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Dungeon Brave'S(ダンジョンブレイブズ)  作者: 北田啓悟
復活の希望「カース山脈」
13/23

013 一度きりの超絶経験値③【5F】

【5F】


 5階にやってきた俺たちは、真っ先にマップを確認する。

 □マークが十個ほど散らばっている部屋があった。メルナがアイテムをドロップした場所は、あそこに違いない。


「メルナがアイテムロストしたのは……この隣の部屋か。急いで向かうとしよう」


 俺はマップを見ながら隣の部屋に通じる通路に向かおうとする。

 だがその瞬間、メルナが大声を上げた。


「待ってくださいシトさん! 目の前にモンスターが!」


「!」


「グゥォオオオオオォオオオ!!」


 マップに気を取られて前方がおろそかになっていた。顔を上げて前を見ると、二メートル先あたりに一体のゴブリンがいた。

 俺は鼻を鳴らす。


「なんだ、ゴブリンじゃないか。このレベルなら一撃で倒せるぞ」


 現在のレベルは7である。俺は意気揚々とゴブリンに近づいていった。

 だがメルナは、先ほどよりもさらに大きな声で俺に言う。


「違うんです! そのゴブリンはただのゴブリンじゃないんです!」


「なに?」


「私はそのゴブリンに倒されたんです! 一発で20以上のダメージを食らわせてきたんです!」


「――!?」


「グオォオオオオォオオオオオ!!」


 メルナの言葉に、俺は意識が集中された。

 一発で20以上だと。バカな、俺のHPは39だぞ。二発食らったら力尽きるじゃないか。

 どういうことだ。アバン洞窟にいたゴブリンはそんなに強くなかったはずだ――しかし確かに、目の前にいるゴブリンは今までのと体色が違う。アバン洞窟で見かけたゴブリンが緑色だったの対し、目の前のゴブリンは青色だ。

 さらによく見てみると、そいつの名前はゴブリンではなかった。『スーパーゴブリン』と表示されていたのだ。


「ランクアップモンスターだわ!」


 後ろのアイリがそう言った。


「モンスターの名前に『スーパー』とついているものはスーパーランクというランクアップモンスターよ! ノーマルランクの時とは比べものにならないほど強くなっているの!」


「ダ、ダメです! あの距離じゃもう避けることが……!」


「シト様ぁぁぁぁーーっ!」


 アイリとメルナは叫んだ。俺は目の前に全意識を集中する。


「グォオオオオォォオオオオーーーーッ!!」


 スーパーゴブリンが棍棒を振りかぶった。迂闊に近寄ったせいで、攻撃を避けるのはもう不可能だ。食らったら一発でゴッソリと持って行かれてしまう。

 ならば――


「出し惜しみせず、いく!」


 右手に混沌の光を貯める。光が剣を形作るのと同時に、右肩をできるだけ内側に構える。

 そしてスーパーゴブリンが棍棒を振り下ろしてくる一瞬前に――


「はぁあぁあぁああっ!!」


 ズバッシャァァアァアァ!!


「グアァアアァァアァアァァアァアーー!!」


 漆黒の大剣ブレイブソードをなぎ払った。

 攻撃はスーパーゴブリンの腹に見事命中する。腹をかっさばかれたスーパーゴブリンは大声をあげながら崩れた。

 バキバキバキバキ! 後ろにあった木々まで剣裁きの勢いでなぎ倒れ、無数の葉っぱが舞い落ちる。ひときわ大きな木が倒れて轟音が鳴り渡るとともに、スーパーゴブリンは爆発して消滅した

 腕輪のステータスからレベルアップのファンファーレが鳴る。強力なモンスターはやはり経験値が多いのだろう、レベル8にアップした。


「フン……やれやれ」


 右手からブレイブソードが消えると、俺は一息つく。


「シト様っ!」


「シトさん!」


 アイリとメルナが俺のもとにやってきた。

 俺は肩をすくめ、腕を広げながら言う。


「使うつもりはなかったんだがな」


「ううん、あそこは使うしかない場面だったと思う。ダンジョンではいっときの出し惜しみが死につながるもの。シト様の判断は正しかったわ!」


「そうですよ。私の力ではスーパーゴブリンは倒せませんでしたから……シトさんがいてくれてよかったです……!」


 フォローを入れてくるふたりに俺はため息をつき、それから言った。


「だが今のモンスターは本当に危なかった。あんな強力なモンスターがこの階層でうろうろしているのか……」


「明らかにダンジョンのバランスがおかしい気がするのだけれど……シト様がいるからよかったものの、あんなのふつうに立ち回っていては絶対に倒せないわ」


「あ、その……皆さん……!」


「ん?」


「えっと……実はさっきのスーパーゴブリン、もともとはふつうのゴブリンだったんです」


「どういうこと?」


「わ、私にもよくわからないんですが……ゴブリンにですね、なにか不思議なモンスターが取り憑いたところを見たんです。人魂のような見た目のモンスターが取り憑いて、それでスーパーゴブリンへとランクが上がったんです」


「モンスターのランクを上げるモンスターがいる……ということか?」


「た、たぶん!」


 そうか。だから一発で20以上のダメージを与えるなんていうパワーインフレを起こしたわけだな。となるとそのランクを上げるモンスターとやらの正体も掴みたいところだ。

 スーパーゴブリンを倒したことで隣の部屋へ行く道が確保できた。モンスターの考察もしたいが、まずはそちらを優先すべきだろう。

 俺は今度こそ隣の部屋へ行こうと通路を進んでいく。後ろのふたりも同様についてくる。


「お、あれがメルナのアイテムだな」


 ようやく隣の部屋に出ると、そこにはたくさんのアイテムが散らばっていた。メルナがロストしたアイテム群だ。

 今すぐにでも取りに行きたいところだったが、俺は足を止める。

 その理由は、目の前にいる二体のモンスターだ。


「今度は新しいモンスターか……!」


「ファファファファファ……!」


「ファファァァ……ファファファ!」


 そこにいたのは、顔の形にくり抜いたカボチャを頭にかぶった幽霊のモンスターだった。『ランタン』という名前であり、それが二体部屋にいた。

 念のため、俺はメルナに問う。


「メルナ。さっき言っていたモンスターに取り憑いたモンスターとは、あいつのことではないよな?」


「は、はい! もっと、こう……人魂みたいな見た目でした」


「だったらあいつが他のモンスターに取り憑くおそれはないわけだ」


 スキルは一度使ってしまうとしばらくの間使えない。今再びランクアップモンスターと出会ってしまったら、俺たちに対抗手段はないからな。慎重にモンスターを観察しなければ。

 俺はアイリに目を合わせる。


「アイリ、右は任せた。俺は左のやつを倒す」


「わかったわ!」


 俺とアイリは部屋の中央を陣取っている二体のランタンに突っ込んでいく。


「でやあぁあぁあぁっ!」


「たああぁぁあぁっ!」


 俺は正拳突きで、アイリはブロードソードで攻撃し――


「「ファアァアァアァァァーーーー!」」


 二体のランタンを呆気なく倒した。

 アイリがくるりと振り返り、俺の方を向く。


「大したことなかったわね!」


「フッ、俺たちが強くなりすぎたようだな」


 俺たち三人は、散らばっているアイテム群の方へと歩く。


「よし、これでようやくアイテムを回収できるぞ」


「よかった……無事に回収できて本当によかったです! あの……お礼といってはなんですが、お二人にアイテムをお渡ししますね。私一人ではきっと戻ってこられませんでしたから……」


「ほう、それは助かる。なら俺は剣を所望しよう」


「わたしは盾がいいわ。余ってたらでいいからね」


「ええと、すこし待っていてください。今回収しますから……」


 メルナがアイテムを回収していく。

 その時間を利用して、俺はふとマップを確認した。ホールの場所はどこかを今のうちに見ておくといいと思ったからだ。

 だが俺はマップを見た瞬間、驚くべき事態を発見した。


「! なっ!?」


 急いで俺は振り返った。

 そこには、二体のモンスターがいた。さっきランタンを倒したばかりだというのに、俺たちのいるこの部屋に新たにモンスターが出現していたのだ。


「ふたりとも! 後ろにモンスターが二体いるぞ!」


「! ウソ、いつの間に!? 通路のほうはちゃんと見張っていたのに!?」


 出現していた二体のモンスターの名前は『ウィスプ』。火の玉のような姿だ。そう、先ほどメルナが言っていた人魂のような……という比喩がぴったり当てはまるモンスターだったのだ。

 メルナが叫ぶ。


「は! あのモンスターです! あのウィスプが取り憑いて、ゴブリンがランクアップしたんです!」


「! まさかさっきランタンを倒したからあいつが出てきたのか!?」


「……なるほど! 確かに弱すぎると思ったのよ! くっ、迂闊に倒してはいけないモンスターだったのね!」


 そうか。ランタンは、このウィスプを体内に宿した母体だったのだ。さっき俺たちは二体のランタンを倒してしまった、だから二体のウィスプが出現したというわけだ。

 二体のウィスプは通路の方へと浮遊していく――まずい、俺たちから逃げるつもりだ。あいつを逃がしたらまた他のモンスターに取り憑いてランクアップしてしまう。

 それだけは阻止しなければ……!


「ウルトラランクのモンスターになったら太刀打ちできないわ! とり憑く前に絶対倒さなきゃ!」


「!! くっ、別のモンスターが部屋にやってきた!!」


 最悪のタイミングだ。ウィスプが逃げていった方向から、別のモンスターがやってきたのだ。


「ヒュヒュヒュ……」


「ヒュゥゥ……」


 ウィスプたちはこれ幸いと言わんばかりにそのモンスターに向かっていく――ダメだ。間に合わない。俺たちとウィスプの移動速度は同じなのだ。間に合うわけがない。

 そして二体のウィスプは、そのモンスターに一気にとり憑いた。


「アァアァ? ……アアアァァアアァァ!!」


 とり憑かれたモンスターはスーパーランクになり、瞬く間にウルトラランクとなった。

 ウルトラの名を冠したそのモンスターは――


「ま、待ってください! よく見てみるとあのモンスターは……!」


「! 本当だわ! あのモンスターは……!」


「――ミイラじゃないか……!?」


「アアァアアァァアァァーー!!」


 ウルトラミイラの誕生だった。

 俺たちは一瞬立ち止まった。それから顔を見合わせて小考する。


「こ、これってどういうことになるんですか……? ミイラは確か、宝石を奪うだけのモンスターでしたよね……」


「宝石を奪えない人相手には攻撃してこなかったわ……ランクが上がってもその特性は変わらないはず……」


「俺はエンブレムシールドを持っているから宝石を奪われる心配もない……ということは……?」


 三人の思考が、ひとつの答えに終着した。


「「ウルトラミイラを、無傷で倒せる」」


「アアァァアアァ?」


 ぽかんとしているウルトラミイラを前に、俺たちはにんまりとほくそ笑んだ。

 アイリとメルナは後ろに下がり、エンブレムシールドを持っている俺がウルトラミイラに近づいていく。


「シト様! やっちゃって!」


「シトさん! 頑張ってください!」


「ああ」


 俺はウルトラミイラの目の前にまで勇んで歩いた。


「アアァァアァァ……アアァアァァア……」


「ふむ。やはり俺からは宝石が奪えないようだな――容赦なくいかせてもらうぞ」


 物欲しげな佇まいで見つめてくるウルトラミイラに向けて、俺は両手の拳を構えた。

 そしてダンジョンの厳しさを、ふたつの拳で叩き込む。


「オラオラオラァァ! 吐き出しやがれッ、経験値ィイイイィイイイイイィイイイ!!」


「アァアアァァアアァアアァァアァアァアァァアーーーーっ!!」


 ボゴボゴボゴボゴボゴォォオオオオォオオオ!!

 抵抗しないウルトラミイラを相手に、俺はラッシュを叩き込む。

 断末魔が涙声に聞こえたのはきっと気のせいだろう――ウルトラミイラはやがて力尽きて、大量の経験値を吐き出して爆発四散した。

 ステータスからファンファーレが鳴る。


「ウルトラミイラ、討伐!」


「すごい! レベルが一気に3上がったわ! レベル11よ!」


「先を行っているティズさんもきっと驚いてますよ!」


 個性的な敵モンスターが多くて厄介かと思われていたが、上手くいけば経験値稼ぎに利用できたりもする。

 テクニカルに状況を打破できた快感に、俺は笑みを浮かべた。


「フッ……やはりダンジョンは、楽しいな!」


 難関ダンジョンということも忘れて、心の底から楽しいと思った俺だった。

 ――それから俺たち三人は、ホールのある部屋にやってきた。

 俺とアイリの前に立って、メルナは言う。


「シトさん、アイリさん。その……今から前線に戻るのは難しいと思いますし、ティズさんならきっと無事に進んでいけると思いますから、えっと……わ、私も……ご一緒してもよろしいでしょうか……?」


「ああ、構わない」


「もちろんだわ! でも、シト様を取っちゃダメよ?」


「だ、大丈夫です! えへへ……やっぱり私は団体行動する方が気が楽ですね……。あ、そうだ。お二人にアイテムをお渡しするんでした!」


 メルナは手をぽうっと光らせて、アイテムを出現させた。

 両手にそれぞれ別なアイテムを持って、俺たちに差し出す。


「まずアイリさんです。アイリさんは盾が欲しいんでしたよね? アスピスを差し上げます」


『アスピス

 DEF:7

 EFF:なし』


「あら、こんないいもの貰っていいのかしら? メルナがいま装備してるバックラーでもわたしはいいのだけれど」


「いえ! 私は後衛がいいので、いい装備はアイリさんに渡したほうがいいかと……!」


「ふむ、それもそうね。ありがたくいただくとするわ」


 アイリは『アスピス』という鉄製の盾を装備した。ブロードソードと合わせると、攻撃力6に防御力7。これでアイリの装備はかなり充実した。

 続いてメルナは、俺に向けて剣を差し出した。


「そしてシトさんには……バルムンクを差し上げます!」


『バルムンク

 ATK:7

 EFF:ドラゴン系モンスターに大ダメージを与える。』


「ほう、これは強力な剣だな。攻撃力7となるとアイリの剣よりも強いじゃないか。こんないい武器をもらってもいいのか?」


「はい、ぜひもらってください! 私には手に余るものですから……」


「そうか。なら遠慮なく」


 俺はバルムンクを右手で持った。今まで素手で行動していたが、これでようやく装備も整った。

 俺はホールの方を見向いて、ふたりとともに歩む。


「さあ行くぞ、ふたりとも」


「はーい、シト様っ♥」


「は、はい……シトさん……♥」


 俺たち3人は、ホールに入った。

次回の更新は2/14の午後7時です。

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