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レドウの華麗なる冒険譚  作者: だる8
第六章 内乱
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第98話 魔導師シルフィ

「なに?それですごすごと引き下がってきたのか?正規軍の派兵が正当なものであることをお前は説明できなかったということなのだぞ!何のための使者だと思っているんだ!われわれの降伏勧告が有形無実の滑稽な主張となってしまったではないか!」


 第三師団本陣の天幕に戻ったワイマールは、師団長ハイラム=イスト=ハズベルトから激しく叱責されていた。

 ワイマールがカーライル家当主ニキに何を言われて帰ってきたかはさておき、正規軍が出張った正当性を主張できなかったことには変わりない。任務を達成できなかったワイマールは、ハイラムの剣幕に首をすくめて恐縮している。


 厳密には、斥候と使者は役割が異なる。


 戦時中にあって使者は、命の危険が伴うものだ。

 だからと言って、大事な戦時交渉を殺されても構わない……いわゆる奴隷のような存在などに任せるわけにもいかない。

 古来よりヴィスタリアでは、そうした理由から伝統的に情報を多く握り、有利な交渉ができる斥候……それも腕利きで優秀な者が、使者を任ぜられることが多かったのである。

 使者による交渉が決裂した場合に、むざむざとその命を奪われることを避けるという目的もある。どうしても死を避けられないと悟った場合には敵軍の将を道連れに自爆や暗殺を行うこともあったという。


「大変申し訳ありません!……しかしながら師団長殿。報告したき情報がございます。この場でお伝えしてもよろしいでしょうか」

「構わん。話してみよ」


 ハイラムの許可をもらい、ワイマールは居住まいを正した。


「これはニキ閣下が仰っていたのですが……師団長の持つ【勇気の神剣】が神器(アーティファクト)であるとのことです。ニキ閣下によると八輝章家の当主内においては周知の事実……すくなくともマーニス家とロイスウェル家は知っているはずとのことでした。師団長殿はご存知でしたでしょうか?」

「……知らぬな。初耳だ。父上もそんなことを知っている風ではなかったが……いや待てよ」


 出陣前に会話した父ライゼルの様子を思い出す。

 自分に向って何度も『冷静に』と話していたような気がする。


(あれは、知っていたのだろうか……いや、知っているのであれば父は確実に明言するはず。となると……あたりはついていたが、確証がないといったところであったのかもしれん。まぁいずれにしても……)


「確かに、私はこの【勇気の神剣】が神器(アーティファクト)であるかどうかを知らぬ。だが、それがどうしたというのだ」

「『帝国の遺産』である神器(アーティファクト)それこそが国家転覆クーデターの意思ありと。そう理解していたため、攻め手を欠きました。それ以上大義名分を説明できず……師団長殿も神器(アーティファクト)を持っていては……その、士気が」


 ワイマールの様子に深くため息をつくハイラム。


「もうお前は使者にはせん。もっと頭を働かせよ。良いか?私はそうとは知らずに【勇気の神剣】を手にしているのだ。一方レドウは神器(アーティファクト)と理解して集めていると聞くぞ。ここに大きな論点の綻びがあるだろう。何故こういうことが分からぬのだ」


 ハッとするワイマール。降臨の儀を迎えたばかりのハイラムと比べ、歳はワイマールの方がずっと上なのだがこういう論争では完全に子供扱いである。


「は!では今すぐもう一度!」

「もうダメだ!行ってはならぬ。既に初戦は敗北したと認識せよ。言論によるやりとりにお前は既に負けたのだ」

「……申し訳ありません」


 しゅんとするワイマール。

 だが、そんな沈んだ雰囲気に追い打ちを掛けるように慌ただしく兵が天幕に飛び込んで来た。


「も、申し上げます!!タルテシュの街が……城壁が!その……目の前に現れまして。大軍が城壁に集まってきております!」


 報告をしに来たのは一人の若い新兵である。年齢はハイラムと大差なさそうだ。

 視線をワイマールから外し、ハイラムはその新兵の方を見る。


「騒々しいな。しかも何を言っているのか全く分からん。ちゃんと物事を一つずつ組み立てて端的に報告せよ」


 呆れたように新兵にハイラムが言う。

 新兵は大慌てで入ってきたようで、まだ肩で息をしている。呼吸も整っていない。

 ハイラムに諭され、大きく深呼吸をしたあと、新兵は改めて報告を始めた。


「申し上げます。我々歩兵騎団は隊列を組んで遺跡都市タルテシュを監視しておりました。先刻まで何もなかったのですが、突然タルテシュの街を覆い隠して守るような巨大な城壁が現れたのです。そしてその城壁には多数の兵……冒険者ですので戦士達だと思われますが、城壁に陣を構えております。その数概算で一万弱!」

「なんだと!そんな馬鹿な」


 新兵の報告を聞くやいな、ハイラムは天幕を飛び出した。

 続いてワイマールと報告にきた新兵も外に出る。


 と、そこには高さ20ルードはありそうな城壁がタルテシュを囲むようにそびえ立っていたのだ。

 つい先ほどまではタルテシュ市街の建物が見えていたというのにだ。

 そしてその城壁の上には弓と思しき武器を携えた冒険者らしき人々が配置についている。城壁の下には横一線に歩兵騎団がずらりと並んでいた。


「ワイマール!どういうことだ!敵方の数は五百、多くても千程度と言っていたではないか。あの数は尋常ではないぞ!」

「……ばかな……」


 言葉をなくすワイマール。

 確かに先ほどタルテシュに向かった時にはそれほどの人員がいるような気配などなかったのだ。隠れていたとでも言うのだろうか。


「あ、ありえぬ!ありえませぬ!あれはまやかしだ!急に現れた城壁など、そんなものあるわけがない。私はこの目で何もないことを見てきているのだ!」


 ワイマールがその場に落ちていた石を城壁に向かって投げつける。が、まだ距離があるので届くわけもなく地面に落ちた。


「百歩譲ってお前の言うとおり城壁がまやかしだとしよう。どうやってまやかしを造ってるのかなどわからぬがな。……だが、あの大量の歩兵弓兵たちをどう説明するのだ。仮にこちらが質で勝っていたとて、あの数では押し切られるわ。それともお前はあの数を相手に戦えと?これはある種正規軍による掃討戦なのだ。僅差で勝利をもぎ取るようなそういう戦いではない!」


 ワイマールへの叱責を続けながら、ハイラムは歯噛みする。

 ハイラムとて目の前の光景の全てを信じるつもりはない。が、何が真実で何が虚構であるかを見極めずに飛び込むほど、愚鈍な将ではなかった。


(わからぬ。どう切り崩せばいい……だがこれだけは分かる。肉弾戦はだめだ。遠隔だ)


 ハイラムはばっと旗を振り上げる。


「これより戦闘を開始する。弓隊、魔法隊にのみ攻撃を許可する!両隊は城壁の一点を攻めるべく散開せよ。歩兵騎団は大盾を構え弓隊と魔法隊の前で密集隊形(ファランクス)を組んで待機だ!」


 ハイラムの号令で、ヴィスタリア正規軍第三師団五千の兵は陣形を組み始めた。

 程なくして指示した隊形ができあがる。こうした素早い隊列は訓練の賜物であろう。


「弓隊、魔法隊!放てっ!」


 ハイラムの号令は各隊隊長達に告げられ、一斉放射が開始された。

 日が傾き始め、まもなく夕刻を迎えようという時間帯のことであった。


……


「お。ついに攻撃が始まったか」


 レドウはシルフィを連れて《創造魔法》で作成した城壁を上る。といっても転移ゲートを開けば一瞬の出来事だ。城壁の下ではアイリス以下アスタルテ家騎士団メンバーとカーライル家の私設騎士団のメンバーが待機している。


 レドウの向かった城壁の上では弓や攻撃魔法の得意な冒険者達を数十名(・・・)配置していた。


「おぅ!レドウ!なかなか爽快な景色と気分だぜ。たった数十名の俺たちに泡食ってやがる」


 レドウの姿を見て一人の冒険者が声を掛けてきた。

 見たことはあるやつだが、どうにも名前が思い出せない。何度もこういうことがあったような気がする。


(……誰だっけな。まあいい。確かこいつは)


「ちょっと待った!どうせまた俺の名を覚えてないんだろう?ん?先に教えてやる。俺の名は……」

「ゲイルだ!」

「違うわ!ガイルだ!ちゃんと名乗るって言ってるのに待てねぇのかよ」


 力が抜けた様子のガイル。そうだ。どうしてもこいつの名前が覚えられない。名前と容姿、雰囲気が一致しないせいだとレドウは思う。


「見た目と名前が合ってないんだな。いっそ改名したらどうだ?」

「おい!ふざけんなレドウ。俺の名前を覚えられない奴なんざお前だけだよ。いい加減覚えな」


 言い方は雑だが、怒っているというわけではなさそうだ。顔が笑っている。

 なぜここにガイルがいるかというと、顔に似合わず得意武器が弓だからだ。

 そうレドウがいうと「顔は関係ねぇだろ」といつも返ってくるが、まあそういうことだ。


 第三師団五千の攻撃が始まったというのに、冒険者たちは城壁の上で身を隠すこともなく(・・・・・・・)、それぞれ好きなところで迎撃の準備をしている。

 そう。ハイラムの軍の攻撃……つまりは遠隔攻撃だが、それはここまで届く事はない(・・)


 レドウは城壁の数ルード前辺りに遠隔攻撃用の《防護障壁》を魔法で創っていたのだ。この障壁をは一方通行であり、外……つまり第三師団側からの投擲攻撃を完全に遮断する。当然のように《入場制限空間》の応用だった。なお、レドウと冒険者達が立っているこの城壁も《入場制限空間》で創った城壁である。人が通過することが出来ない空間をその上に立つことも出来るという仕組みだ。城壁っぽく見えるのは、空間の境にそういったデザインを施しただけである。手抜きなので外側にしか城壁っぽいデザインは創っていない。


 これらの城壁……要するに《防護障壁》にも弱点がある。

 魔導力でレドウを上回る攻撃であれば突破されてしまうという点と、遠隔攻撃ではなく直接踏み込まれてしまうと、一段階目の《防護障壁》は用意に突破されてしまうということである。この弱点を補強するのが、《幻影魔法(イリュージョン)》である。


 ハイラムたちに大軍に見せていたのがこれである。

 無を有にして見せるのは大変だが、実際にその場にいる人を増幅させて見せるだけならば、多くの魔導力……魔元素を必要としないのだ。


「よし、仕上げだ。シルフィ、光魔法寄りの爆発魔法(イクスプロージョン)。いけるな?」

「任せといて。殺傷力を抑えて、見かけ恐ろしい魔法に見せるってことでしょ」


 シルフィが自慢のトリプルタクトを構える。


「ちょっと距離感が難しいだろうが、敵のど真ん中で爆発させてやれ」

「頑張る!」


 シルフィはタクトを顔の前で構え、集中する。

 光と火の魔元素エネルギーがどんどん増幅されていくのが素人目にも分かる。


「偽イクスプロージョン!」


 シルフィが思い切りタクトを振る。

 するとシルフィによってブレンドされ凝縮された光と火の魔元素エネルギーが、第三師団の陣形の中心にものすごい速度で放たれた。

 と、同時に、主に第三師団魔法隊の方から陣形が一斉に乱れていく。襲い来る魔法を感知して逃げ出したのだろう。だが、シルフィのこけおどし用イクスプロージョンは、そんな彼らをあざ笑うかのようにその全てを飲み込み、第三師団を爆発の渦に巻き込んだのであった。


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