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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第六章 内乱
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第100話 黒い企み

 第三師団による停戦の申し入れが受理されて少し経った頃、師団長ハイラムのいる天幕を一人の男が訪れていた。マーニス家当主グリフィスである。

 ハイラムは一時帰投のため、荷物を纏め始めた矢先のことである。

 魔法隊長のエルダに強く進言されたことも大きかったが、それだけで停戦交渉や帰投準備を始めるハイラムではない。彼なりにこのまま強行進軍したところで勝ち目はないと冷静に判断した結果である。

 戻った上で、父ライゼルの助言を仰ぎたいと考えていたのだ。


 そんな折り、現れたのがグリフィスである。

 一瞬「これが父ライゼルであったら良かったのに」と考えてしまったほどである。


「これはグリフィス閣下。このような前線にお出ましになるとは。現在停戦中ではありますが、ここは敵の攻撃も届く戦地。御身に危険が降りかかる可能性があります。急ぎ戻られたほうが宜しいかと」

「……停戦中?どういうことだ?そろそろ勝ち鬨が上がる頃と考えて出向いたのだが?」


 明らかに不満そうな表情を浮かべるグリフィスに、ハイラムはタルテシュに現れた鉄壁の城壁、効かない自軍の魔法攻撃と弓攻撃、敵軍から放たれた大魔法。結果として第三師団のみでは戦力的に不足しており、やむなく停戦を取り付けたことを説明する。


「なんと!ハイラム師団長殿は、そのような不甲斐ない戦果を自国に報告するおつもりだったのか?」


 あまりにも心ないグリフィスの物言いである。ハイラムもこれには苛立ちを隠せずにいる。


 あの大魔法による絶望的な光景を見てもいない、剣も握れぬお偉方が何を言い出すのだと。

 そもそも家柄的にもマーニス家よりハズベルト家が上位。いかな当主といえど、上位であるハズベルト家の自分にずいぶんな言い方だとハイラムは思っていた。


 だがこんなことで敵対しても仕方のないこと。現状戦力差を埋める術が見つからないのも事実なのだ。

 文句があるならば貴方が率いてみればいい。とも思う。


「閣下になんと言われようとも、いたずらに兵の命を脅かすような真似は命を預かる一師団の将として、容認できませぬ。改めて作戦を練り直す必要があると考えての撤退でございます」


 ハイラムはグリフィスから視線をそらし、片付けを再開する。

 これ以上グリフィスを視界に入れると、苛立ちと怒りで爆発してしまいそうであったためだ。


「……作戦。ふむ、なるほど。流石は師団長殿だ。これは作戦であったか。なればそう言って頂ければ納得出来るというものだ」


 グリフィスは一人で手をポンと叩きながら何事かを納得しているようである。


「なるほど、だから停戦中ということか。これは願ってもない好機(チャンス)

「閣下?先ほどから何を言っておられるのですか?閣下も早く戻る準備を……」

「準備?あぁ確かに準備と言われればその通りだ。これ以上ないお膳立てが用意されている。失敗するわけにはいくまい」


 なおも不可解な言動を繰り返すグリフィス。

 頭がおかしくなったのではないかとハイラムが思った時、グリフィスはハイラムを真っ正面から見据えた。その視線は何か人の心を抉るような冷徹な輝きを持っている。

 油断のならぬグリフィスの様子をハイラムは怪訝に思った。


「ハイラム師団長殿。今が好機(チャンス)だ。敵は停戦中と気を抜いている今こそ攻め時であろう?」


 グリフィスは言った。闇討ちせよと。

 目の前の男は、誇り高きヴィスタリア正規軍。しかも自分が率いる第三師団に向かって、闇討ちを示唆してきたのである。


「馬鹿な!閣下は誇り高きヴィスタリア正規軍に、そのような汚い真似をさせるおつもりかっ!マーニス家当主といえどそのような冒涜発言は許せませんぞっ!」


 ハイラムは怒りの形相でグリフィスを睨み付ける。

 だが一方のグリフィスは、そんなハイラムの様子を意に介さず涼しい顔をしていた。


「……フッ、ハイラム師団長殿。まだ青い。誇り高き正規軍だからこそ、どんな手段(・・・・・)を使ってでも勝利をしなくてはならないのだ。そもそも敵であるレドウは犯罪者だ。犯罪者相手にそのような騎士道精神など必要か?否。不要だ。この戦いは勝利こそ正義だ」


 雄弁に語るグリフィスをハイラムは歯ぎしりする程強く奥歯を噛みしめて睨み続ける。

 もうこの認識の差異を埋める術はなさそうである。


「ふむ……頑なだな。どうしても動けないのであれば、仕方ない。汚い真似を相手に使ってもらうことにしよう」

「どういうことだ?」


 グリフィスの言っている意味が理解出来ず、ハイラムはそのままグリフィスに問いかける。が、グリフィスがそれに応じることはなかった。

 そして一回だけ指をパチリと鳴らす。

 音もなくハイラムの背後に一人の気配が現れる。


「な!貴様まさかっ!……ぅぐぁ」


 グリフィスの呼んだ暗部の凶刃が、背後からハイラムの胸部を深々と抉っていた。


「お……のれ……」


 ハイラムの膝がガクンと落ちる。

 身体から引き抜かれた暗部の刃は、次のアクションでハイラムの首を刎ねた。

 無念の表情が刻み込まれたハイラムの頭部が地面を転がる。


 首のなくなったハイラムの身体の向こうに見えた暗部の顔は……なんとユーリであった。

 物言わぬ骸となったハイラムの遺体を面倒くさそうに払いのけると、グリフィスはハイラムの荷物から【勇気の神剣】を取り出した。


「はっ……ははっ!手に入れたぞ!ユーレチカ。そなたのお陰だ」

「……あんたにユーレチカだなんて呼ばれたくないんだけど」


 【勇気の神剣】を手にじっくりと大剣を眺め見るグリフィスの表情は満面の笑みであった。

 ユーレチカと呼ばれた暗部の悪態など気にもとめない様子である。


「何とでも言うが良い。これで【勇気の神剣】はこの私のモノだ。誰にも渡さぬわ!よくやった。ユーレチ……呼ばれたくないのだったな。コードネーム[ユーリ]よ。そちの働き、存分に評価しようぞ」

「……どうでもいい。何度も言うけどあんたのために動いているわけじゃないから、勘違いしないように。じゃああたしはもう行くよ。せいぜい上手くやんな」

「待て。これを持って行け。既に私のものではあるが、この場にあるのは都合が悪い。私が持って出るわけにもいかぬ」


 グリフィスから【勇気の神剣】を受け取ったユーレチカは、フンと蔑むように鼻であしらうとその姿が掻き消える。それを確認した上で、グリフィスは一度外の様子を伺う。誰の姿も居ないことを確認した上で、天幕に戻り大声で悲鳴を上げた。


「どう致しました?!」

「何事か!」

「し、し、し、師団長殿がっ!」


 グリフィスの悲鳴を聞いて真っ先に駆けつけたのはワイマール。そして騒ぎを聞きつけた人々が続々とハイラムの天幕に集まってくる。そして真っ先に天幕に飛び込んだワイマールは、中で無残にも惨殺されたハイラムの遺体と腰を抜かして座り込むグリフィスを見つけたのであった。


「閣下!グリフィス閣下!一体何があったのでございますか!」


 放心状態となっているグリフィスの両肩を揺さぶるワイマール。

 その間にも騒ぎを聞きつけた人々が次々と天幕に集まってくる。


「入るな!まだ入るでない!」


 天幕の中に人が入るのをワイマールは必死に押しとどめる。

 人だかりの中に弓隊隊長のダグラスの存在を見つけたワイマールは彼を天幕の入り口に呼び寄せ、人が天幕に入るのを止めておくようお願いし、再び天幕の中に戻る。

 そこではハイラムの遺体の前でまだ腰を抜かしているグリフィスがいた。


「閣下、いいですか。まずは落ち着いて下さい。そして、何があったのかお話頂けますか?」


 ワイマールは、気を落ち着かせるようにゆっくりと話し掛ける。が、現実このような場面に出くわして平常心でいられる方がおかしいとも思う。

 ただ今はとにかく情報が欲しかった。


「わ、わからぬ。わからぬのだ。つい先ほどまで私はハイラム殿から停戦についての話を聞いていたのだ。そのとき誰かがこの天幕に入ってくる気配があったので、私は後ろを振り返って入り口を見たのだ。……だが、そこには誰もおらんかった。次の瞬間、ハイラム殿のうめき声が……私は驚いてハイラム殿の方を見ると、既にこの状態であったのだ……」


 グリフィスはその光景を思い出したのか全身が小刻みに震えている。呼吸も荒く、若干過呼吸気味のように見受けられる。


「まさか停戦受諾はブラフ……」


 ワイマールは考えたくもない可能性を口にした。

 いや、そんなはずはない。あのカーライル家当主ニキの堂々とした立ち振る舞い。大儀を重んじる言動からは、停戦にかこつけた暗殺など考えにくい。


(……では誰が?……分からぬ。レドウという男の仕業なのか?ニキ閣下の思惑すら踏みにじる?そうでないとしたら一体誰が……)


 ワイマールは天幕の中を改めて確認する。

 だが、一つあるはずのモノが見当たらなかったのだ。


「【勇気の神剣】がないっ!」


 戦慄するワイマール。その声を聞いたグリフィスの口元が小さく緩んだが、その様子に気づいたものは誰一人いなかった。


(こんな大それたことをしでかすなどっ!神器(アーティファクト)を狙ってくるのはレドウのみ!……おのれレドウめっ!奴は悪鬼か!)


 ワイマールはニキと会見をしていたが、レドウの為り人をよく知らなかった。それが裏目に出た。

 目の前の腰を抜かして倒れているグリフィスが仕組んだことであるという可能性に、一切気づかなかったのである。


「グリフィス閣下。ご心痛お察し致します。どうか、私の天幕にてお休み下さい。もう大丈夫です」


 グリフィスに肩を貸しながらワイマールが天幕から姿を現すと、詰めかけていた人だかりの視線が一斉に注がれた。あたりがしんと静まりかえる。皆、私語をやめ、ワイマールの次の言葉を待っていたのだ。


「師団長殿が……暗殺された!こちらにおわすグリフィス閣下との会見中、賊は師団長殿の【勇気の神剣】を狙って天幕に乗り込み、奪うのに邪魔であった手練の師団長殿を手に掛けたようだ!このような暴挙を許すわけにはいかぬっ!停戦などせんぞ!気の緩んでいる今が好機(チャンス)である。皆の者、剣を取れ!タルテシュを落とすぞっ!」


 ワイマールの号令で第三師団の士気が上がった。

 それだけハイラムが慕われていた。ということでもあるのだが……戦況はグリフィスの思惑通りに事が進みつつあった。


ついに100話を迎えました。

まだまだ続きます。応援よろしくお願いします。

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