022 更に闘う者達①【15F】
「誰かが犠牲になるしかない……」
隊長は苦々しそうに言い放った。
彼の一言を受け、その場にいるものたちはざわめき始める。
「犠牲になるって……いったい誰が?」
「誰でもいいというわけではない。魔王軍のあの猛攻を受けきれる者でなければ……」
「無理だ! 隊長でさえ返り討ちにあったではないか! 私たちのうち誰があの軍隊に特攻できるというのだ!」
冒険者連合軍は窮地に立たされていた。こちらの戦士の数は半壊しているのに対し、魔王軍のほうは未だ衰えが見えない。この世界が破滅させられるのはもはや時間の問題だろう。
隊長は拳をグッと握り、苦々しくつぶやく。
「私だってわかっている……! だが他に方法など……」
隊長は目を瞑った。不可能な作戦であることなど承知で言ったのだろう。魔王軍に敗北することを認めたくないがために。
でもそれが唯一の希望ならば、
「……行きます」
手を挙げて言い放った。
「わたしが、特攻します」
「「!?」」
わたしがそう言うと、その場にいたすべての冒険者がこちらを向いて驚いた。
「貴様は天使チームの……! バカな! 貴様のような若造があの猛攻を突破できるわけ……はっ!?」
言葉の途中でその冒険者は察する。
冒険者のセリフを汲み取るように、隊長が言葉を続けた。
「そうか……ティクヴァーよ、確かにお前ならあの軍隊を突破することできるかもしれんな……」
隊長の言葉がわざとらしく聞こえたのは気のせいではないだろう。この中で特攻できる可能性のあるものは元よりわたししかいない。それをわかった上で特攻作戦を提案したのだ。
他のものも徐々に察し始める――最初からわたしに特攻させるつもりで提案したのだと。
隊長は顔を伏して言う。
「すまない……」
「なぜ、謝られるのですか。歴史に残る大戦争の終止符を打てるのですよ。この上なき光栄であります」
「……本当にすまない」
わたしは立ち上がり、隊長の手から十字架型の剣『エンダーオブクロス』を受け取った。
そして羽を広げて、暗雲に向かって飛び立つ。
「行ってまいります」
この命を捧げよう、カタストロフィを終戦させるために――
*
【15F】
「ついにダンジョンも中盤か……」
ホールを出て15階にやってきた俺は、感慨深くそう呟いた。
前にいるアイリが振り返って言う。
「始めのころは途方もなく長い旅路だと思っていたけれど、その半分をわたしたちは歩いてきたのよね」
「そうですとも。私たちは頑張ってきました……そのことは、私たち自身が一番よくわかっています!」
「だけどここで満足しちゃダメなのだ。ティズたちの使命はこの世界の破滅を防ぐこと……それを成し遂げるまでは決して冒険は終わらないのだ」
「……そうだな。必ず最後までたどり着くぞ!」
「「おお!」」
気持ちを新たに、俺たちは前へ前へと進んでいった。
「! モンスターだわ!」
通路を通って部屋に出ると、そこには新しいモンスターが二種いた。
「ブゥオオオオォオオオ!」
「ガァアァアルルルゥウ! ガァアァルルルル!」
棍棒を持った豚のモンスター『オーク』と、三つの首を持つ犬のモンスター『スーパーケルベロス』だ。どちらも攻撃的な様子で俺たちと向き合っている。
アイリは指示を出す。
「シト様、ティズ! ふたりはスーパーケルベロスを倒してちょうだい!」
「ああ! オークは任せたぞ!」
「行くのだ、シト!」
俺とティズはスーパーケルベロスの方へと向かった。
三つの首のうち、二頭は目を覚ましている。残りの一頭が眠っているのはこのモンスターの特性なのだろう。
「やれやれ、素でランクアップモンスターが出てくるとはな……気をつけろよティズ!」
「ガァァアァァアアウウゥウゥーーーー!!」
「「!」」
スーパーケルベロスが飛び出してきた。俺とティズはギリギリのタイミングで剣を振るう。
「はあぁあぁぁ!」
「でやぁあぁぁぁ!」
ズバアァァァ! ズシャァアアァァ!
「ガガァァウウウウゥ! ……グッ! グアァアアァァ!」
「!」
俺たちふたりの攻撃を受けてもスーパーケルベロスは倒れない。果敢に反撃を仕掛けてくる。
「ガァアアアァ! ガウウウウゥウウ!」
ズバシュウゥウゥ! バギシュゥウゥゥ!
「ぐおぉおおおおぉぉおっ! 二つの首で別々に攻撃を……!?」
「ふぎゅううぅぅう……! こ、こいつ、一度に二回攻撃を仕掛けてくるタイプのモンスターなのだ……!」
俺たちのHPはそれぞれ3分の1程度削れてしまった。もし俺たちがスーパーケルベロス相手にひとりで挑んでいたなら、3分の2もダメージを受けてしまっていただろう。
俺は脇腹部分の服を損傷し、ティズは胸部分のウロコが破壊された。急所を敵に晒さないようティズは、あらわになった胸をすぐさま左手で隠す。
俺とティズは歯を食いしばり、一気にトドメを刺す。
「やられる前にやるぞ! はぁあぁぁぁぁあぁ!」
「おーなのだ! ふりゃぁあぁぁぁあぁぁ!」
シャキィイイイィィン! ズシャァアァアァァ!
「ガァァアゥォオオォオオーーーー!!」
こちらも反撃の余地を与えるまもなく二回の攻撃を与える。スーパーケルベロスはたまらず悲鳴を上げ、三頭仲良く爆発四散した。
「や、やったのだ……っ! ふぅ……あんなモンスターがふつうに出てくるなんて、いよいよ本番という感じがしてきたのだ」
「アイリ! そっちは大丈夫か!?」
俺はさっと振り向いた。
ジャギィイイイイィイイン!
「グゥォオオオオォオオオォーーーー!」
ドカァアァン!
アイリのブロードソードが炸裂し、オークの巨体が爆発四散する。
「はぁ、はぁ……! な、なんとか大丈夫よ……! といってもメルナに支援してもらったけどね」
「ハイポーションをひとつ使いました! あのオークというモンスター、特別な能力はなにも持っていませんでしたが、単純にHPと攻撃力が高くて厄介でしたよ……!」
「そうか……本当に、ダンジョンの本番はこれからという気がしてきたな」
その辺にいるザコモンスターの一体一体が如実に強くなってきている。これからの旅路はもっともっと過酷なものになるのだろう。
だがそのモンスターを相手に、俺たちはちゃんと戦えている。それは、俺たちが強くなった何よりの証拠だ。
「さあ、折り返し地点だ!」
俺たちはフロアのアイテムを回収し、次の階に進んでいった。
次回の更新は3/11の午後7時です。




