序章
「パパには申し訳ないけど、このままじゃまずいわよね……」
「どうされるのですか?」
「作戦の決行よ!」
「……正しく現実を見て、実現可能な手段をとるべきかと思いますが……」
暗がりから密談をする声が漏れ聞こえてくる。
二人とも女性のようだが、そのうち一人は少女のような若さを感じる声だ。
「そんなこと言ってるからいつまでたっても何も変わらないのよ」
「ですが……」
「貴女が居れば大丈夫よ。多少の危険くらい乗り切れるでしょ?」
「……買い被られては困ります」
落ち着いている方の女性の声が鈍る。
「どちらにしても、もう私は決めたの。貴女が行かないなら私だけでも行くわ」
「それは……」
「私に何かあって困るのは貴女。でしょう?」
「……」
「今週末にはパパの目を盗んで決行するわ。それまで少しずつ準備をすすめないとね」
「……はぁ。わかりました。これ以上言っても無駄のようですね」
女性のため息が聞こえる。おそらく普段からこの少女に振り回されているのだろう。
「もう遅いからもう寝るわね。おやすみなさい」
少女の一方的な発言のあと静かに扉の閉まる音がした。
ほどなく闇の中から静かな足音が規則正しく遠ざかっていった。