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Dungeon Brave'S(ダンジョンブレイブズ)  作者: 北田啓悟
復活の希望「カース山脈」
19/23

019 最大の敵=空腹②【12F】

【12F】


「み、みんな……大丈夫かしら……?」


「わ、私はなんとか大丈夫です」


「ティズもまだ大丈夫なのだ」


「シト様は……?」


「……フン。俺のことよりも自分を心配しろ。ふらふらじゃないか」


「うふふ……。わ、わたしだって大丈夫だから……あうっ!?」


「おっと。まったく、しっかりしろ」


 アイリの身体が後ろ向きに倒れかけた。後ろにいた俺は、その背中を受け止める。

 アイリの顔がドキッと赤くなる。


「あっ……♥」


 俺に肩を支えられたことに嬉しさを感じたのか、アイリのげっそりとした顔に艶が戻っていった。

 そして愛のエネルギーで集中力を取り戻したのか、アイリは部屋にモンスターがいることに気づく。


「! みんな見て! スバローがいるわ!」


「スバロー! あいつは是非とも狩りたいところだ。しかし……」


 部屋にいたスバローは、また寝たふりをしている。前の階で取った袋小路作戦を取れば逃げられる心配なく狩ることはできるだろう。

 だが、今回その作戦を取るのは無理そうだ。


「あのスバローめ……通路のすぐ手前で寝たふりを……。あれじゃあ通路を塞ぐ前に起こしてしまうぞ」


「ふふっ、近づいたら起きるのなら……近づかずに倒せばいいのよ!」


 ビシュッ!

 アイリは突然、なにかのアイテムを投擲した。


「ピヨォオォーーーー!!?」


 投擲されたアイテムはスバローにヒットし、一撃で倒すことができた。

 俺は驚く。


「! なんだ? アイリ、いま何を投げたんだ?」 


「今のは宝石だわ!」


「宝石!? 確かお店で使う通貨だと聞いたが……それを投げたのか?」


「ええ。宝石はお店で使える通貨としてのアイテムよ。でも宝石には、実はもう一つの使い道がある――それが『宝石投げ』だわ!」


「宝石投げ?」


「宝石はモンスターに投げることでダメージを与えるアイテムにもなるの。しかもそのダメージ量は、宝石のカラット数と同じ数値だけ与える――わたしがいま投げたのは、4Fで拾った24カラットの宝石。だからスバローに24のダメージを与えたことになるわ」


「なるほど……そんな使い道もあるのか」


 宝石は、投擲アイテムとして使用することもできる。安定したダメージをたたき出せる上に遠距離から攻撃できるので、実用的なテクニックとして覚えておくべきだろう。

 アイリはスバローが倒れた位置へと走っていく。当然、スバローがドロップしたパンを拾うためだ。


「というわけでこのパンはわたしのものよ! みんな、悪く思わないでね!」


「なぬっ! アイリだけ飢えをしのぐなんてズルいのだ!」


「し、しかたありませんよティズさん。アイテムは見つけたもの勝ちですから。ね?」


「むぐ……。確かにそうなのだ――ふんだ! 自分の分くらい自分で見つけてみせるのだ!」


 ティズは頬を膨らませて次の部屋へ向かい、それを宥めるようにメルナがついていく。

 俺もふたりについていこうとしたところ、部屋に残っているアイリに引き止められた。


「待ってシト様!」


「ん?」


「シト様は……特別っ!」


 そういってアイリはパンをちぎって二等分にし、俺に向けて差し出した。


「はい、どうぞ!」


「……俺にくれるというのか?」


「うんっ! ほかのふたりには内緒だからね?」


「大きなお世話だ。俺だって自分の分くらい自分で見つけてやる。お前なんぞの慰めなど受けるも」


 ぐぎゅるるるぅうぅうぅぅぅぅ。

 喋っている途中で、腹の音が鳴りやがった。

 俺は下唇を噛んだ。それから、黙りこくった。血が滲みそうになるくらい強く下唇を噛み続け、期待を浮かべるアイリの顔を親の仇のように睨んだ。


「ぐ……」


 なんて屈辱だ。

 壮絶なる空腹に、プライドが力尽きてしまった。


「…………今回だけだ。ほかのやつらには、絶対言うなよ」


「うん!! 絶対誰にも言わないわ! だから受け取って、わたしの気持ち♥」


「黙れアバズレ。いいか、俺は何があっても死ぬわけにはいかないんだ。この世界を救う、それが俺の使命だからだ。そのために俺はこの世界にやってきた。勇者なんだよ俺は。決してお前に気を許したわけじゃない。たかが半分のパンを渡したくらいでこの俺の弱みを握ったと思うな。食欲に負けたとも思うなよ。俺は……俺はな」


「うん、うん。大丈夫。シト様の言いたいこと、全部わかってる。安心して」


「本当にわかっているのか? じゃあ俺の言いたいこと、当ててみろよ」


「……『別にお前を好きになったわけじゃないんだからな』かしら」


「バカが!!」


 俺は頭に血が昇るのを感じて、アイリの手からパンをぶん取った。


「大外れだ! お前は俺の気持ちをまったく理解していない! 本当にバカな女だなお前は! 誰よりも長く俺といるくせにそんなこともわからないとはな! まったくダメな女だ! フッ、最初から期待などしてなかったがな!」


「あらら、外れちゃったか。残念っ」


 呆れるような笑みを浮かべるアイリに背を向けて、俺は一心不乱にパンを貪り食う。

 ――もともと、どんなことを言っても大外れだと言うつもりだった。しかし……しかし、本当に俺の言いたいことを当てるとは……なんて女なんだ。

 なぜだ。

 なぜ俺の気持ちをそこまで理解してくれるんだ、コイツは。

 頭がふらふらする。顔が熱い。せっかくのパンも味わえたもんじゃない。


「もぐもぐ……ごくん。ああ、腹いっぱいだ。もう満腹。さっさとふたりと合流するぞ」


「はーい!」


 本当はまだぜんぜん食べ足りないのだが、空元気を振り絞って俺たちはメルナとティズに合流しに行った。

 そうしてこのフロアの探索をし終えたものの、やはりパンをゲットすることは叶わず、空腹を抱えたまま次の階に進んだのだった。

次回の更新は2/29の午後7時です。

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