015 タンク・アタッカー・ヒーラー②【7F】
【7F】
アイリ、俺、メルナの順で7階にやってきた。
マップを見てアイテムのある位置を確認する作業ももはや癖になり、真っ先に地形の情報を頭に入れる。
「北の部屋にアイテムが固まってるわね。行きましょ!」
通路に入り、アイテムのある部屋を目指して歩いていく。
部屋に出る寸前、アイリは俺たちを後ろ手で制した。様子見をしにいくつもりらしい。
俺とメルナは通路のなかで待機して、アイリの指示をしばらく待つ。
すると部屋の方から声が発された。
「モンスターがいるわ! メルナは通路前で待機! シト様来て!」
「わかりました!」
「フッ……どんなモンスターだ!」
俺はバルムンクを構えて部屋へと走っていった。メルナは通路から一歩出た位置で部屋の様子を見渡す。
前方に、2体のモンスターがいた。それぞれ新しいモンスターだ。
「フフフフフ……!」
「カラカラカラ……!」
左にいるのは、手に杖を持っていてローブに身を包んだ魔女風の『ウィッチ』というモンスターだ。
右にいるのは、手に鎌を持っていてローブに身を包んだ浮遊したガイコツの『リッチ』というモンスターだ。
ウィッチとリッチは5メートルほど前方にいる。距離を詰められるのは時間の問題だろう。
「陣形を崩されなければ2対2で戦えるわ。シト様、並走して近づきましょ!」
「ああ」
俺とアイリは肩を並べてモンスターにむかって走っていった。
「フフフフ……」
すると前にいるウィッチが杖を構え出した。アイリの方に向けて、杖の先端に魔法を貯めている。
俺は叫ぶ。
「気をつけろ! なにか来るぞ!」
「フフーーッ!」
「!?」
間に合わなかった。いや、避けようがなかったのだ。
ウィッチの振った杖から魔法弾が発され、アイリの体にヒットする。するとアイリの全身が光り、杖を振ったウィッチ自身の体も光に包まれる。
ボウン! と両者は煙に包まれ、煙が晴れた場所には、
「なっ!?」
「入れ替わった!?」
アイリとウィッチの場所が入れ替わってしまったのだ。
並走していたアイリと入れ替わった。それはつまり、俺のすぐ隣にウィッチが来たということだ。
俺は走っている足を急ブレーキさせ、隣にいるウィッチへと臨戦態勢を取る。
「大丈夫か、アイリ!?」
逆もまた然り。アイリの出現した位置は、リッチが隣にいる場所だ。
それだけのことで終われば特に問題はなかっただろう。隣にいるモンスターを倒せば済む話なのだから。
だがアイリの出現した場所は、最悪の位置だったのだ。
「シト様! わたしは大丈……」
カチリ。
「ぶ!? きゃああぁああぁあぁあぁぁあああーーーーっ!」
「アイリ!!」
アイリの出現した場所の足元に、なんと地雷のトラップが埋め込まれてあったのだ。
偶然踏んでしまったのか? いや違う。その様子を見たウィッチが「フフフフ!」と嫌らしく笑っている――そう。自分の居場所とアイリの居場所を入れ替えたのは、足元にあるトラップを踏ませるためだったのだ。モンスターとは思えない狡猾さである。
「ファ、ファミリーシールド!」
服と体がボロボロになりながらもアイリはスキルを発動する。俺たちパーティの前に透明の盾が現れる。
アイリは地面に膝をつきながら、もう一度俺に向けて言う。
「わ、わたしは、大丈夫……! シト様はウィッチを倒して……!」
「バカ言うな! そんな状態でリッチと戦うつもりか!」
「……そうね、一旦退くべきだわ」
よろよろと立ち上がって、向こう側にある通路にむかって歩いていく。それでいい。自然回復でHPに余裕ができるまでは、モンスターから逃げるのが得策だ。
――と、まるでアイリがそう考えていることを見抜いたかのように、リッチがアイリを追いかけにいく。
「カララララッ!」
「!! ウ、ウソ……!? こいつ、はやい……!?」
「瞬速モンスターだと!?」
それはかつて戦ったリュコスと同等の速さだった。リッチはものすごい速さでアイリに迫っていく。
そして――
「カララァァアーーッ!」
ズバシャ!
「きゃあぁああぁぁあぁ!!」
「アイリ!!」
「アイリさんっ!!」
手に持っている鎌でアイリの背中を切り裂いた。ビリッと衣装が破け、パックリ開いたミニスカートの間から純白の布に包まれた桃尻が露出してしまう。
アイリは尻を抑えて必死に這いずる――幸いファミリーシールドを張っていたおかげで力尽きることはなかった。
だが地雷のトラップでHPが削られ、そのうえ瞬速モンスターであるリッチを相手にしなければならない状況――大ピンチであることに代わりはない。
「俺が行くしかないか……!」
俺は、隣にいるウィッチを無視してアイリのもとに向かっていこうとした。
その刹那。
「シトさん! ウィッチを倒してください!」
「……!?」
メルナが叫んだのだ。
大声を出したメルナに俺は驚いたが、彼女の弁を傾聴する。
「今すぐウィッチを倒すことができれば、アイリさんを助けることができます! 私を信じてください!」
非常に切迫した物言いだった。この状況を打開する秘策があるのか? ――メルナのいうことを信じるのなら、一分一秒でも早くウィッチを倒すべきだ。
俺は右手に混沌の光を貯める。出し惜しみできる状況ではない。
一瞬で、決める。
「これでどうだァアア!!」
「フフッ!!?」
ズバッシャアアァアアアアァァアァアァ!!
「フフフゥウウゥゥーーッ!!」
漆黒の大剣ブレイブソードを振り上げるように斬る。
ズドドドドォオオオ! と洞窟の地面が、まるで彫刻刀に掘られるように抉れ上がる。体の中心を斬り上げられたウィッチは、ローブとその中身ごと縦に真っ二つになって爆発して消滅した。
俺は急いでメルナのほうを向く。
「倒したぞ!」
「ありがとうございます! これでアイリさんに――届きます!」
メルナはインベントリからミドルポーションを手にした。
「えいっ!」
それをアイリめがけて投げつけた。
ぽん! アイリの体にミドルポーションが当たると、アイリの全身が緑色の光に包まれる。体の傷や服の破れがなおっていく。アイリのステータスを見ると――尽きかけていたHPが回復しているではないか。
メルナは安心した声音で言う。
「アイテムは投げつけることでも効果を使えるんです! 直線上にウィッチがいたので届きませんでしたが……シトさんのおかげで当てることができました!」
「! ということは……」
アイリの全身が見るみるうちに治っておく。そうして不敵な笑みを浮かべて立ち上がり、手に持っているブロードソードを構えてリッチと対峙する。
「うふふ……好き放題やってくれたじゃない。覚悟はできてるんでしょうね!?」
「ガラガラァァアッ!?」
「とぉおりゃぁああぁっ!」
ズバアァアンッ!
「ガラガラァア! ガラ……ガラララララァアァアッ!」
ズバシャァアァッ!
「ぜっ……んぜん! 効かないわよぉおおおっ!」
ズバァアアアァアァ!!
「ガラァアアアァアアァアアアァァーーッ!!」
二回の攻撃の末、勝利を手にしたのはアイリだった。
アイリがブイッとピースを向ける。
「なんとかなったー! 今のは本当に危なかったわ! 二人共、ありがとう!」
「陣形を組んでいたよかったですね……! シトさんが間にいなければウィッチが邪魔で回復させられませんでしたよ……」
「フン。俺はモンスターを倒したかったに過ぎない。結果的にアイリが助かっただけだ」
「そんな!? ということはシト様のなにげない行動でわたしは助かったわけだから……やっぱりわたしたちって運命で結ばれてるのねっ! きゃぁぁーーっ!」
「……やれやれ」
なにはともあれ陣形を組んでいたことが功を奏した。役割を決めたプレイが活きた形だった。
俺は言う。
「さっさと行くぞ、お前たち」
「ええっ!」
「はいっ!」
そうしてこの階にあるアイテム(ミドルポーション、バックラー、40カラットの宝石)を回収して、次の階に進んでいった。
次回の更新は2/18の午後7時です。