあわしはこの辺で。公務に戻る。あ、レドウ君、いつでも遊びにきてくれ。普段わしは四階の執務室にいるのでな」


 そういい残してアレクは去っていった。


「……いいのか?そんな簡単に訪れて」

「パパは話し相手になる人がいなくて寂しい思いをしていると思うわ。特にママが亡くなってからは……」

「閣下は、レドウさんと本気で友人になりたいように見えました。冒険者としての生活の話など、レドウさんにとってのたわいない話をするだけでも閣下には新鮮なんだと思いますよ」


 シルフィとアイリスはそうレドウに応えた。


「あと……多分、閣下は説明を忘れたのだと思いますが、騎士団員には手当てが出ます。ですので、レドウさんにもギルド依頼の他に手当てが出ますので、そう思っておいて下さい」

「!まじか。そりゃ助かるな」

「……ちゃんと働いてよね」

「お、口調が元にもどったじゃねぇか」

「もういい。パパもあれだけフランクなんじゃ、私だけ頑張って損しちゃった」


 ぷぅと頬を膨らませている。その辺がガキなんだと喉の手前まで出かかった台詞をレドウは飲み込んだ。


「では、私は騎士団の皆にレドウさんを紹介してきますので」

「わかったわ。アイリス。あと……」

「はい?」

「貴女もそろそろ『お嬢様』じゃなくて『シルフィ』と呼んでよね。遺跡冒険の時には呼んでくれてたんだから」

「わかりました。シルフィさん」

「『さん』もいらない」

「わかりました。シルフィ」


 シルフィはアイリスの応答に、にかっと笑った。

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