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Dungeon Brave'S(ダンジョンブレイブズ)  作者: 北田啓悟
最強の勇者「アバン洞窟」
5/23

005 異世界からの使徒【3F】

【3F】


「暗いな……何も見えないぞ」


「シト様、はぐれないように気をつけましょ」


 洞窟のなかは暗闇に包まれていた。2階まであった松明がどこにも設置されていないのだ。肉眼では何も見ることができない。

 ボウッと、


「「!」」


 フロアの奥で炎が点った。


「愚カナ冒険者タチヨ、己ノ運命ヲ呪ウガヨイ……」


 炎が点った場所から声が聞こえてきた。

 俺とアイリは目を凝らして炎を見る。するとそこには、人型の悪魔が立っていた。手前には『アークデビル』という表示が出現する。

 アイリは一歩後ずさる。


「アークデビル……? おかしいわ、そんなモンスター見たことも聞いたことも……そもそもこのダンジョンのボスはゴブリンキングだったはずよ!」


「弱小ナルゴブリンノ王ニ此ノ地ハ相応シクナイ。此ノ我ガ新タナ王トシテダンジョンヲ占拠シタノダ」


「ゴブリンキングからこのダンジョンを奪った!? モンスター同士がなぜそんなことを……!」


「教エル必要ハ無イ――死ニユク者ニ必要ナノハ、運命ヲ受ケ入レル諦メダケダ!」


 ボオオォオオオオオォオオオオ!!

 ダンジョン中に炎が点った。暗かった洞窟が一瞬にして明るくなり、フロアの全容が見えるようになる。

 俺たちがやってきたこの最終フロアは、今までとは違って通路がない。大部屋がひとつあるだけのシンプルなフロアだった。


「出デヨ! 我ガ下僕タチ!」


「「グォオオオオオォオオオオオオォオオ!!」」


 アークデビルの命令とともに、フロア中からゴブリンが出現した。合計5体のゴブリンが俺たちに向かって走ってくる。

 俺はグッと剣を構える。


「フン、来たか。まずはザコから片付けてやる」


「行きましょシト様!」


 俺とアイリは並走して、最も前にいるゴブリンに向かっていった。


「はぁあぁぁっ!!」


 ズバシャ!!


「グゥゥウォオオオオ!!」


 ショートソードでゴブリンを斬りつける。手応え抜群。叫び声とともにゴブリンは爆発した。

 アイリも攻撃しに行こうと、その先にいるゴブリンへと突っ走る。

 カチリ。


「! トラップ!?」


「アイリ!!」


 地面から変な音が鳴った。

 アイリの足元を見ると、バネが埋め込まれていた。

 ボヨォォーーンッ!!


「きゃああああぁああっ!?」


「バネのトラップだと!?」


 足元のバネに押し上げられた。アイリの体は空中へと放り出されてしまい、あらぬ方向へと跳んでしまう。


「うくっ!」


 地面と激突する寸前なんとか受身をとる。アイリは急いで立ち上がり、周りの状況を確認した。

 アイリは顔を青くする。


「そ、そんな……! 囲まれた……!?」


「「グゥウウウウゥゥウゥウウゥゥ!!」」


 アイリの四方に、4体ものゴブリンが集結していた。最悪の地点に飛ばされてしまった。いくら一撃でゴブリンを倒せるといっても、4体全員を相手にするのはあまりにも危険だ。

 このままでは袋叩きに遭ってしまう――しかしアイリは表情をキッと引き締め、両手を突き出すように構えを取った。

 アイリは叫ぶ。


「ファミリーシールド!!」


 光が弾けた。

 アイリの言葉と同時に、透明の盾が体の周りに出現した。その盾は、俺の周りにも出現する。


「これは……?」


「ダメージ半減のシールドを、一定時間パーティ全員に張る――これがわたしのスキル『ファミリーシールド』だわ! シト様! わたしなら大丈夫だから!」


「ダメージ半減……!」


 アイリはスキルを使って自分の身を守ったらしい。ダメージが半減するシールド……半分も減れば、あの数のゴブリンでもなんとかなるかもしれない。

 しかし、俺はアイリに指摘する。


「そんなスキルがあるなら、最初から使っていろ!」


「そ、そういうわけにはいかないじゃない! スキルは体内の魔力を一気に放出させるものだから、『一度使うと再び使うのに時間を置かないといけない』でしょ!? ここぞというタイミングでしか使えないわ!!」


「……!」


 常識のように言い返されたが、俺には初耳の情報だった。

 何だと。スキルは無制限に使い放題というわけではないのか。どうしてそんな大事なことを最初に説明しなかったんだ。

 ……まあ、トラブルが起こる前に知っておけてよかったと考えよう。それより――俺の持っている『あのスキル』も、ということは一番大事なタイミングを見極めて使う必要があるということか。


「はあぁあああぁぁっ!」


「グウゥウウオオォォッ!」


 ズドォオッ!

 アイリはまず、目の前にいる1体のゴブリンを正拳で倒した。

 3体のゴブリンが一斉に反撃してくる。


「「グゥァアァアオオオオオオォォオオオオオォッ!!」」


 棍棒の総攻撃がアイリの体を叩き尽くす。

 ドガッ! バギィッ! ボガァァッ!!


「きゃああぁああぁああっ! はぁ、はぁ……ッ!」


 アイリのスキル『ファミリーシールド』のおかげで倒れずに済んだ。だが半減したといっても、3体ものゴブリンから連続攻撃を喰らうのはまずかった。アイリの最大HPは26で、さっきの攻撃は合計で15ダメージ。一体あたり5ダメージの計算だ。

 アイリの残りHPは11になる。このまま一体ずつ倒していってもHPは残らない計算だ……だが逃げ道も存在しない。


「まったく……足を引っ張らないと言ったのは、どこのどいつだ!!」


 俺はダッシュして、3体のゴブリンへと接近しにいく。

 そして手に持っているショートソードで、ゴブリンを背後から斬りつけにかかった。  

 ズバシャァァッ!


「グゥォオオオオオォオオオッ!?」


 ゴブリンを倒し、残り2体。

 迅速な対応に打って出た俺に驚きつつも、アイリは目の前の敵に集中した。


「「グゥウォオオオオォゥッ!!」」


 バギャ!


「うぅうううっ!! シ、シト様……!」


 ブゥウン!


「遅い!」


 ゴブリンに囲まれていたアイリは、攻撃をよけられず棍棒を喰らった。

 だが俺はゴブリンとの間合いに気をつけていたため、棍棒をよけることに成功する。

 そして俺とアイリは、反撃する。 


「これで終わりだッ!」


「喰らいなさぁああぁいっ!」


 ズバシャァァ!

 ドゴォオオォオン!


「「グァアァァアァァァアァ!!」」


 3体目と4体目のゴブリンを、同時に倒した。爆発して消滅し、俺たちはなんとか危機を乗り越える。


「アイリ!」


「シ、シト様……! ごめんなさい、足を引っ張らないって約束したのに……」


「フン……Aランク冒険者というから期待してやったのにこのザマか。やはり俺1人で冒険した方がマシだったようだな」


「あう……」


 俺は肩をすくめてそう言った。するとアイリはその場にへたれこんで、しょんぼりと落ち込んだ。

 俺の期待に応えようと精いっぱい頑張ったのだろうが、結果が振るわず申し訳ない気持ちになったのだろう。


「アイリ……」


 俺はアイリの名を口にする。

 1人でダンジョンを冒険することができていれば、どれだけ気楽だっただろうか?

 ふと、俺はそんなことを思った。

 なぜならば――落ち込んでいるアイリの背後に、ヤツが接近してきていたことに気づいたからだ。


「後ろを見ろぉおおおおぉおおッ!!」


「――えっ」


 アイリの真後ろにそいつはいた。

 そう。このフロアで最も驚異なのは、5体のゴブリンではない。彼らはただの前座に過ぎず、真の驚異はアイリの真後ろにいるこいつだった。


「ククク……惜シカッタナ」


 アークデビルだ。

 ダンジョンのボス・アークデビルがアイリの真後ろまで接近して、そして手のひらに炎を宿していた。


「ウ、ウソ……そんな、いつの間に……! いや……」


 ダメージを負っている体に向かって、炎が噴出される。


「世界ノ破滅ノ礎トナルガヨイ!!」


「きゃぁあぁぁぁあああああああぁぁあぁあぁあぁぁッ!!」


 炎は一瞬で大きく燃え盛り、アイリを丸呑みするように襲う。

 空間が揺らめくほどの激烈な炎に包まれ、アイリは悲鳴を上げることしかできなかった。


「クク……マズハ一人ダ」


 アークデビルは笑みを浮かべながら、手のひらを閉じて炎を収める。

 黒焦げの地面と、灰色の煙が洞窟内に蔓延する。

 決定的な攻撃だった。

 やがて煙が晴れて、アークデビルの目の前には――


「!? ナ、何ダト!」


「やれやれ……だ」


 チリチリと全身が焼けて、満身創痍になる俺の姿があった。

 その後ろには、アイリが涙目になって俺の背中を見上げている。そうだ。少女の命を奪おうとする悪魔の魔の手を、俺は許さなかった。


「シト様……!? わたしを……守って……」


「うぐ……」


 アイリを罵倒してやりたい気分だが、口を動かすことも困難だ。

 確認してみると、俺のHPは1になっている。アイリのファミリーシールドが残っていなければ即死だった。

 惜しいな。せっかくノーダメージでダンジョンをクリアできると思っていたんだが。


「小癪ナ……ダガソノ体デハ、モハヤ戦ウコトはデキマイ! 仲良クアノ世ヘ逝カセテヤロウ!!」


「ぐぅう……っ!! う、おぉおお……! ぎッ……」


 頭が痛い。脳の奥からなにかが引きずり出されるようなひどい痛みだ。

 この感覚は――覚えがある。


「世界ノ破滅ノ礎ト――」


 世界の破滅?

 アークデビルの言ったその単語が、トリガーだった。


「があぁぁぁあああああああぁぁあぁあぁあぁぁッ!!」 


 その瞬間――俺は激しい頭痛に見舞われた。

 不思議な映像が俺の脳内を駆け巡る。ぐるぐると幻覚が目まぐるしく見えた。

 それは忘れていた『記憶』の断片だった。

 記憶喪失する以前の映像がフラッシュバックする。

 漆黒の大剣ブレイブソード――女神――世界の破滅――魔王の三化身――俺に与えられた使命! それはこの世界に転移する前の記憶。


「お、思い……」


 俺は激しい頭痛に見舞われながらも、ショートソードを握っている右手に力を込める。右手が、剣が、光る。闇夜のような『混沌の光』が俺の右手から発される。


「思い……出した……!」


 ショートソードが、漆黒の大剣へと変わっていく。さっき見た記憶の映像と同じの、漆黒の大剣へと変化していく。

 そうだ。俺はこんなところで死ぬために、この世界にやってきたわけじゃないんだ。


「どんな相手でも一撃で仕留める。これが俺のスキル――」


 手に持っている漆黒の大剣を両手で持ち、天高く掲げる。

 そしてアークデビルの体に向けて、漆黒の大剣を縦に振り落とす。

 ズバッシャァァァァァァァアァァァッ!!


「……!! グゥオォオアァァァァアアァァアアアァァァァッ!?」


 剣先を地面まで叩きつけると、洞窟が崩壊するほどの地震が起こる。剣先から大きな地割れが走り、深い谷ができるように地面が真っ二つにわかれた。天井から砂や岩がこぼれ落ちる轟音の中、アークデビルの断末魔だけを俺は聞いていた。

 一瞬の隙があれば、一撃で仕留められる。たとえそれが、ダンジョンのボスモンスターであろうと。

 これが俺のスキルであり――俺が俺である、その理由。


「ブレイブソードだ!!」


 アークデビルは膝をつき、どさりと音を立てながら倒れ伏す。そうして激しく爆発して、跡形もなく消え去った。

 ブレイブソードは白い光に包まれ、瞬く間にふつうのショートソードに戻った。

 ボスモンスターを倒したことで全身から力が抜けた。ガクリと膝を付きそうになるすんでのところで、アイリが俺の体を支えた。


「シト様……ありがとう。それと、ごめんなさい……。わたし、わたし……ぐすっ」


「……何も言うな。奴隷の命を管理するのが主人の役目。それだけのことだろう」


 俺がそういうと、アイリは俺の胸に顔をうずめるようにギュッと抱きついてきた。

 しばらくの間、ふたりきりの時間が流れる。僅かでも力が残っていればすぐにでも引き離してやりたかったのだが、どうしても自分ひとりで立つ力が湧かなかった。

 やがて俺はアイリに抱きつかれたままの状態で、口を開く。


「アイリ……今から言うことをよく聞け。思い出すことができたんだ。俺がこの世界にやってきたその意味を」


「え……? お、思い出した……って、まさか記憶を取り戻したの!?」


「あまり話したくはないんだがな」


 アイリが俺の顔を見上げた。

 俺はショートソードをマントに仕舞い、覚悟を決めて話し始める。


「俺のスキル『ブレイブソード』は、どんな相手でも一撃で仕留める剣を使う能力。このスキルは……そう、女神から授かったんだ」


「女神?」


「ああ。俺はもともと別の世界の人間だった。それが女神によって天国に連れられてきて、この世界に転移するよう言われたんだ」


「う、うん」


「『今この世界では、魔王の意志を受け継ぐ魔物たち――魔王の三化身が動き出しています。三化身の目的はこの世界を破滅させること。三化身の力を前に、この世界の人間では打ち勝つことができません。だから別世界の人間であるあなたにこの世界を救ってほしい』……そして俺は、ブレイブソードを授かった」


 こうして俺は今朝この世界に転移した。転移のショックで記憶喪失を起こしてしまったのは事故だったが、自分の目的を思い出すことができた。

 俺はフッと笑い、自嘲するように告白する。


「世界を救う勇者として、俺はこの世界にやってきたんだ――どうだ、笑える話だろう? 世のため人のために戦うなんて、この俺に一番似合わない使命なのにな」


「……確かに、シト様には似合わないことかもしれないわ。でも――」


 アイリが俺の目を見上げ、まっすぐな瞳で見つめる。


「シト様が勇者だって、わたしは信じる。だってシト様は、わたしのことを命懸けで守ってくれたもの……!」


 突拍子もない話だったろうに、アイリは素直に信じてくれた。覚えず、苦笑が漏れてしまった。

 アイリは言う。


「最近のモンスター被害の多発は、その魔王の三化身が原因だったのね」


「そういうことだな。噂は当たっていたわけだ。このダンジョンを乗っ取ったアークデビルも、魔王の三化身となんらかの関係を持っていると見るべきだろう――とにかくまずは三化身の情報を探さなくては……うぐっ」


 そういって歩き出そうとするが、足をくじいてしまった。全身もズキズキと傷みを感じる。

 アイリが俺の腕を肩に回して、全身を支えた。


「無理しちゃダメだわ! シト様はいま瀕死の状態なんだから!」


「も、もう回復した。ひとりでも問題ない……」


「ダメっ! HPだってまだ一桁じゃない! ……こんな時くらいわたしに頼って? わたしたちは、同じパーティの『仲間』でしょ?」


「…………」


 俺は口をつぐんだ。

 ダンジョンのボスを倒したことで、帰還用ホールが出現した。俺とアイリはホールを目指して、アバン洞窟を後にしようとする。

 その去り際、アイリは俺に問うた。


「シト様……初めてのローグダンジョンはどうだった? やっぱり、こんな危険な場所にはもうあんまり来たくないかしら……?」


「フン、知れたことを……」


 至極下らない質問に、俺はため息をついた。

 いつどこでどんなアクシデントが起こるかわからない。最強の力を授かっても、最善の手を尽くしても、決してクリアできるとは限らない。

 ローグダンジョンとは、そんな理不尽な場所だ。

 あろうことかこの俺が死にかけたんだぞ?

 俺は身体をひきずりながら、だからこそ――満足気な笑みを浮かべる。


「こんな楽しいゲーム、ほかにないさ」


 俺の答えに、アイリはにっこりと笑った。


 *


 俺とアイリがギルドに帰るころには、時刻は夜を迎えていた。


「ただいまーっ!」


 『ホープ』の表札がかけられた扉をアイリは開いた。俺もそれに続いてルームの中に入る。

 部屋の中はしんとしていた。


「あら? まだ2人とも帰ってきてないのかしら」


「みたいだな」


「うふふ……じゃあ今夜はふたりきりというわけね♥」


 アイリが、艶かしい表情を見せた。

 そうして突然、破れてもいないのにワンピースを頭から脱ぎだした。たぷんっと乳房を揺らしながら肉感ある身体を晒し、さらに純白のブラジャーとパンティーをするりするりと床に落とす。

 恥ずかしいところをすべてさらけ出した少女の肉体が、俺の目の前に差し出された。


「たくさん頑張ったシト様のために、今夜はわたしが精いっぱい癒してあげる……♥ ベッドに行きましょ……♥」


 どかっ!


「ちょっとシト様ぁあぁあっ!? なんで追い出すのぉおおおぉおおおっ!? せめてパンツだけでもぉぉおおおおぉおおぉおおおおーーーーーーーーっ!!」


 奴隷の分際で、思い上がるな。

 全裸のアイリを部屋から追い出して、俺はひとり床に就いたのだった。

次回の更新は2/2の午後7時です。

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