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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第七章 混沌
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第128話 前奏曲

 レドウ達がいなくなった王都ウィンガルデの門前広場には、巨大な魔獣達から逃れてきた大勢の市民が集まっていた。


 今、魔獣は何故か動いていない。

 だが道は破壊され、至る所に市民の遺体が散乱し、いつまた動き始めるか分からない魔獣達のいる市街へ戻るわけにもいかず、その場から動けずにいるのが現状であった。


 そこに一人の身なりの良い男が二人の従者を引き連れて現れた。

 男はヴィスタリア連合王国国王カイル=イスト=ヴィスタリアその人であった。

 ちなみに従者として控えているのは、ロイを名乗るロム=イスト=ロイスウェルと、ライゼルの息子であり正規軍元帥のハーティス=イスト=ハズベルトだ。


 その姿に、避難していた市民の一人が気づくと次々に口コミによって広がり、あっという間に国王の前には人だかりが出来上がった。

 国王カイルは人々の視線の中、門前広場にある舞台……通常は旅芸人らが道行く人々に披露するためのいわゆる公園の舞台だが、そこの中央に立って市民の方を向く。

 ロムとハーティスはその脇で跪く格好だ。


「此度の騒動において多くの犠牲を払い、愛すべきウィンガルデ市民の皆様に被害を出してしまったことを、朕より国王として詫びを伝えたい!」


 カイルは会釈程度に軽く集まっていたウィンガルデ市民達に軽く頭を下げた。

 市民達からざわざわと不満の声が上がるが、ハーティスの「静まれっ!」の声でざわざわが消える。


「まず、朕から現状を説明しよう。皆を混乱させてしまった魔物だが、あれは魔獣ではなく本質は王都を守護するべく生まれた聖獣である!だが、皆は覚えているだろうか?レドウという男がアスタルテ家を乗っ取り、国家転覆を謀ったうえ脱走し逃亡中であることを!此度我らが聖獣を狂わせ愛すべき市民を陥れたのだ!これは断じて許されざる事態だ!!」


 すると市民の何人かから声が上げる。


「レドウってさ、さっきここで戦ってたやつだろ?俺、そいつの仲間?に助けてもらったんだけど?」

「でもさぁ、国王の話ではその襲ってきた聖獣とやらを狂わせたのもそいつらなんだろ?マッチポンプなんじゃないの?」

「のわりには必死過ぎじゃなかった?混乱させて、助けて、っていうマッチポンプするにしたってさ、もっと安全なとこでやるんじゃ?」

「作戦のミスがあったんだろ?正直もうわかんねぇよ……」


 至る所から噂話が飛び交い始める。


「静粛に!国王のお話はまだ終わっていないぞ」


 すると今度はロムの声で市民の私語が静まる。


「思うところは多くあるだろうが、朕から皆に伝えたいのは……こちらのロイ=イスト=ロイスウェル殿の働きによって、聖獣のコントロールは取り戻した。よって市内は元の安全な状態へと戻っているということである!聖獣たちはロイ殿によってしかるべき場所へ誘導していただく。また、王都の復興修繕に関しては、こちらのハーティス殿の指揮で速やかに進める予定だ」


 ロムとハーティスが市民に向かって頭を垂れる。


「朕もこれより王宮に戻る。安全であることを証明するためにも市街を歩いて戻ることにしよう!不安な者は朕と共に戻るように!以上だ」


 国王カイルは舞台を降り、宣言通り歩いて商業区画方面へと向かう。

 門前広場に避難していた市民も半数以上はそれについていった。

 一部、説明を信じ切れない者達も、その場に留まったハーティスと会話したり市街修繕対応の為に集まってきた正規軍と言葉を交わすなどしながら、少しずつ王都内に戻っていったのだった。


……


「みんなぁ?魔獣騒ぎの件がぁ、レドウのせいにぃされたみたいよぉ?」


 王都からほど近い街道沿いにある一軒家、ここはカーライル家の斥候が使用している隠れ家の一つである。

 ウィンガルデの門前広場から逃れた六人は、満身創痍で気を失ったレドウの回復を待つ目的でここに潜伏したのだ。


 追っ手が掛かっているか等の情報を集めるため、単身リズが門前広場まで戻って国王カイルの演説を聞いてきたところだった。


「ふん……まぁ今更だ」


 リズの報告にソーマが静かに応える。予想通りといったところだ。


「ライゼルさんソーマさん、もし知っていたら伺いたいのですが、私達……が戦っていたあの得体の知れない男は何者なのでしょうか?」


 アイリスがライゼルとソーマに向けて質問する。

 ちなみに既に隠す意味がないということでライゼルは黒い頭巾を外していた。被っていた時であっても意味がなかったことは誰もツッコまない。


「知ってる奴に似てはいるんだが……なぁソーマ。あの顔はロイ殿だろう?でも俺の知ってるロイじゃない。明らかに別人だ。どういうことか俺にも分からん。お前はどう見る?」


 ライゼルがソーマに振る。ソーマも首をかしげている。ちゃんと理解しているわけではなさそうだ。


「言われてふと思い出した事がある。今の今まで忘れていたが、わしがまだ少年だった頃……そう、まだロイスウェル家の前当主のロズワルド殿が健在だった頃の話だ。その……ロズワルド殿から聞いた話なのだが『双子が生まれた』と一度だけ聞いた気がするのだ。だが、結局今のロイ殿以外の者がロイスウェル家に居るのを見たことが無い。すっかり忘れていた」

「双子……か」


 ライゼルはそう言って沈黙する。

 ここでレーナが発言したそうに手を挙げた。


「とするとさ、どっちが本物の当主さんなのか知らんけど、今分かってる限りじゃロイ(・・)が二人いるってことだろ?で、わかりやすく言えば一人は影武者だよな。本名とかどうでもいいんで、今回戦った方をロイ(影)とかにしとけば?表に出てきている人とは別人なんだろ?」

「少なくとも、片腕になった筈なので見分けやすくなりますね」


 レーナの発言にアイリスが続ける。


「いや……仮に戦った方が真の当主だったとしたら、表のロイの腕を同じところで切りかねん。影武者とはそういうことだ」


 ソーマがアイリスの言葉を否定する。


「でもぉ、さっきぃ国王さんがぁ演説していたときにぃ、ロイさんってぇ人がぁ控えてぇ居たけどぉ腕あったよぉ?」

「斬るのはこれからなんだろ?」

「でもぉ、戦っているときぃ周りに人居たしぃ、演説の時にはぁもう斬っておかないとぉ『別人』ってぇ認識されちゃうんじゃない?」


 リズが腕切りをそろえる可能性を否定してくる。

 理由はリズにも明確には分からないのだが、何故かそんな気がするのだ。第六感とでもいうのか。


「あぁ。多分リズの言う通りだ。恐らく腕は再生してくる」


 レドウが目を覚ました。身体をゆっくり起こすが倒れそうになったところをレーナが支える。


「再生?」

「闇属性魔法ってのは……あ、ええと。アイリスしか知らねぇよな。俺が【王者のタクト】(こいつ)で使ってんのは、闇属性の魔法ってやつだ。でな?さっきの話題に出てきてたロイ(影)ってやつは、これと同じ闇属性魔法と使ってきていたんだ」


 そう言いながらレドウは懐の【王者のタクト】を取り出した。


「闇属性魔法ってのは、いろんなものを魔元素エネルギーを使用して創り出す魔法だ。正しく理解するには時間が掛かるが、まあそういうもんだと思ってくれ。ということは……」

「なるほど。その闇属性魔法で腕を再生させるだろうから、もう一人が腕を斬る必要は無い。と、こういうことか」


 レドウの説明で最も最初に反応を示したのはソーマだ。

 やはりこの人は頭も良いうえに、柔軟である。


「まぁ、考えすぎても答えはでねぇな。とりあえず二人居て一人は表舞台で、一人は裏世界で活動していると思ってればいいんじゃねぇのか?」

「そうですね。その通りだと思います」


 レドウによる纏めでこの場の打ち合わせは終了した。意識が戻ってきた今、この場に留まっている理由はない。

 転移ゲートを作成したレドウは適当な順に皆を誘導して、六人全員がこの場を去った。


……


「くそっ油断したか……」


 ロイは自室に戻ってきていた。表の仕事は全部ロムに任せているので、国王カイルと共に事後処理を上手く進めてくれることだろう。

 レドウと実際に剣を合わせてみての実力を感じ、自分の方が上だと思った時点で協力者の想定を抜いてしまったことが、今回の大きな失策の原因である。


 ロイにとっても手痛い失敗であった。

 闇属性魔法というのは想像力の魔法だ。ロイの目から見て使いこなせていない今が叩く最大のチャンスだったのだから。


「ロイ様!あぁ、なんてことっ!」


 ソファにもたれかかるロイの元に慌てて駆け寄るユーレチカ。

 ロイから差し出された腕を止血し、テキパキと治療を施していく。


「血が止まればそれでいい。あとは俺が何とかする」

「何とかって……」


 ユーレチカは後悔していた。ロイが出撃すると言った時のことだ。

 もともとは知った顔であるユーレチカが出て、翻弄する予定だった。しかし、急に気が変わったロイが『俺が出る。ユーレチカは控えよ』と言ってきたのだ。


(強引にでもお止めすべきだったのだ……)


 ユーレチカの表情は暗く沈んでいる。


「そういう顔をするな。俺が自分で出ると言って失敗したのだ。むしろこれは俺自身への罰だ。それに……」


 ロイは【常闇のタクト】振る。

 するとユーレチカが応急措置を施したところから、先の腕が一瞬にて再生したのだ。


「こ、これは??」

「魔元素で再現した俺の腕だ。こういうことも出来る。特に問題は無い」


 そういって、普通の腕と同じように再生した左腕を動かしてみせる。

 指の繊細な動きまで問題なく稼働する。


「幻ではないぞ。実体があるものだ。こうして……な」


 ロイの再生した左手がユーレチカの太腿を掴む。ユーレチカの身体がビクッと反応する。


「あ……ちゃんと温かいですね」

「もちろんだ。普通の腕となんら変わらん。だから問題ないと言うのだ」


 そう。ロイにとって重要な問題なのは、腕を失ったことなどではなく、このあとどう動くかである。

 今回の攻防では結果的にはロイが敗北したようなものだ。それがロイには悔しくて仕方ない。


「……全く。どうしてくれようか」


 ロイの口元が醜く歪んだ。


本話にて第七章が終了です。

次話から第八章ですが、明日法事で遠方まで出なくてはならないため、更新が出来ません。

またコレは個人的な理由ですが、第八章のプロットが中途半端なままですので少し再開まで時間が欲しいと思ってます。

そこでキリよく次回投稿は11/1からとしますので、見捨てないで待っていてもらえるとありがたいです。

よろしくお願い致します。m(_ _)m


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