そして現れた···
今になって思えば、そんな心配、必要無かったのだろう。
秋野は笑顔を絶やさないまま僕のほうへ向かってくる。今度ばかりは目をそらす事が出来ない。
そして僕の前で立ち止まった秋野が話しかけてくる。
「君って人を殺したことがあるの?」
なんとも分かりやすくて簡単で単純、そして遠慮のない質問だった。
···こんなにストレートに質問してきた人いたっけ。心の中で呟く。
おそらく彼女はオブラートを知らないのだろう···。
数秒の沈黙の後、僕は事実を答える。
「直接的には何も···ただ、間接的には人を殺した。正確には死へ導きました··。言葉で。」
その一言で教室は騒音に包まれる。当然だろう、自分自身では殺人に関わっただけと感じていても、それは周囲にすると殺人者である事を認めたことになる。
そしてもう一つ···最後の“言葉で„の一言でさらに不安を呼んだ。
それでも秋野は単純な好奇心で質問を続ける。
「言葉でってどういう意味?」
こんな状況の中の会話でも笑顔を絶やさずに会話出来るのは、彼女の長所であり同時に短所でもある。···そんな気がした。
そこで僕は分かりにくい例えを思いつく。
「例えば6歳くらいの子供が悪い事をして怒られる。そこで謝れと言われたら、
その子はどうすると思う?」
「そんなの、謝るに決まってるじゃん。」
「そのとおり。“死ね„という言葉一つでもビクビク震えた子供が言うのと銃を持ったおじさんが言うのとは話が変わってくる。僕がしたのは、その言葉の力を最大限に活用しただけ。」
今考えれば当然の事なのだが、当時はとても驚いた。秋野は一通りの説明をきいてなお、先程と変わらない笑顔でこう言った。
「そっか。それじゃあ川本君!私と友達になってくだしゃい!」
「そこで噛むなよ。」
「だって私、こういう肝心な時に限っていつも噛んじゃうんだよね。」
「ていうか、今までの僕の話きいてた!?僕なんかといたら秋野さんが後悔するからやめときなって!!」
だって、僕なんかと一緒にいたら、秋野さんだってイヤな思いをする。僕は心の中で呟く。
「違うよ、川本君が殺人者なら私は人間じゃないんだよ?」
「どういう事。」
どういう意味だ、目の前にいる秋野が人間じゃないはずがない。でなければ僕は怪物と会話しているとでも言うのか···
「私ね···小学校のころいじめられてたんだ。“お前は人じゃない„ “ゴミ„ “ブタ„ いろんな事を言われてそれが
イヤで逃げて、引きこもって、転校した。それでも、あの時の恐怖は消えなかった。だから私、次の学校では逃げずに人と向き合おう、友達になろうって思ったんだ。」
···そんなに人との関係に悩むんなら、初めから関わらなければいいのに。理解できない。
「お前が気にしてるなら悪いけど、友達って何のためにいるんだ?まあ、人生を支え合って生きるためだろう
でも、その友達のために無理して頑張って力尽きたんじゃ、本末転倒だろ。それなら初めから関わらなければいい。他人よりも自分を大切にすればいい。結果的に過去に縛られてるだけなんだよ。」
思った事を少しだけオブラートに包んで言う。
「それじゃあ今までと何も変わらない!!今までみたいに怯えながら生きていくなんて嫌だ!だから···だから私は変わろうとしたの。それに、過去に捕らわれてるのは、川本君も同じじゃない。」
「それは···、それは···」
「川本君は殺人者なんかじゃない。過去に捕らわれてただけだよ。」
そう言われて何かが吹っ切れた。
「あー負け。僕の負け。多分一生、君には勝てる気がしないよ。
それから僕は秋野と“友達„になったんだ。
ヤバいです。言霊使い楽しくなってきちゃいました。
これからもよろしくお願いします!!




