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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第六章 内乱
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第99話 停戦の申し出

 ヴィスタリア正規軍第三師団の魔法隊を束ねる魔法隊長のエルダは、師団長ハイラムより遠隔魔法による一斉攻撃の指令を受け、各魔法部隊への指示を行っていた。突如目の前に現れた巨大な城壁がターゲットであり、この牙城を崩すのが魔法隊に課せられた使命である。

 

 こうした集団で攻城戦で使用する魔法は、主に火魔法隊による火球(ファイアボール)と、光魔法隊による光輝く矢(シャイニングアロー)の一斉爆撃である。この攻撃による物理破壊が上手くいかない場合は、属性を変えて風魔法隊の暴風(ウィンドストーム)による城壁の物理破壊か、水魔法隊による氷結魔法で様子を見る。というのがセオリーである。


 魔法隊長エルダは、セオリーに忠実に各魔法隊へと指示を出していく。

 そして次のエルダの合図で、火魔法隊と光魔法隊による一斉射撃を開始した。


 2系統の魔法で同時攻撃するのにはちゃんと意味がある。簡単に言ってしまうと、魔法攻撃をレジストされないためだ。


 例えば、火の魔元素を操作した火球(ファイアボール)は着弾側に優秀な火の魔元素を操る魔法使いがいた場合、技量次第で威力の半減や消失。もしくはその効果をそらされてしまう可能性がある。

 要するに同系統の魔晶石を宿したタクトを所持する魔法使い相手の場合、相手の技量次第でその魔法を無効化出来るというわけだ。これこそが魔法戦の本質である。

 しかし2系統以上で同時攻撃をすることで、話は変わってくる。レジストが格段に難しくなるためだ。


 というのも2系統を操れる魔法使いであったとしても、重なり合う魔元素エネルギーを器用に分離させてレジストすることは、2系統の魔法を放出することよりはるかに難しいからである。

 これは受け側に何人魔法使いがいたところで同じことであった。


 エルダは、部下達の放つ魔法が城壁に着弾する様子を見ながら、勝利を確信していた。というのも敵側にレジストを行う気配が感じられなかったからだ。

 この様子であれば「数回の一斉射撃で城壁は破壊できるだろう」と、試算していたからである。


 だが、現実はエルダの想定から大きくかけ離れたものであった。

 爆煙が晴れてそこに現れたのは、何の損傷のあとも見られない城壁と、先ほどと変わらぬ冒険者たちの姿であった。


(……そんな馬鹿な!レジストもせずにあの一斉爆撃が無効化される??レジストの気配がなかったのはレジストするまでもないってことっ?)


 エルダは、再度魔法隊に火球(ファイアボール)と、光輝く矢(シャイニングアロー)の一斉発射を指示する。だが、結果は何も変わらなかった。

 魔法隊の攻撃は城壁に全く届いていなかったのだ。


(わからない。どういうこと?一体なぜ……)


 部下たちには攻撃を続けさせながら、エルダは効果の見られない城壁の状態に集中する。

 エルダほどの使い手であれば、着弾地点の魔元素エネルギーの動きは手に取るようにわかる。レジストしているのであればその魔元素エネルギーの流れをキャッチすれば良いだけのことである。


 そして大分見えてきた。

 部下の魔法隊の攻撃は、城壁とは異なる場所……今のエルダには何と表現したらいいのか分からなかったが、やや手前の空間に見えない壁のようなものがあり、放った魔法はそこへ着弾しているようなのだ。簡単に言えば、城壁の手前で止められているために城壁には物理的に届いていないということだ。


「打ち方やめ!」


 エルダは自身の仮説を確かめるため、一旦部下に攻撃をやめさせる指示を出した。

 そして自ら魔法隊の陣頭に立つ。


「私が確かめます!皆の者控えていなさい」


 エルダは彼女自慢の制御石Lv3を設定したタクトを構えると、頭上に極大火球(ファイアボール)を作り上げた。その瞬間、部下たちから歓声が上がる。


 ヴィスタリア正規軍全師団を合わせても数人しか所持していない制御石Lv3。その中でもエルダは最もその能力を引き出している自負があった。

 この自分が操る魔元素エネルギー……いわゆる魔導力で突破できないのなら、部下がいくら絨毯爆撃を行ったところで効果が得られないことについて、納得出来るというものである。

 エルダは城壁を睨み付けた。あの城壁さえなければとっくに任務は終えているはずである。そして彼女がタクトを振ると、練り上げられた極大火球(ファイアボール)はものすごい勢いで城壁に襲いかかった……が、やはり先ほどまでと結果は同じであったのだ。

 

「なるほど……。これでは魔法隊の攻撃が届かないわけね。この事実を師団長殿に報……なに!?このエネルギー量!」


 自身を納得させるための独り言を言い終える前に、エルダは強大な魔元素エネルギーの収縮を感知した。その場所は、先ほどエルダが狙った城壁の上である。


 明らかに、先ほどエルダが操った魔元素エネルギーの数十倍のエネルギー量だ。

 この差が感じられないほど未熟な魔法使いではない。


「みんな!!ここは危険だっ!総員待避っ!急げ!」


 エルダはその凝縮した魔元素エネルギー総量に戦慄した。

 残念ながらとても自分の扱える量ではない。圧倒的な上位者がその血にいて、第三師団本陣を狙っているのである。しかもその魔元素エネルギーの質が読めない。近いのは光魔法であろうか?だが凝縮された魔元素エネルギーからは凶悪とも呼べる力が見え隠れする。


 それは光……のようでもあり、かつ火のようでもあった。


(……まさかあれはっ!融合魔法なの?それはレジストできないっ!)


 率先してその場から走ってでも逃げ始めるエルダ。風魔法を設置していなかったのが痛い。


 尊敬するエルダ魔法隊長。その魔法隊長が脇目も振らずに逃げ出した。

 その様子を見て始めて事態の深刻さに気づく魔法隊メンバー。


 風の魔晶石をセットしている者は一斉に風移動(ウィンドウォーク)を起動して散開する。

 魔法隊のあまりの混乱振りに、密集隊形(ファランクス)を組んでいた歩兵騎団も崩れ始めた。


 右翼の魔法隊が崩れ始めたのを見て、左翼に陣形を作っている弓隊にも動揺は走る。

 魔法力に乏しい弓隊には何が起こっているのか理解できないのだが、尋常ではない事態に見舞われていることだけは理解できる。


「一旦我らも撤退だ!後方にて魔法隊と合流するぞ」


 弓隊隊長のダグラスが、部下の射手に向かって指示を出したその瞬間。

 城壁の最上段から、エルダが恐れた魔法が放たれたのだった。


 そして逃げ惑う魔法隊、理解出来ず固まっている歩兵騎団、撤退を始めた弓隊とハイラムとワイマールが居る本陣。

 その全てをあざ笑うかのように全てを飲み込む大爆発が第三師団を襲ったのである。


……


 シルフィの放ったこけおどしイクスプルージョンは、レドウ達にとって予想以上の効果をもたらした。

 第三師団の本陣天幕のあったテントなどは全て吹き飛び、物資なども使い物にならない散乱ぶりであったが、人的被害はゼロという驚愕の結果をもたらしたのだ。

 もっとも熱で少々火傷を負った者は居たようだが、命に関わる怪我を負ったものは誰一人居なかったのである。


 シルフィのこけおどしイクスプルージョンのすぐ後に、第三師団からの使者が大慌てで訪れた。

 先日現れたワイマールとは別の使者だったのだが、大慌てで停戦交渉を申し出できたのである。


 脅しとハッタリ効果は絶大であった。


 なんでも魔法隊の隊長がハイラムに対して「これは『その気になればいつでも殲滅出来る』というメッセージであり、これ以上攻撃を行うことは自殺行為だ。少なくとも第三師団だけでこれ以上行動を起こすべきではありませんっ!」と真っ青な顔と涙目で訴えていたことが、その素早い行動の要因でありきっかけだったそうだ。

 まあその裏情報をもたらしたのはリズの配下……第三師団に潜り込んでいる斥候からの情報だったのだが。


「よくやったシルフィ。素晴らしいコントロールだったぞ」

「本当だぜ!嬢ちゃんあんなすげぇことよく出来んな!」

「感動したっす!」


 レドウがシルフィの頭を撫でて労ったのを皮切りに、その場にいた冒険者達にあっという間に囲まれてしまった。

 純粋に実力が評価される冒険者たちは、出自や見た目による偏見や特別扱いとは無縁の存在である。それだけに彼らのこの反応はシルフィにとって非常に嬉しい出来事であった。


 レドウもシルフィの成長を実感していた。

 ルシーダさんによる淑女のための講習はともかく、ヘルマンとの出来事以降、毎夜魔法研究に関しては非常に真面目に取り組み、努力していたことをレドウは知っている。


 その成果が一つここで実ったのである。

 シルフィもニヤけ顔で冒険者達の祝福を真っ正面から素直に受け止めることが出来ていた。



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