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Dungeon Brave'S(ダンジョンブレイブズ)  作者: 北田啓悟
復活の希望「カース山脈」
16/23

016 タンク・アタッカー・ヒーラー③【8F】

【8F】


「この階はなるべく慎重に進むようにしよう。前の階で俺とアイリはスキルを使ってしまったからな」


「ええ。再び使えるようになるまで気をつけていかないと」


 8階にやってきた俺たちはアイテム探索に向かいつつ、警戒態勢を強くするよう呼びかけた。

 くいっ。くいっ。


「ん?」


 最後尾を歩いているメルナが、俺の袖を引っ張った。

 もじもじとためらいがちな様子で、メルナは言う。


「い、いざとなれば、私がスキルを使いますので……」


「そうか……そういえばメルナはまだスキルを温存していたか」


「はいっ。危なくなったら使いますね」


「どんなスキルを使ってくれるのか楽しみだ。お前の力を、見せてくれ」


「はい! 精いっぱい、頑張りますねっ!」


 メルナは元気よく頷いた。初対面からずっとおずおずとした態度でいた彼女が笑みを見せてくれたのは、俺に心を開いた証拠だろうか? ほのかに顔が赤くなっているのが気になるが。

 まあ、そうはいっても使ってもらうことはないかもな。そんな立て続けにトラブルが起こるわけ……。

 と思っていた矢先、


「きゃああぁああぁあぁぁーーーーっ!!」


「「!?」」


 前を進んでいたアイリが、悲鳴を上げた。

 嫌な予感がして急いで声の方に行ってみると、アイリがモンスターに囲まれていた。


「な、なんだあれは!?」


「いきなりモンスターに囲まれてます……!? しかも4体……!!」


「わぁぁぁーーーーんっ!! スポーンのトラップだわーーっ!!」


 アイリは悲壮感漂う声音で叫んだ――スポーンのトラップ。おそらく踏んでしまうと周囲にモンスターが召喚される効果のトラップだろう。いきなりモンスターが大量に出現したのだからまず間違いない。

 アイリの周りには、ウィッチとリッチが2体ずつ召喚されている。


「フフフフ……!」


「フフ……! フフフフフ……!」


「カラカラ! カラカラカラカラ!」


「カラララカラララッ!」


「いやぁああぁぁあーーーーっ! あっち行ってぇええぇぇーーーーっ!」


「落ち着けアイリ! 今行くぞ!」


 アイリはパニックに陥っている様子だ。持っている剣を闇雲に振り回しているせいでまったくモンスターに当たっていない。

 スキルが切れいているこんな時に……なんてタイミングだ。アイリめ、アバン洞窟の時にも感じていたが、お前はどこまで運がないんだ。

 俺はダッとアイリの方へ駆け出す。


「手前の1体をふたりで倒すぞ! そしてこっちに逃げるんだ!」


 剣を構えて全力でダッシュする。

 バルムンクを両手で持ち、手前にいるリッチめがけて俺はジャンプした。


「ずおぉおりゃぁあぁっ!!」


 ズバァアアアァァアアァ!!


「ガラァアアァアッ!!」


「追撃しろ!」


「いやあぁっ! 見えちゃうぅぅっ! ううっ、シト様ぁあぁあぁっ!」


 リッチとウィッチの攻撃を食らって服をビリビリに破かされ、アイリは胸に手を当てながらもブロードソードを構えた。そうして俺が攻撃したリッチに追撃を食らわせる。


「そこをどいてぇぇえぇーーっ!!」


 ザァアアァアアンッ!!


「ガララァアアァァアァアァアーーーーッ!」


 アイリの追撃でリッチが倒れた。

 俺とアイリの間にいたモンスターは、いなくなった。


「こっちだ! 急げ!」


「シト様ぁあぁーー! わたしを受け止めてぇえぇぇーーっ!!」


 服がはだけてブラジャーまで見えてしまっている半裸のアイリが、俺の胸へ飛び込もうとジャンプする。

 俺は両手を広げてアイリを抱き抱える準備をした。

 しかし――


「フフフフッ!」


 ウィッチが杖を振った。

 ぽうんっ! アイリの体に杖の魔法弾がヒットしてしまう。


「! 何だと!?」


「ウ、ウソ……! また……!!?」


 アイリの体とウィッチの体が光った。もくもくとふたりの体から煙が噴き出す。

 そして煙が晴れたころには、ふたりの場所が入れ替わってしまった。

 つまりまたもやウィッチとリッチに挟まれてしまったのだ。


「あっ……あっ……!! に、逃げられない……!」


「フフフフフ!」


 アイリのHPはもう尽きる寸前。攻撃を仕掛ける暇すらなく、アイリのHPは0になってしまう。

 もはやここまでか……!

 見守っている俺まで諦めかけたその時――


「――――♪ ――♪ ――♪ ――――――――♪」


 突然のことだ。

 優しい歌声がどこからか聞こえたのだ。


「――♪ ――♪ ――――――♪」


 その歌詞は、人間の言葉ではない。生まれてから一度として聞いたことがない不思議な旋律と言語だった。しかしその歌声は、俺の心身を安心させた。

 俺は振り向いて、声の聞こえる方を向く。


「メルナ……? これは……!」


「――――――――♪ ――――――――♪」


 歌っていたのはメルナだった。

 両手を合わせて目をつむり、まるで神聖な儀式のように歌っていた。

 すぅぅ、とメルナは歌声をフェードアウトさせる。


「……この歌を聴く者に、神のご加護があらんことを」


 メルナは目を開けて言った。


「パーティひとりのHPを完全に回復させる――これが私のスキル『ヒーリングメロディ』です」


「回復のスキル……? ! アイリは!?」


 ばっと後ろを振り返ってアイリの姿を確認する。すると――


「ありがとう、メルナ……いつ聴いても癒される歌だわ!」


 ボロボロだった衣服は新品のように、満身創痍だった体はツヤとハリを見せるほど綺麗になった。ステータスを見てみると、HPが全回復している。

 フゥ……と俺はひと呼吸いれた。

 そしてバルムンクをグッと握り、自信を取り戻した目でアイコンタクトを送ってくるアイリとともにモンスターに立ち向かう。


「アイリ! いくぞ!!」


「ええ、シト様!!」


 ズバシュゥウウゥ! バグシャァアアァァ! ザシュゥウン!!


「「ガガァアアァアアァアァアァアァーーーーッ!!」」


 剣を振り下ろした体勢のまま俺とアイリは背中を向ける。ウィッチ2体とリッチの爆発に、俺たちは勝利の余韻を噛み締めた。


「ウィッチ&リッチ、討伐!」


 俺はフッと笑みを浮かべた。

 正直、悪い気分ではなかった。各々役割にあったプレイをし、息のあったコンビネーションで難局を乗り越える――確かに、これは1人では味わえない楽しさだ。ちょっとこそばゆいがな。

 俺は肩をすくめつつ体制を自然体に戻す。すると俺が倒したウィッチの跡地に、魔導書が落ちていた。


「お。アイテムをドロップしたか」


『スキルの魔導書を拾った!

 EFF:使用者のスキルと同じ効果を発動する。』


 俺はその魔導書を拾った。近くにいたアイリが近づいてきて、驚く。


「わっ! シト様、それスキルの魔導書じゃない!」


「ん? そのようだな」


「それ、すごいレアアイテムだわ! ふつうスキルって一度使うと再び使うのに時間を置かないといけないから大事な局面以外では温存しがちになるけど、そのスキルの魔導書があればペナルティを無視できちゃうの! 強力なスキルの人が持てば、ものすごい便利なアイテムになるわね!」


「なるほどな。確かに有用だ。なら――」


 俺はスキルの魔導書を手に持って、歩いていった。

 そうして、差し出す。


「メルナ。これはお前にやろう」


「ふぇっ!? い、いいんですか!?」


「ああ。お前のおかげで今回の局面を乗り越えられたからな。その勲章代わりだ」


「で、でも……シト様のスキルの方が強いと思いますし、拾ったシト様がご自由にお使いになるべきだと思いますよ……?」


「なら褒美として貰っておけ。宣言通りに頑張った、俺からの褒美だ」


「ご褒美……えへへ、そう言われるとなんだか嬉しいです……っ♥ じゃ、じゃあ、シトさんのご褒美、いただきますね……♥」


「ああ」


 俺はスキルの魔導書をメルナに手渡した。回復はいくらあっても困ることはないからな。

 顔を赤くして嬉しそうに魔導書を受け取るメルナ。それから俺が振り返ると、両手のひらを差し伸べているアイリが真後ろに立っていた。

 にこにこと、俺に期待するような笑顔を送っている。


「シト様! ねっ! シト様っ!」


「なんだその手は」


「わたしも頑張ったわ! だから、ご褒美!」


「なんだと? 甘ったれるな。お前がスポーンのトラップなんか踏んだからああなったんだろう」


「えええーーっ!? で、でも、頑張ったのは事実じゃ……?」


「フン。本当に頑張ってるやつが自分で頑張ってるなんて言うか。お前はもっと頑張れ」


「がーーんっ!!」


 ショックな表情になって「そんな、ひどい……」とアイリはうるうると涙を目に溜めた。

 しかし涙目のままでビシッと威勢良く宣言する。


「い、いいわ! シト様に認められるまでわたし絶対にくじけないんだから! 一番シト様のお役に立てるのは、わたしなんだからーーっ!!」


「やれやれ……」


 また面倒な病気が始まった。

 アイリがキッとした目で睨み、メルナは猛犬に敵愾心を抱かれた時のように怯えた。彼女たちふたりの間にいる俺はため息をつく。

 ピピピピピピ!!

 突然、ステータスからアラームのような音が鳴った。


「! なんだ?」


「あら! どうやらたどり着いたみたいね!」


「ほ、本当です! ティズさんが10Fにたどり着いたようです!」


「どういうことだ?」


「集結陣よ」


 アラーム音が何を表しているのかよくわからない俺に対して、アイリは説明をした。


「ダンジョンをパーティで進んでいる場合、そのうちのひとりが10階ごとの階層にたどり着くと、その冒険者のもとに集結するの。これを集結陣と呼ぶのよ」


「! となると俺たち3人は10Fへ飛ぶということか」


「そのとおり!」


「これでティズさんと合流できますね!」


「でも気をつけなければならないわ。ダンジョンは基本的に10階ごとにボスがいるものなの。このカース山脈のボスモンスターといえば……」


「! 魔王の三化身か……!」


 カース山脈の階層は全30階。ということは10階ごとに三化身がいると考えられる。10階ごとに三化身との戦いが控えているわけだ。

 俺は不敵に笑う。


「フッ……ウォーミングアップは充分済ませた。ちょうど刺激的な楽しさを求めていたところだ」


「ええ! わたしも負ける気がしないわ!」


「ボス戦も力を合わせて戦いましょう!」


 俺たち3人の足元に青色の魔法陣が出現し、体が光り始める――どうやら集結の時間のようだ。


「ティズ、待ってろ……今行くぞ!」


 全身の輪郭が溶け、光とともに体が消え去る。そうして俺たちは、10Fへとワープしていったのだった。

次回の更新は2/20の午後7時です。

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