追跡《カンナギ・リュート》
作中では様々な地名が出てきます。
今リュートがいるのは北アメリカ大陸的なところです。
そのうち世界地図を掲載します。
断水自体はそこまで珍しいことではない。
つい最近この村にも「水道」という技術が、伝わったばかりなので、こういうことはままある。
こいういう時、村の住人は水源でもある
村の近くの〈リノ川〉から流れる、滝壺に水を汲みに行く。
俺以外にも何人か水を汲みに行くようだ。バケツを持った住人がちらほらいる。
居候先のジョゼさんは飲食店を経営してるので、たくさんの水が必要だった。
だから俺は大きめの荷車を引き、その上に大小様々の桶やバケツを置いている。
荷車を引いて、滝壺を目指す。
すると後ろから、足音が近づいて来た。
「リュート、水を汲みに行くの?」
この声は…アメリアか。
「あぁ…すぐ直ると思うけど一応ね、ジョゼさんの店、開店するの早いし」
走ってきたせいか、少しだけ息が荒い。
寝間着は一応、着替えたようで、白いTシャツの上に薄手のカーディガンを羽織っている。
「私もついて行っていい?家だと顔も洗えないし、歯も磨けないんだもの…。」
滝壺には簡易的だが井戸が用意されていて、近くには洗面所のようなものがある。
「構わないけど、別に家で待ってて貰ってもいいよ?そんな時間がかかるものでもないし。」
「…いいの。私、朝の用意は早く終わらせたいタイプなの。」
うーん、特に断る理由も意味もないしな…。
「じゃあ、一緒に行くか。」
「うん…!」
滝壺は村を出て5分ほど歩いた場所にある。
「…なんだか、ずいぶん人が集まってるわね…。」
アメリアの言う通りだった。
滝壺の周りに人だかりができている。
どの家も断水なのかな…?
その理由はすぐ分かった。
「……なんだ、こりゃ…」
「す、すごいわね……。」
リノ川から流れるこの滝は、歴史ある滝壺で、滝壺と川が一体化してるタイプではなく
滝壺の水がそのまま地下に流れ込み、地下水となっているタイプなのだ。
そのおかげなのか、ここいらの地下水は美味しいと評判だ。
史実によると、ここ400年以上は枯れたことがないらしい。
その滝が、もうバッキバキに凍り付いていたのだ。
どこまで凍り付いているのか分からないが、これが断水の原因だろう。
「…滝って凍るものなの?」
「いや…どうなんだろう?極東の方でそういう滝があったらしいけど…。」
俺もアメリアも、ただ呆然としていた。
荷車その辺に置いて、滝に近づく。
「すげぇなぁ…」
「一体、誰の仕業なんだ?」
「人が出来るわけないだろう。」
「いやいや、分からんぞ《能力者》の仕業かもしれん。」
「だとしても、なんでこんな田舎の滝を凍らすんだ?」
「どっちにしろ、これじゃあ水が使えないままじゃないか」
大人達がなんで凍ったのかを考えている。
確かに…まだ三月だし、寒いっちゃ寒いけど、自然に凍ったのか…??
いや、でも普通流れる水は凍らないって聞くしな…。
そうなるとやっぱり…《能力者》なのか?
確か…《氷冷系統》の能力者は、空気中の水分を凍らせるのが精一杯で、それこそ雪や霰といったサイズのものにしかならないって、カナンさんが言ってた気がする。
つまり、こんな大きな滝を凍らすのは相当の実力者…ってことになる。
けど…
「ねぇ、リュートもコレ、能力者のせいだと思う?」
「いや、どうだろう?メリットが分かんない。」
さっき、大人達も言ってたが、仮に能力者だとしてもここの滝を凍らせる意味が分からない。
地形的価値があるわけでも、ましてや資源があるわけでもないし…。
「はいはい、みなさーん!聞こえているのでありますかー⁇」
そうこうしているうちに、村の若い駐在さんがやってきた。
皆に声が届くようになのか、わざわざ凍った滝壺の上に立って叫んでいる。
危なくないの?
「さきほど、〈レイトソルクシティ〉に問い合わせたであります!
午後には調査隊がくるそうであります!
村の水が断水してる間は村から給水車を出すでありますが…
水不足が懸念されるので、出来れば、近くのフレズノ川に汲みに行って欲しいであります!
レイトソルクシティの方も協力してくれるそうであります!
とにかく皆さん!節水に努めるであります!」
またまた騒つく大人達、若い駐在さんら質問責めにされている。
「レイトソルクって…結構大きな町よね?思った以上に大変なことになってるのね。」
「うん……これだけの事だし、この村だけじゃ処理しきれないんじゃない?」
「そうよね……」
うーん。午後には調査隊が来ちゃうのか、そうすると多分ここには入れなくなっちゃうだろうなぁ…俺ももうちょい、調べてみたかったんだけど…。
「って!そんな事は、どうでもいいのよ!それじゃあ結局、ここに来た意味がないってことよね⁉︎」
納得いかなーい!っと両手を宙に挙げて怒るアメリアちゃん。
「まぁまぁ…俺ちょっとだけ水筒の中に水入ってるけど…使う?」
「……いい。有難いけど気持ちだけ受け取っとく。」
そうか
と、俺も出した水筒を引っ込めた。
「…あぁ!でもやっぱり納得いかなーい!私も駐在さんに文句言ってくるね!」
「えぇ…駐在に言ってもしょうがないんじゃ…」
「いいの!こういうのは感情の問題なの!」
そう言ってアメリアは金色のポニーテールを揺らしながら、駐在さんの方に走って行ってしまった。
駐在に同情しつつ。
ここで水が汲めないのが分かったので、帰る準備をすることにした。
荷車のところに戻ると、バランスが崩れたのか小さいバケツが一つ草むらの上に落ちていた。
それを拾おうと腰を下げた時、ふと
あることに気がついた。
『…なんだこれ?』
赤黒いカピカピした乾いたものが、草の一部分に付着していた。
手で触ってみると、ポロポロと塩の粒みたいになって地面に落ちた
『これって…もしかして「血」…か?』
よく見ると、それ以外にもポツポツも血の跡があった。
『もしかして、滝を凍らせた能力者がこの先にいたりして…』
いやいやそんなそんな
と首を振るが、万が一ということがある。
俺はその血の跡を辿ってみることにしてみた。
読んでいただきありがとうございます。