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雷ジング  作者: 城井大輔
第1話 《逢着》
7/24

接触《ロゼリィア・エミリア》

この話の中でヒロインの服は常に濡れ濡れです。

土と草の香り。

頬に着く髪の毛の気持ち悪い感触。

節々が軋み、傷んでいる身体。

体調は最悪のようだった。


それでも私は重い瞼をなんとかあける。

視界がぼやけ、よく見えないが

僅かに感じることができる陽の暖かさから、今が朝なのがかろうじて分かる。


痛む身体に鞭を打ちなんとか起き上がろうとする。

「ゔっ……。」

変な声がでた。

『恥ずかしい…。』

力が抜けてしまった…。

気合を入れ直す。

両手で地面を思いっきり押し、フラフラと立ち上がることが出来た。


目の焦点はまだ完璧には合わないが、辺りを見回してみると、自分が例の滝壺の側にいるのが分かった。

そして、井戸や洗面所のようなものも見受けられる。

どうやら近くに人が住んでいるらしい。


そしてその滝は見事なまでに凍り付いていた。

『さすが、《氷眼》だな…。』


それにしても…妙だ…なぜ私は止めを刺さなかれなかったんだろう?


それぐらい他愛も無いはず…。


しかし、今はその《氷眼》の気まぐれとも言える奇跡に感謝するしかなかった。


『…「アレ」は……よし、流されていない。』


ネックレスの中心に3センチほどの円柱状の筒があったことに安堵する。


これを無くしてしまっては

私が生きていても、なんの意味もない。


『…っ!』


安心したからなのか、右の脇腹が酷く痛むのが分かった。


矢で射られた部分だ。


触ってみるとヌルリした感触が右手に伝わる。


おそるおそる、その右手を見てみると血がべっとりと着いていた。


『あぁ…マズイな。』


早く止血しなければもう一度気絶するハメになる。


まずは落ち着いて怪我の治療が出来、隠れる場所を探さなくてはいけない。


私は森の中に隠れる場所が無いか探すことにした。


疲れているからか私の歩みは非常に遅かっただろう。


『おっと…』


私は歩きながらもしっかりと足跡を残さないように最新の注意をはらった。


『フフ…もし追手が来てもこれなら分かるまい…。』


ニヤリと思わず笑みを浮かべる。


我ながらなんて、冷静なんだ。

怪我をしているとは思えないな。


そんな自分に満足しながらしばらく歩いていると、手頃な大きさの洞穴を発見した。


『…ここでいいか。』


ここなら身を隠し、身体を休めることが出来るな…。


私は洞穴で暫く身をひそめることにした。

洞穴の中の安全を確かめつつゆっくりと進んでいく。


奥まで進むと、穴の開いた鍋やら毛がほつれている絨毯、脚の無い椅子が無造作に置かれてあった。

『誰か住んでいるのか…?』

そうなるとまた隠れる場所を一から探さなくてはならないが…

と思ったがそれは杞憂に終わった。


なぜなら近くの岩の上に手記のようなものが置いてあり

それの表紙に拙い字で、『すーぱーはいぱー団かつどう日っし』と書いてあった。

どうやら近くの村の子供たちの秘密基地らしい。

しかも埃をかぶっているところをみると、この「すーぱーはいぱー団」はここ最近、活動していないことが分かる。


とにかく、私はここで一息つくことにした。装備を外し、服を脱ぎ、手頃な大きさの岩に掛けておく。

帽子の中にしまっていた、髪の毛を広げ、なるべくリラックスできるようにする。


洞穴の内部なので、焚き火をたくか迷ったが、大きな入り口だし、少しくらいなら大丈夫だろうと、洞窟内に落ちている廃材やらを用いて小さな火を起こした。


服は全て濡れてしまったので防水性の外套を下着の上に纏い30分ほど火であったまることにした。


もちろんその間に身体の怪我の軽い応急処置や止血も行った。


右脇腹の傷は出血がひどいだけで、そこまで深手ではなかったので、安心した。


火であったまっているうちに、うとうとしてきた。


私はその眠気に勝つことが出来ずそのまま目を閉じ、寝入ってしまった。




ーコツ


どれくらいたったのだろうか


私はパチッと目が醒めた。

遠くで物音がしたからだ。


ーコツ…コツ…コツ…


…足音だ。間違いない。

何かが、この洞穴の中に入ってきたみたいだな…。


「すーぱーはいぱー団」の一員では無いだろう。

足音から警戒の色が伺えるからだ。


私は手早く髪をまとめ、帽子をかぶり、まだ乾いていない衣服を着て、ポーチ以外の装備を身につけた。


そしてナイフを抜き何時でも戦闘に入れる準備をした。


火は寝入る前に消しておいたので問題無い。


『…1人みたいだな。』


足音から敵が1人である可能性は高い。1人だけなら、不意打ちでどうにかなるかもしれない。


私は近くにあった鍋を手に取る。

足音立てずに、少しずつ前進する。


『あいつか…。』


暗くてよく見えないが、確かに1人歩いてきているのが分かる。


壁に手を置き、用心しながら進んでいるようだ。


『…《ニーレン》め。』


おそらく、奴は皇国の追手だろう。

私は先手を取ることにした。


持っていた鍋を敵の方へと投げつける。

カラーンと大きな音をたてて

地面に激突する


敵は驚いた様子をみせ、鍋へ近づいていった。


私はその隙に素早く移動して、後ろに回り込む。


あと少しで鍋に手が届きそうというところで私は勝負に出た。


後ろからそいつに掴みかかり、左腕を首に回し、動きを封じた。

そして、そのままナイフを突き立てようとした。


『⁉︎』


急に地面から足が離れた。敵がいきなり、背を屈めたのだ。

しかも私の左手をガッシリと両手で掴んでいる。

『叩きつけられる…!』


そうはさせない!と敵の背中の上で暴れまわった。たまらず、奴は私の左手を離し、地面に投げ出される。


「ちょ…まっ…」


『ちょまっ』⁇なんだこいつ

突然、意味不明な言語を話したぞ。

そうやって、変な言葉を言い、私の油断を誘うつもりか…


『ふ…そうはいかないぞ』

持っていたナイフを敵の顔めがけて繰り出す

『当たる…!』

そう思った瞬間だった。

敵は私のナイフを首をひねり、寸前のところで交わして見せた。

『疾いな…。』

たが…まだ想定内だ。


次々とそいつにナイフをお見舞いする。


そして隙を見せたところに長剣でトドメを刺す。


次に私は喉を狙った。しかしこれもまた避けられる。

今度は左胸だ。

だがこれもかわされた。

右腕、左腕、みぞおちと

私は次々と狙いを変えるが

全てを紙一重でかわされる。

『こいつ…この暗闇の中でなんて反射神経を…!』


ギリっー

自然と力が入る

思わず歯ぎしりしてしまった。


パシっー


「うっ…!」

しまった…!

敵の心臓に目掛けて突き出したナイフを

かわされた上に、反撃に遭いナイフを落としてしまった。


『油断していたのは、私の方だった…!』


敵は仕掛けてこない…。


なら、こっちからだ

ナイフを落とした私はすぐさま、体勢を立て直した。


そして、左足を軸に、右足を相手の左こめかみに向けて、勢いよく蹴り上げる。


パァン!


防御されてしまったが、敵は今の一撃で

少し、フラついた。

この隙を見逃すわけにはいかない。


振り上げた右足の勢いをそのまま利用し、地面に右足がついた瞬間、今度は左足でバランスの崩れた敵の両脚を思いっきり蹴り払った。


「って!」

敵は尻もちをついた。


『いける…!』

蹴り払った瞬間に帽子が地面に落ちたが

構っている暇はなかった。

私は尻もちをついてる敵に突進し、

そしてそのままそいつに馬乗りになった。

腰の剣を抜き、相手の喉に剣をつきたてようとした。


しかし、このとき暗かった洞穴がにわかに明るくなり始めたのだった。

シルエットしか分からなかった相手が徐々にあらわになり、私はあることに気がづいた。


真っ黒の髪の毛に、珍しい紫色の瞳、そして精悍な顔つき。

まだ15〜17歳ほどだろうか?

少年と青年の間をいくその容姿。


そして、なにより格好が白いロングtシャツの上に、青い生地の襟とボタンのない、ジャケット?のようなものを羽織っていて、その辺の村人といった感じだった。


『………どうみても皇国の奴じゃない。』


内心、冷や汗がでた。

さらに動揺してきた。

この少年(少年とは言っても私と同い年くらいだが…)もさっきから私のことをじっと見つめている。


『…もしかして、私は、盛大な勘違いをしていたのかもしれない…。」


…なんだが、ここで素直に自分の非を認めるのはとても恥ずかしった。


だから私はなるべく神妙な顔つきで、格好つけてこう言い放った。


「皇国の追手…という訳ではなさそうだな…」

















読んでいただきありがとうございました。

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