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Dungeon Brave'S(ダンジョンブレイブズ)  作者: 北田啓悟
復活の希望「カース山脈」
18/23

018 最大の敵=空腹①【11F】

【11F】


 リュコスとの激闘を終えて11階へやってくると、山の様子は鬱蒼としていた。時刻が夜を迎えていることもあって、夜空に浮かぶ月と星々以外に明かりはなく、それらも生い茂る木々に遮られて視界は悪い。

 不気味な森を、アイリ・俺・ティズ・メルナの順で進んでいく。


「今まではティズが先導してくれていたけれど、ここからは自力でマッピングしないといけないわね」


「そうだな。出てくるモンスターの数も多くなるはずだ」


「ふっふーん! 強いモンスターが出て来てもティズがやっつけるのだ! みんなティズに頼っていいのだ!」


「ゆ、油断大敵ですよ……! 新しいモンスターはどんな能力を持っているかわかりませんから……」


 マップを片手に、先頭のアイリに俺たちはついていく。

 マップを見てもすぐにホールの場所がわからないというのは、当たり前のことではあるがなかなか辛い。先導がいることのありがたみを今になって痛感する。とはいえアイテムの数だって以前より多く手に入るはずだから、そう悪いことばかりでもないだろう。

 俺たちは列に並んで通路を進み、部屋に出た。


「! 新種のモンスターだわ!」


「「!」」


 先頭のアイリが武器を構えた。それにならって後ろの俺たちも剣を構える。

 部屋にいたのは、鳥型のモンスターだった。『スパロー』という名の大きい鳥である。


「ZZZ……」


「ね、眠っているみたいですね……夜だからでしょうか?」


「チャンスだわ。この隙に倒しましょ」


「待つのだ! あのモンスターに迂闊に近づいちゃダメなのだ!」


 ブロードソードを構えて近寄ろうとしたアイリを制止するようにティズが忠告した。

 アイリは振り返って問う。


「ティズ、スバローを知っているの?」


「先導してる時に見かけたのだ。スバローはいつも寝ているモンスターなのだ……でも実は、寝たふりをしてるだけなのだ」


「寝たふり?」


「冒険者が近づいたらすぐに起きて瞬速で逃げていくのだ。迂闊に近づいたら逃げられるのだ」


「逃げる? 俺たちに攻撃はしてこないのか」


「してこないのだ。でも倒したら、必ずあるアイテムを落とすのだ」


「なるほど……つまりあのスバローは一種のボーナスモンスターというわけだ」


「そういうことなのだ! だから慎重に倒すのだ!」


「慎重に、か……」


 必ずアイテムを落としてくれるというのなら是非ともスバローを狩りたい。俺は部屋内を見渡し、なにか作戦が出ないかと思案する。


「そうだ、いいアイディアを思いついたぞ」


「シト様、なにか作戦が思いついたの?」


「ああ。この部屋をよく見てみろ。この部屋からほかの部屋に通じる通路は、合計3つあるだろう?」


 現在俺たちとスバローがいるこの部屋には、俺たちが通ってきた南側の通路のほか、北側と西側の方角にそれぞれ通路がある。


「それに対し俺たちは4人いる。ならば俺たちみんなでこの部屋の通路の前に立てば――」


「! なるほど、逃げ道を塞ぐというわけね! これならスバローはどこにも逃げることができない! さすがシト様、冴えてるわ!」


「いい考えですね! じゃあ、さっそく分かれましょう!」


「ふーん、シトのくせに面白い提案なのだ。ま、ここは乗ってやるのだ!」


 俺の作戦に従い、アイリとメルナとティズはそれぞれ別な通路の前に立ちふさがった。

 俺はバルムンクを構えて、寝たふりをしているスバローに慎重に近づいていく。


「…………」


「……ピヨッ!」


「! 起きたか!」


 思いのほか早くスバローは寝たふりを解いた。

 起きたスバローは俺から逃げようと奥の通路に全速力で走っていく。


「ピヨヨッ!?」


「はっはっはーっ! 残念だったのだ! お前は完全に包囲されているのだ!」


 ズバァァアァァ!


「ピヨヨヨーーッ!!」


 ティズのファルシオンが、スバローの体を切り裂く。HPはそれほど高くないようで、スバローは一撃で倒れた。


「スバロー討伐なのだ!」


「ナイスね、ティズ!」


「このくらい余裕なのだ!」


 スバローが爆発四散した場所にアイテムがドロップする。ティズはそれを拾い、俺たちに見せつけた。


「パンをゲットなのだ!」


「食糧だと? どうしてダンジョンでそんなものが……?」


 アイテムというからてっきり魔導書かポーションなんかが手に入ると思っていた。そもそもダンジョンで食糧がゲットできること自体が驚きだ。

 スバローを倒したことで通路を封鎖する必要もなくなり、アイリが近づいてきて俺に解説をした。


「ここでパンをゲットとは、いいタイミングね――シト様、そろそろお腹が空いてきた頃合じゃないかしら?」


「? ……そういえばダンジョンに入ってから何も食べてないが」


「ステータスを開いみて。スタミナを表すSTの値が減っているはずだわ」


 アイリに言われて、俺は自分に『ステータスオープン』と念じてみた。

 開いたステータス画面を確認してみると、


『シト

 LV:15

 HP:74/74

 ST:13/100←

 XP:2680/2800

 ATK:7[E]バルムンク

 DEF:3[E]エンブレムシールド

 STR:51

 POW:8/8』


 アイリの言うとおり、いつの間にかスタミナの値が『13/100』とかなり減少していた。

 アイリは言う。


「長い時間ダンジョンを潜っていると、当然ながらお腹が減るわ。もしスタミナが0になると『飢餓状態』になってしまうの」


「飢餓状態……腹が空くことで状態異常になるわけか」


「そのとおり! 飢餓状態に陥ると自然回復しなくなって、逆に時間経過とともにダメージを受けるようになってしまうわ。そうなる前に食糧アイテムを食べて、スタミナを回復させることが大事ね――というわけでみんな、ここらでご飯にしましょ!」


「さ、賛成です……! 私も実はお腹がぺこぺこで……でもここまで一個もパンを拾えてなかったからどうしようかと思っていました……!」


「安心するのだ! ティズはいっぱいアイテムを持っているのだ! パンの数だって……ちょうど合計4個あるのだ!」


「「おおぉおおぉーーっ!」」


 ティズの発言に、アイリとメルナが歓声を上げた。


「この中で一番アイテムを持ってるのはティズだものね! 素晴らしいわ!」


「ティズさんがいなければ私たち餓死するところでしたよ……!」


「むふふふーーっ! 褒めるのだ褒めるのだ! ――ほらほら、シトもなにか言うことがあるはずなのだ?」


「何だと?」


 にまーっとして目つきで俺をねめつけるティズ。俺に向けてパンをひらひらさせ、なにかを要求しているようだ。

 俺は鼻を鳴らす。


「フン。たかがパンひとつでこの俺を篭絡させられると思っているのか?」


「およ~? 本当にいいのだ~? 要らないっていうならティズが食べちゃう……」


「こらティズ!」


 ぱちんっ!


「ふぎゃっ!?」


「シト様を困らせるなんて、あなたのやっていることはこの世界への反逆と同罪よ!? 恥を知りなさい!!」


「ななななっ、なんでティズが怒られるのだぁぁっ!? うぐっ、うぐっ……! ちょっとからかっただけなのだぁぁ……!」


 理不尽に頬をビンタされ、ティズは目に涙を浮かべつつ言った。……俺まで人格を疑われるからそういう過激な行動に出るのはやめてほしいのだが。

 俺に対する意地悪はアイリを激昂させてしまいかねないと理解したらしく、ティズはむすっとした表情ながらもみんなにパンを配るべく部屋の中央に向かって歩いた。

 その時だ。

 カチリ。


「!!?」


 ぬぅううぅぅん。

 突然、ティズの足元にドロドロの泥がぬめった。なにか変なトラップを踏んだようだ。

 そしてこんなメッセージが表示された。


『持っているパンがすべて腐ってしまった!』


 (゜д゜)(゜д゜)(゜д゜)(゜д゜)

 不吉すぎる一文に俺たちは固まった。

 ティズは恐る恐るインベントリの中身を見た。するとそこには……


『腐ったパン

 腐ったパン

 腐ったパン

 腐ったパン』


「パンがぜんぶ腐ったのだぁああぁあぁぁぁああぁーーーーっ!!?」


「「ぎゃあぁあぁぁあぁぁああぁぁぁああぁーーーーーーーーっ!!?」」


 インベントリの中身が最悪なことになってしまっていた。

 ティズはパンを取り出して状態を確認した。


『腐ったパン

 効果:お腹がすこし膨れるが、毒で体を壊してしまう。』


 取り出したそれはカビが生えていて、とても口に入れられるような代物ではなかった。

 ティズは口をあわあわさせる。


「あわ、あわわわわわ……っ! ど、どうしようなのだ……どうしようなのだぁあぁあぁぁ!!?」


「お、おち、落ち着くのよ! とにかく落ち着きなさいティズぅっ!」


「ア、アイリさんこそ落ち着いてくださいっ! 落ち着かなきゃダメですぅーーっ!」


「なにを言ってるのだぁぁ! メルナが一番落ち着くのだぁああぁぁあぁぁっ! ふぎゃあぁあーー!」


 頭の中が真っ白になって3人は動転してしまう。

 そんな彼女たちを制するように、俺はビシッという。


「慌てるな! まだこの階にはアイテムが残っているだろう! それにパンを落とすスバローだっている! 今すぐ探しに行けば見つかるかもしれないぞ!」


「! そ、そうだわ! シト様の言うとおりよ! 急いでこのフロアを回りましょ!」


「「おおっ!」」


 俺の言葉に希望を見出し、みんなはフロア内を手分けして探索した。

 しばらくしてホールのある部屋にみんな集結する。それぞれ成果を発表するものの、みんな浮かない顔のままだった。

 俺は苦い顔で言う。


「悪い。俺はパンを見つけられなかった……」


「ごめんなさい、わたしもダメだったわ……」


「私もです……」


「同じくなのだ……」


「うう……っ! 私たち、もしかして餓死しちゃうんですか……? そんなのイヤですぅっ!」


「ま、まだ諦めちゃダメよ! 次の階に行けば見つかるかもしれないわ! ……うぐっ!?」


 ぐぎゅるるるるるるぅううぅぅ。

 アイリのお腹の音が鳴った。俺たちはその音にただならぬ焦りを感じた――これは本格的にヤバいかもしれない……。


「と、とにかく次の階に進むぞ!」


「「おお……!」」


 いつもより元気のない声で応答し、俺たちはお腹に手を当てながらホールに入った。

次回の更新は2/26の午後7時です。

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