第14話 そして
翌朝、レドウはタルテシュ南西にある高級住宅街の一等地にある屋敷を訪れていた。
冒険者たちの都市であることを考えると大豪邸である。
まだ早朝の域を出ない時間帯であったが、レドウは呼び鈴を押しまくっていた。
「なんですか、レドウ。こんな朝っぱらから」
眠そうな応答がインターホンから聞こえてくる。そもそもタルテシュでインターホンが付いている個人宅が一握りだ。
「おぅ、ジラール。用があるんだ。開けてくれっかな?」
「今日はこの後依頼で出かけるのでもう少し寝かせて欲しいのですけど」
「そう言わずによ。それに依頼で出かけられちゃ話せないだろ?今日話したいんだよ」
入口の門がギイと自動で開いた。
レドウは勝手知ったる家とばかりに玄関を通り、いつものレドウ専用?応接に入った。
「……ここは私のプライベートな書斎だから勝手に入らないようにとあれほど」
「まあいいじゃねぇか。本当に入って欲しくなきゃ鍵でもかけとくんだな」
ふぅ。とため息をつくジラール。
「で、要件はなんでしょうか?」
応接のソファに腰をかけ、ジラールは静かに問いかけた。
「2つある。まずは簡単な方からだ。ジラールんとこに要らない適当な剣がないか?先日の遺跡探索で護身用のバスタードソードがおしゃかになっちまってよ……。俺のところにも一振り間に合わせがあるんだが、どうにも心もとなくてな」
「その依頼で、魔石の買い取り額がかなりだったと聞きましたよ。それで買えばいいじゃないですか」
何を言っているんだとジラール。
「だから、その金で買いに来たんだよ。なんか掘り出しもんはねぇか?」
「なぜギルドの購買に行かないんです……?」
「決まってるだろ。ギルドで買ったらリズに足元見られるじゃねぇか」
ジラールは再び深いため息をつくと、立ち上がった。
「いつもあるわけではないですが……、たまたま先日の遺跡探索で手に入れたレドウ向きの剣が一振りあります。それが気に入らないようなら、ちゃんとギルドの購買に行ってくださいね」
一度部屋から出たジラールは、剣を持って戻ってきた。
「これです」
「おぉ……。聖銀の大剣じゃねぇか。よし、買った。いくらだ」
「じゃあ、これでいいんですね。価格は……そうですね。恐らく遺跡探索者の遺品でしょうし、手入れもされてないので、相場の半額くらい……6,000リル程で」
目の前のテーブルに金貨6枚を置いたレドウは、聖銀の大剣を受け取った。
「で、もうひとつの要件は?」
「あぁ、それなんだが……」
と、レドウは懐を探り、テーブルに一つのペンダントを置いた。
「子供のころ、ジラールも会ったことがあると思うが、こいつはうちの祖父さんが身につけてたペンダントだ」
「さすがによその家のおじいさまが身に着けていたものなんて覚えてませんが」
「いや、まあそこは本題じゃない。ペンダントのレリーフを良く見てくれ」
レドウに促され、ジラールはペンダントを手にとった。
「この模様というか、紋章と言うか……どこかの遺跡で見覚えはねぇか?」
「細かい遺跡まで全てを覚えているわけではないですが、一つだけすぐ思い出せる有名な遺跡の扉に、これと似たようなレリーフがありましたね」
「本当か!それはどこだ」
「このレリーフがなんだというのですか?」
ジラールの目がキラリと光る。
(まだ、タクトのことを言うわけにはいかねぇ。どうしようか。)
「いや、実は今回行った遺跡にもこのレリーフがあってな。ただの遺跡だと思ってたんだが、うちの祖父さんのペンダントと同じ模様であることを思い出してな。結局つながりはいまのところ良くわからねぇんだが、もし似たようなとこがあるなら行ってみたいと思ってな」
「タクトといいペンダントといい、レドウの行動基準は全部おじいさまなんですね。いいでしょう。教えましょう」
ジラールは地図を取りだした。タルテシュを中心とした北リーデル地方の地図だ。
「タルテシュの南。街道と西のリデル湖から流れるリーデル大河が交わる、河岸の村リーデルサイド。そのすぐ近くにある南岸の遺跡の扉の模様が、確かこれと同じだったはずです」
地図を指した指がすすっと南に向かい、川と交差するあたりで指を止めた。
「他にもあったような気がしますが、今すぐは思い出せないですね。まずはここに行ってみたらどうでしょう。遺跡の踏破難易度は高くないですし、有名どころで探索されつくしているから魔物はあまりいないですし、いても中堅冒険者には簡単すぎるくらいのとこですから、様子見に行くには良いかと思います」
「そうか。情報ありがとよ」
「いえ、真剣に冒険者するなら私は応援しますよ。他にも見かけたり、思い出したりしたら連絡入れるので」
「俺はいつでも真剣なんだが?」
「そう見えないから、心配してるんですよ」
……
豪華な造りの一室から二人の女性の声が聞こえてきた。
「あ~ぁ。結局予定通りにはいかないものね」
「えぇ、ですが、魔石の換金収入が割とあったのは僥倖でした。これでしたら多少の財政補助にはなるでしょう」
「たかだか30万リル程度じゃない。うちの予算の10分の1にも満たないわ。ないよりはましかもだけど」
「そうです。ないより良かったと考えましょう。ですが、やはり毎回あのような危険を冒すわけにはまいりません。お嬢様に万一のことがあったら」
アイリスの声がやや沈む。
「でも、目的は達成出来てないじゃない。あのうざったいマーニス家のように冒険者から入場料をもらって入場させ、冒険者が得た魔石も一部税金で回収できる……そんな遺跡の開拓が目的だったのに。自由に入ったり出たり出来ない遺跡じゃ、なんの役にも立たないじゃない。景色は綺麗だったけどさ」
「他の手段で安定した財源の確保が出来たら良いのですけどね。それはそうと」
「ん。なーに」
シルフィの顔をジッと見つめ、アイリスは言葉を続けた。
「レドウさんはどうしますか?」
「あの力は反則よね。隠すようにアイリスが言ってくれたけど、どっか抜けてるから絶対にみんなにバレちゃうわ。そしたら、他家がほっとかないでしょ」
部屋の長椅子に身体を預け、横になるシルフィ。
「目の届くところに置いておきたい。ということですね」
「そうよ。パパにお願いして先にうちで確保しておきたいわね」
「そうですね。最初はどうなることかと思いましたが、最後の方はお嬢様とも仲良さそうでしたし」
「ば、馬鹿。そんなことないわよ。あんな失礼なやつ。じゃなくて、他家に取られるくらいなら……って話よ。特にマーニス家に取られるのが一番最悪だわ」
ちょっとだけ顔を赤らめるシルフィ。アイリスはそんな様子を気づいたそぶりも見せずに冷静に続けた。
「そこは同意します。で、どうします?」
「そうね。アイリスの部下でいいんじゃない?実力は問題ないでしょ?」
「その意味ですと、残念なことにうちの騎士たちでは、彼にかなう人間はいないでしょうね。私も条件次第では勝てないかもしれないですし。ただ……」
「ただ?」
「『騎士』をお願いすると嫌がりそうですね」
アイリスの言葉を聞いたシルフィは、寝転がっていた長椅子から勢いよく身体を起こすと瞳をキラキラさせた。いわゆるいたずらっこのあれだ。
「あはは!確かに。『俺は魔法使いだから、騎士にはならねぇよ?』とか言いそう」
「お嬢様。今の真似、とても似ておりましたよ。よく見てらっしゃいますね」
「……。そんなことはどうでもいいのよ。騎士じゃないなら宮廷魔術師でもなんでもいいわ」
赤くなったシルフィがプイと顔を背ける。
「わかりました。私からも閣下に口添えしておきますね」
「お願いするわ。……余計なことは言わなくていいからね?」
……
とある場所にて。
「申し上げます。令嬢がご帰宅されたようです」
「で?」
「え?あ、以上でございます」
「バカ野郎!」
ボグッという鈍い音がする。
「そんな報告はいらん!俺が命令したのは『どこに行ったのか調査して報告せよ』だろうが」
「あ、いえ、ですからまずは居場所が判ればと思い・・ゲフッ」
「お前は能なしかっ!なぜ数日家を空けたのか?なぜ今日帰ってきたのか?そこから何に関心があるのか?まで調べて報告するのがお前の役目だろうが!」
ガンッと、今度は金属音が響く。殴り倒した上に、軍靴で踏みつけたようだ。
「ちったぁ考えて行動しろよ。能なしはうちにはいらんのだよ。分かったらさっさと調べてこい!」
「あ、は……はい」
暴力を受けていた男はその場から立ち去ったようだ。
「ったく。使えんやつは何任せても使えん」」
いらだちを隠せないその男は深々とソファに身体を預ける。
「……お困りでしょうか」
すっと。気配もなく影が現れる。
「おぉ。お前か。いいところに来た。ちょっと頼まれてくれんか」
「わかりました。先ほどの使えない男を始末すれば良いですか?」
冷たい声が部屋に響く。
「いや。まあそれでもいいが、それより別件でお願いしたいことがあるのだが」
「例の件……ですね。ややお時間が必要ですが」
「かまわん!やり方は任せる。結果を出して報告せよ」
「御意。全てまとめて解決致しましょう。では……」
影はいなくなった。
……
翌朝、一人の男の惨殺死体が、王都からほど近い山岳地帯で発見された。
被害者の顔は無残にも切り取られており、身元の特定は出来なかったそうだ。
ここまでが、第一章となります。次話から第二章です。
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