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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第九章 東国
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第155話 首相アドルフ=ゴールド

 ニキによる現状の説明が進む。

 話さなくてもいい余計な情報をそれとなく避けながら、それでいてしっかり概要を説明しきる話術は流石である。


「なるほど……つまりお二人が突然現れたのも、ヴィスタリア本国から結果的に離反する形になったのも、そちらのレドウ殿の持つアスタール帝国の遺産の力であるということなのだな」

「ご理解が早くて助かります。その通りです」


 ニキが恭しく一礼して着席する。

 すると首相アドルフはやや首を伸ばし、後ろの船長の方に視線を向ける。


「バーゼル。あれか、この話がつまり……」

「えぇ。ご認識の通りでしょうな。例の件に繋がるお話かと」


 事前に船長から盟主様と呼ばれてしまっていたレドウは、たぶん、盟主がどうのという話だろうと当たりをつける。

 出来れば崇められるのは避けたいのだが……と思う。この場で仮にそういった流れになってしまうようなら、あとでお願いをするしかない。


「我が国にもアスタール帝国にまつわる言い伝えが残っている。神器(アーティファクト)を用いる帝国の末裔が国を再興するという言い伝えがね……だが」


 首相アドルフはそこで一旦言葉を切る。


「私は『言い伝え』のような裏打ちのない概念的なものは基本的に信用していない。だが、そんな噂話や概念も魔導科学的に立証出来るならば話は別だ。私が信ずるは魔導科学に裏打ちされた事実のみ。どうだろう?可能ならばそなたの持つ神器(アーティファクト)のタクトをお貸し頂けないか?」


 首相の言葉を聞いた瞬間にレドウは《思考加速》を発動させた。こんなところで使うなと言われそうだが、レドウとしては『ドール』の意見を聞いておきたかったのだ。


(なあ、どう思う?どっちにしても偉いおっさんには使えねぇと思うけど……)

《あの人にとっての確認の意図だけど、自分では使えないことを確認したいのか、自分で使えないことを認めない理由にしたいのか……次第かなぁ》


(イシュタールに伝わっている話の正確なところはわかるか?)

《そんなの分かるわけないじゃん。ボクはずっとレドウのそばにいたんだよ》


(ん……じゃあせめて渡し方と回収で少し演出してみっか)


 《思考加速》を解くと、レドウは自分の手元から首相の手元まで転移ゲートを創り【王者のタクト】を送った。

 この間、実際の時間にしてほんの一瞬の出来事である。

 首相が言い終わった瞬間にはその手に【王者のタクト】が収まっているという状態だ。


「な!おぉ!」


 その一瞬の出来事に、首相は驚くとともに感嘆を漏らした。


「どうぞ。そいつ(・・・)が【王者のタクト】だ」

「なるほど……これは美しい。聖魔晶の輝きも深く、見つめていると深淵に飲み込まれそうな……それでいて何処か安心感のある包容力を感じる」


 そう言って首相アドルフは、タクトを振るって見せる。当然マスターロックが掛かっている【王者のタクト】は何の反応もみせない。先ほどレドウが目の前で使ってみせたにも関わらず……である。


「これが至高の技術……マスターロックか。素晴らしい。選ばれし者のみが使用出来るというこの技術。まさに盟主国にしか実現し得なかった技術(もの)だ!本物に立ち会える日が来るとは!私はなんて幸せ者なのだ!」


 レドウは似たような光景に既に立ち会っている。そう、一回目が船長である。イシュタールの人間はこれほどまでにアスタール帝国が好きなのかと思い知らされる光景だった。


(なぁ、マスターロックって『選ばれし者』なん?最初に復活したから使用権があるんじゃなく?)

《えぇ……違うよマスター、気づいてなかった?マスターロックのマスターって、要するにのマスターのことだよ》


(いや、その説明はかえって分かりにくいわ。要するに誰が復活させてたとしても、使えるのは俺だけだったっていう理解でいいのか?)

《……そだよ。あ、でも、もしかしたらレナードさんも使えるかも》


(そういうことか。理解した)


「ありがとう!良いものを見せてもらった。このアドルフ、そしてイシュタール共和国はレドウ殿とその仲間たちを歓迎しよう!」


 ここでホッとした表情のニキが安堵のため息を吐く。一人だけ試されていることに気づいていたニキが一番安心したようだ。

 三人の様子を確認した上で、首相アドルフは【王者のタクト】を目の前の机に置いた。


「レドウ殿にこれを返すには……ここに置くだけで良いのかな?」


 首相アドルフの顔は、何かを期待したような表情だ。ここで期待を裏切るのはなんとなく申し訳ないので、レドウは期待に応えてあげることにした。


 「あぁ、それでいい」


 そう言うと同時に《盗難魔法》を発動させる。一瞬でレドウの手の中に【王者のタクト】が収まった。


「うむ!それだそれ。それが見たかったのだ」


 首相はご満悦である。後ろの席では、船長も同様に興奮している。

 と、ここでレドウは船長の方を振り返る。船長はそんなレドウの視線にも頷いているので、もしかしたら事前に話は通っているのかもしれない。


「で、ちょいとお願いがあるんだが……」


 レドウが話を切り出すと、首相アドルフと目が合った。


「うむ。あれだな。事前にバーゼルから聞いておる。あくまでも親善特使としての立場を貫きたいとの話であろう?レドウ殿は既に見聞きしているようだが、イシュタールではアスタール帝国の存在が神格化されている。そんな中でレドウ殿の真実が知られてしまうと、我が国での満足な活動が出来なくなる懸念は大いに理解出来る。そこでだ……」


 首相アドルフは戸棚から一枚の書類を持ち出してきた。


「首相権限で、レドウ殿にはイシュタール共和国における官職を用意することにした。これならば、我が国としても礼節を保つという面目も立つ。必要以上に注目されることもないうえ、一定の地位があることで我が国での活動もしやすいだろう。どうだろう。受けてもらえるかな?」


 そう言って差し出した書類には『魔導科学技術庁 客員研究員』とあった。

 イシュタールの魔導科学について学びに来たレドウにとって最高の立ち位置である。


「そいつはありがてぇ。喜んで受けよう」


 レドウはアドルフからその辞令書を受け取った。


「よし、では早速レドウ殿に『官職市民証』を発行しよう。すぐにでも彼の後について発行手続きをしてくるといい」


 そう言って手近のボタンを押すと一人の職員が現れた。その職員の誘導でレドウは手続きのために一旦退席する。それを見届けると首相はニキとユーキの二人を方を向いた。

 その時点で首相アドルフの瞳は再び油断ならない光を帯びる。


「さて……と。話はそれだけではないのだろ?」


 イシュタール共和国にとってレドウという存在が特別なだけであって、ニキとユーキというカーライル家の存在はそれに値するものではないらしい。

 誰も気づかなかったが、船長バーゼルですらこの瞬間生唾を飲み込んでいた。


 ユーキも若干その威圧感に飲まれ気味であったが、そこは百戦錬磨のニキが発言する。


「首相。私どもの一番の目的はご挨拶です。こちらについては、レドウさんのお陰で目的を達成出来たと考えております。そして、次のお話ですが……ご存じの通りここのところイシュタールとシーランでは交易が始まりつつあります。現在はこちらの船長バーゼルさんの船を利用する商会の皆様をはじめとした、一部の商取引が進んでいる状況です。これを本格的な『貿易』として取り決めをしてゆきたいと考えております」

「ふむ……それで」


 アドルフが腕組みをする。


「貿易管理担当として、息子ユーキが立ちます。そして貿易に必要なルール整備をしてゆきたいのです」


 ニキは首相アドルフに対して、にこやかにそう伝えた。


「ここから先は、この私ユーキが行います」


 首相アドルフの迫力に少々気圧されながらも、ユーキはミンダルシア(・・・・・・)語で話し始めた。

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