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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第十章 復活
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第184話 テツ=コールマン

「こんなに喜ばしいことなのにどうして全然連絡を……」


 シルフィの声がおかんむりである。

 とは言ってもまだ体調の完全回復には至っていないようで、声は若干弱々しい。だがそのことが余計に罪悪感を掻きたてる。


「ちょっと野暮用があって、部屋を空けていてだな。それでなかなか戻れなかったんで……」


 『通信魔導具』である指輪に向かって、必死に謝っているレドウをニヤニヤと悪戯っぽい表情で楽しそうに眺めている『ドール』がいる。

 レドウによる謝罪通信は既に半日近くになろうとしていた。


 そんなことをしている間に、テツが改めて『宿り木亭』を訪れていた。

 どうやら『ブラッディローズ』側の荷物は一通り引き払ってきたらしい。彼は『パルロカに連れてってくれ』と言っていたが、いつ戻るかなどという予定を知らないテツは、タイミングを逃さないために荷物ごと住み込みのつもりでやってきたようだ。


 ……住み込みといっても『宿り木亭(ここ)』は賃貸住宅などではなく、いわゆるビジネスホテルのようなところなのだが。


《テツさん。お茶でも飲んで待っててね。今、マスターは取り込み中なのでー》

「あ、あぁ。はい」


 部屋に通されたテツは、最初指輪に対して必死に謝っているレドウを不審に思っていたようだが、『ドール』が詳細を説明すると納得していたようだった。


「身重の奥さんをほうってまで『ブラッディローズ(われわれ)に協力してくれてたんすね。でも連絡しないのはマズいっすよ。しかも放置中にお子さんが産まれているとか』」

《でしょう?マスターも全力で抜けてるんだから。すぐに会いににいけると思ってるから適当な対応になってるんだろうけど~》


 全力で釈明しているレドウをよそに、かなりくつろぎモードの二人。


「ところで『ドール』さん。俺はよく分かってねぇのですけど、結局レドウさんは何をしにわざわざこのイシュタールへ?」


 『ドール』に淹れてもらったお茶を啜りながら、テツが尋ねる。

 まだ話が終わりそうもないレドウを尻目に、『ドール』はテツのために茶菓子を用意し始めた。


《ん。マスターはね、ボクを復活させに来たんだよ。だからボクが今ここにいる以上、目的は達成してるからもうすぐ戻るんじゃないかな?》


 元々はロイに対抗するための戦力不足を補うための武者修行……だったはずであるが、『ドール』の認識の中では『自分の復活』に完全に置き換わっているようだ。


 ただ、この『ドール』の認識は決して間違っているわけではない。

 制御しきれない魔導力操作をサポートするにあたって、復活した今では意識体だけであった時より遙かに制御力が上がっている。

 レドウだけで制御しきれない部分を『ドール』がより正確に出来るようになったという意味で、総合戦力は間違いなく上がっているのだ。


《それに、魔導力操作の奥義も教えちゃったし……あとは【勇気の神剣】さえ手に入れればね》

「?」


 テツは良く分からないと言った様子で首をかしげる。

 『ドール』は少し目をつぶっていたが、ふとテツの方を向いた。


《テツさん。マスターの用事、まだ終わりそうにないんで、もし良かったら手合わせとかしない?このまま座ってるんじゃヒマでしょ》

「ん?『ドール』……さんとですか?」


《そうだよ。あぁ、この見た目だから心配してくれてるのかな?大丈夫。見立てでは、ボクの方が君より遙かに強いから、思いっきりきてくれていいよ》

「?!」


 テツの表情が険しくなる。仮にそれが真実なのだとしても、流石に少々プライドに触ったようだ。


「知りやせんぜ?そこまで言うなら出し惜しみしねぇですからね」


 『ドール』とテツは『宿り木亭』から外に出ると、『魔導板(プレート)』の停止所を眺める。


《ん~。ここじゃ、全力出すには都合悪いかなぁ。場所移動しよっか?ちょっとこっち来て》


 そう言って『ドール』はテツの手を取ると、ゲートも創らずに転移した。転移先は……先日竜王と戦ったあのガドル火山洞の踊り場である。


「はぁ?」


 突然周りの景色が変わり、テツが動揺している。


《あれ?ここじゃ都合悪かった?あんまりマスターから離れると、マスターの様子が分からなくなるから、この辺がいいかと思ったんだけど》


 そう言って『ドール』は踊り場の中央にスタスタと歩いて行く。

 『ドール』にとってはアドレアの『宿り木亭』だろうと、ガドル火山洞だろうとガドル半島内での移動なので『近い』の認識だったが、テツからすれば充分過ぎる移動距離だ。テツはこれだけで『舐めていた』ことを思い知らされる形となった。


「……な、るほど。『ドール』さん。胸を借りやす」


 テツは『ドール』と対峙した。


 頭では目の前にいる『ドール』が圧倒的強者であることは理解した。しかし違和感がついてまわる。

 戦闘態勢に入っていると思われるこの瞬間であっても『ドール』はそこらにいる少女にしか見えない上、いわゆる強者から感じる凄みのようなものも感じない。それが不気味な違和感となってテツを襲っている。それと感じさせない暗殺者の感覚であろうか。


《ボクはいつでもいいよ。どうぞ》


 特に構えるでもなく『ドール』が開始の合図をした。


(最初から全力で行くしかねぇ)


 テツは、まるで瞬間移動をしたかと錯覚させるような動きで『ドール』に接近した。そしていつの間に手にしたのか、愛用の双剣で『ドール』に斬り掛かった。

 斬撃の軌道は正確に『ドール』の首元を捉える。しかし、手応えがない。とっさに嫌な雰囲気を背後に感じ取ったテツはそのまま前方に身を投げ出した。直前までテツが立っていたその場所に上からドカンと衝撃波が飛んできた。


「くっ」


 飛散した石を受けながら着地した『ドール』に向かって再び斬撃を浴びせると、今度はいつの間に手にしたのか『ドール』が剣で受けてきた。

 その行動を見たテツはチャンスと捉え、手数にモノを言わせる乱撃で『ドール』に襲いかかる。しかし、ドールはその乱撃の一つ一つを全て一本の片手剣で受けていく。この乱撃は斬撃軌道を少しずつ変えて受けにくくさせ、最終的に受けきれなくなった敵を仕留めるテツの必殺の奥義であった……が、その全てが『ドール』に反応されている。


「まだまだっ!」


 テツは両手の双剣による斬撃の回転速度を更に上げる。そして手応えがあるまで止まらない覚悟で攻撃を仕掛けた。


《おぉ!凄いね!》


 『ドール』の余裕のある言葉が、テツに刺さる。次の瞬間、テツはみぞおち付近に鈍い衝撃を受けて吹き飛ばされた。一瞬何が起こったのかテツには理解出来なかったが、どうやら横蹴りまともに食らってしまったようだ。


「うぐぐっ」


 息が止まるほどの衝撃を受け、テツが地面で呻き声を上げる。


《こんなとこかな?テツさん。思ったより強かったよ。これならマスターの足手まといにはならないね》


 腹に受けた苦しみに耐えながら、テツがハッとする。

 どうやらこれは『ドール』による試験だったようだ。『ドール』のその言葉からどうやら合格であったことを理解したテツは内心ホッとした。


「……『ドール』さん、あんたも充分な化け物すね。付いていくかいがありやす」


 テツは精一杯の強がりを言った。そんなテツの様子を見てにっこりと笑みを浮かべた『ドール』であったが、不意にその表情を曇らせた。


「どうしたんすか?」

《すぐ戻ろう。マズいかも》


『ドール』はテツの手を取って、一気に『宿り木亭』の部屋まで転移した。


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