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Dungeon Brave'S(ダンジョンブレイブズ)  作者: 北田啓悟
最強の勇者「アバン洞窟」
3/23

003 ローグダンジョン【1F】

 草原をいくばくか歩き、俺とアイリは目的地にたどり着いた。


「あれがダンジョンホールだわ」


 アイリが指さした方向は、何もない空間だ。何もない空間に、黒い渦ができていた。

 ブラックホールのような不思議なそれは、おおよそ扉と同じくらいの大きさである。


「このホールに入ると『アバン洞窟』のローグダンジョンに行くわ」


「ここから俺の冒険が始まるのか」


「ローグダンジョンは、神の加護とモンスターの魔力が入り乱れるカオスな場所――入るとレベルは1になり、アイテムは持ち込めず何もない状態からスタートするの。さらにダンジョンは入るたびランダムに形が変わるから、どんな展開が繰り広げられるか誰にも予測できない」


「ほう、ダンジョンのなかでレベルを成長させたりアイテムを調達するわけか。毎回新しい冒険が待っているのは楽しめそうだな」


「準備はいい?」


「ああ」


「大丈夫! なにかあってもわたしがシト様を守るわ! たとえこの命に代えてでも!」


 アイリから重いセリフを頂いたところで、手をつないだまま俺とアイリは同時にダンジョンホールへと飛び込む。


「行くぞ!」


「おーっ!」


 *


【1F】


 視界がまどろむこと数秒。先ほどまでいた草原とは打って変わって、俺とアイリは洞窟のなかへとワープした。


「……ついにやってきたか、ローグダンジョンに」


 俺は洞窟内部の構造に目を向ける。洞窟には転々と松明が設置されており、内部の様子が可視できるようになっている。

 周囲の様子を観察していると、アイリが俺の前にやってきた。そうして俺の身を守ろうと腕を広げ、厳しい顔つきで周りを注視する。


「気をつけてねシト様。ダンジョンには危険がたくさんあるわ。すこしのミスで命を落としかねないから細心の注意を払ってね」


「フン、奴隷の分際で主人を心配するな」


「本当に危険なのっ! ほら、さっそくモンスターがやってきたわ!」


「グルルルルルゥウゥ……!」


 アイリの視線の先に、犬型のモンスターがいた。

 モンスターの目の前には、空中に『ドッグ』という文字が表示されている。あのモンスターの名前なのだろう。

 アイリは警戒するようにドッグに近づいていく。


「シト様はそこで見ていてね。まずは戦闘のお手本を見せるから」


 臨戦態勢を取りつつドッグに歩いていく。

 対するドッグも立ち止まることなく、唸りながらアイリに歩いてくる。

 明らかな敵意を持ってアイリを睨み、じりじりと近づいてきて――


「ガウウゥウゥッ!!」


 ドッグが飛び出した。

 上半身に向かって襲いかかってくる。構えていたアイリは、ハイキックでドッグに先制攻撃を仕掛ける。


「はぁぁッ!」


「ググッッ!」


 アイリの攻撃はヒットした。

 ダメージを与えることには成功したようだ。しかしドッグは倒れない。攻撃のショックを地面でふん縛り、アイリに反撃を仕掛ける。


「ガァアアァアーーーーッ!」


「はうッ!」


 アイリの体に飛びかかり、肩あたりをガブリと噛み付く。

 痛みを堪え、アイリはもう一度攻撃を仕掛ける。噛み付いたままのドッグに対して、腹部をアッパーする。


「やあぁあああッ!!」


「キャウウゥーーンッ!」


 二度目の攻撃を受けてドッグは悲鳴を上げる。そして、まるで風船のように爆発して消滅した。

 アイリは噛み付かれた箇所をぱんぱんと払い、両手を腰に当てて満足気な顔を俺に見せる。


「ドッグ、討伐! 2ダメージしか受けてないし余裕だったわね!」


「今のがダンジョンでの戦闘か? 見るからに簡単そうだったがな――しかし、2ダメージとはなんのことだ?」


「シト様。わたしを見ながら『ステータスオープン』という言葉を心の中で念じてみて?」


「? いいだろう」


 俺はアイリの体を見ながら『ステータスオープン』と念じてみた。

 するとアイリの体の前に、ステータスの情報が表示された。


『アイリ

 LV:1

 HP:13/15

 ST:100/100

 XP:5/10

 ATK:0

 DEF:0

 STR:5

 POW:8/8』


 またアイリの頭上には緑色のバーが表示されており、そのバーの下には『13/15』という数値が記されてある。

 俺は理解した。あの数値は、最大HPが15で、現在HPが13ということを示しているのだろう。


「ダンジョンでの受けたダメージ量というのは、感覚的にわかるようになっているのよ。わたしは今の戦闘でドッグに攻撃され、HPが13になったわけね」


「ふむ。これが0になれば、当然死んでしまうわけだ」


「その通り! そして、しばらくそのままの状態でわたしを見続けてみて」


「? ――む。14になったぞ」


 しばらく時間が経過するのを待っていると、緑色のバーの下の数値が『14/15』になった。

 アイリは言う。


「ダンジョンで受けたダメージは、時間が経過すると自然に回復していくの。ほら見て、さっき噛まれて破れた服も元に戻ってるでしょ?」


 アイリは肩を俺に見せつける。ドッグの歯型に破られた衣装が、徐々に再生していっているのが見て分かる。


「なるほどな。今のモンスターは弱かったから簡単に倒せたが、HPがヤバくなれば逃げて回復すればいいわけだ」


「そういうこと! さすがシト様、理解が早いわね! ――ダンジョンで最も気をつけるべきこと、それはモンスターとの戦闘とHPの管理だわ。まずはこれをしっかり頭に入れておいてね」


「0になればその場で死ぬのだから、当たり前のことだな。わざわざ注意されるまでもない」


「それじゃあ別の部屋に行きましょ! 次はシト様が戦ってみてね!」


 そういってアイリは、地図を手にしてダンジョン内の狭い通路へと歩いて行った。俺も地図を取り出して、アイリの後ろをついていく。

 歩きながら見てみると、地図には1つの大きな広間と1つの狭い通路が描かれている。通路の先端には2つの@マークが記されており、そのマークは俺たちが歩いていくと連動して紙の地図を進んでいく。

 俺たちが移動することで、手にしているマップがどんどん拡張されていくようだ。どこが行ったことのある場所でどこがまだ行ってない場所なのかがすぐにわかる設計である。当然、今の俺たちはまだ1つの広間しかマップを埋めていない。

 歩き続けて通路を出ると、新しい広間に出た。

 マップ上の広間には、■マークと□マークが1つずつ記されている。そのうちの■マークは、ゆっくりと俺たちのいる場所に近づいてきている。


「シト様! またドッグが現れたわ!」


「グルルルルゥウウウゥゥ……!」


「ああ。今度は俺が倒してやる。見ていろ」


「待って! その前に、あの場所に行くことをオススメするわ!」


 アイリはある場所を指差す。それはマップ上に□マークが記されている位置だ。その位置に俺は目を向ける。

 するとそこには、一本の短剣が落ちていた。


「ダンジョンにはアイテムもたくさん落ちているの! アレは剣だから、装備アイテムだわ! アレを装備してからの方が戦闘を有利に進められるはずよ!」


「それはいいことを聞いた。このタイミングでそんなものを見つけられるとはラッキーだな」


 俺は走って、落ちている剣を拾った。

 すると空中に文字が表示される。


『ショートソードを拾った!

 ATK:2

 EFF:なし』


 どうやらアイテムを拾うと、その名前と効果が表示されるらしい。モンスターの名前表示やHPバーの数値といい、ローグダンジョンではあらゆるものがシステマチックに動いているようだ。

 俺はショートソードを右手に持った。ステータスに『ATK:2[E]ショートソード』という項目が加わる。

 そして俺は、ドッグに走っていって攻撃を仕掛けた。


「とりゃぁぁぁあッ!」


「キャゥウゥウウーーンッ!?」


 攻撃力を表すATKの値が上昇しているおかげだろう、俺はショートソードを斬りつけることでドッグを一撃で倒すことができた。爆発して消滅し、跡形もなく消え去る。


「フン、やはり大したことはないな」


「きゃああぁぁーーーー! すごい! すごい! カッコいいーーーー! シト様素敵ぃいいぃぃぃーーーーっ!!」


 キャーキャーとアイリが大げさな声援を上げた。

 そうして、俺が身につけている腕輪型のステータスからファンファーレが鳴った。


「おめでとうシト様! レベルアップよ!」


「むっ? レベルが2になったぞ」


 俺は自分に対して『ステータスオープン』と念じた。自分のステータスが目の前に表示され、それを確認してみる。


『シト

 LV:2

 HP:18/18

 ST:98/100

 XP:10/30

 ATK:2[E]ショートソード

 DEF:0

 STR:7

 POW:8/8』


 体力を表すHPの最大値が18に増加した。また強さを表すSTRの数値も5から7へアップしている。

 レベルアップすることで上昇するのはHPとSTRのふたつのようだ。経験値を表すXPの値には、次のレベルまでの経験値量が更新されている。


「こんなにすぐ戦闘をマスターするなんて、シト様は冒険者になるために生まれてきたようなお方ね! 今までいろんな冒険者を見てきたけれど、ここまでの素質は見たことがないわ!」


「やれやれ、ふつうの冒険者とやらはこの程度のモンスターで苦戦するのか? 他も俺が倒してやる。アイリは黙ってついてこい」


「はいっ! シト様のカッコよく戦うところ、いっぱい見せていただきますっ!」


 そうして俺とアイリはこの階の部屋と通路をしらみつぶしに探索する。


「たぁぁッ!」


「キャウゥウウウゥウーーーーン!?」


「はぁぁぁッ!」


「ギニャァアァアァァアーーーー!?」


「ザコどもがぁぁあ!!」


「キュイイィイイイィィーーーー!?」


 装備したショートソードで俺は斬りまくり、犬型のドッグのほか、猫型のキャット、兎型のラビットのモンスターも倒して経験値を稼いでいく。

 そうしてレベルが3にアップした。


『シト

 LV:3

 HP:22/22

 ST:91/100

 XP:41/60

 ATK:2[E]ショートソード

 DEF:0

 STR:9

 POW:8/8』


 俺とアイリは、マップに記されてある最後の部屋にやってきた。

 部屋の中には◎と描かれたマークが表示されている。


「アイテムも拾い尽くしたし、モンスターも狩り尽くしたわね。これでこのフロアでできることはすべて終えたわ」


「やることがなくなったな。まさかこれで終わりではあるまい?」


「ええ、冒険はまだ続くわ。あそこにホールがあるでしょ? あれに入って次の階に行くのよ」


 アイリの指さした方向には、このダンジョンに来るために入ったのと同じのブラックホールのような黒渦があった。なるほど。◎のマークは、ホールのマークのようだ。


「ダンジョンには1フロアに1個だけホールがあるの。ホールに入って次の階に進み、徐々に奥の階層へと進んでいく。そして最奥地にいるボスモンスターを倒すことでダンジョンをクリアすることができるわ」


「ボスを倒せばクリアか。至ってシンプルだな」


 とはいえホールを見つけたらすぐに次の階に行けばいいというわけでもないだろう。アイテムを拾うために探索することは大事だし、モンスターを倒してレベルを上げることも後々響いてくるはずだ。

 1階のマップはすべて埋め尽くされた。アイテムとモンスターはもうどこにもない。今回は次の階に進んだほうがいいだろう。

 俺とアイリはホールへと近づいていく。


「このアバン洞窟の階層は3階までだわ。気を引き締めて掛かりましょ」


「楽勝だ。ダンジョンの基本はもう掴めている」


 簡単におさらいしておこう。

 ダンジョンをクリアするためには、1フロアに1個あるホールを見つけて次の階層に進み、最奥地にいるボスを倒すこと。

 ダンジョンにはアイテムやモンスターがたくさんあって、それらをうまく駆使することがクリアの鍵となる。


「だが、ローグダンジョンはまだまだこんなものじゃないんだろう? もっと俺を楽しませてほしいものだな」


「そうね。ここから先はもっと難しくなるけど、シト様なら必ずクリアできるわ! わたし、どこまでもついていくからねっ!」


 俺とアイリは手をつないでホールに入り、次の階へ進んだ。

次回の更新は2/1の午前7時です。

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