012 一度きりの超絶経験値②【4F】
【4F】
ホールを出て俺たちは、即座にふたつのアイテムを発見した。キラリと光る小さな石ころが二つも落ちている。
俺とアイリは、そのキラリと光るアイテムに近づいて行く。
「ん? これは宝石か?」
『32カラットの宝石を拾った!』
俺は落ちている宝石を拾った。
アイリも同様に宝石を拾ったらしく、そちらのカラット数は24だ。
「シト様。これは宝石よ。ダンジョン内で使える通貨と考えてくれていいわ」
「通貨? どうして通貨なんか落ちているんだ? ダンジョンでお金を払う場面が出てくるのか?」
「ええ。ダンジョンにはたまにお店が出現することがあるの」
「店……!?」
「そこらへんのことはまた追い追い話すわ。とにかく宝石は持っておいた方がいいものだと覚えておいて」
「わかった」
ダンジョンにお店が出てくるとはどういうことだろうか……非常に気になるところだったが、とりあえず俺は宝石をインベントリに仕舞った。今はメルナのアイテム回収が最優先である。
そうして俺がマップを見て三個目のアイテムとホールの場所を確認していると、メルナが震えた声を上げた。
「み、みなさん……! モンスターがやってきました……!」
「「!」」
俺とアイリは、メルナが指をさす方向に目を移す。
そこにいたのは、初めて見るモンスターだ。全身に包帯をぐるぐると巻いた人型のモンスターである。
名前は『ミイラ』だ。
「ミイラ……アバン洞窟にはいなかったモンスターか」
「シト様気をつけて! 何をやってくるかわからないわ! 初見のモンスターには最大限の注意が必要よ!」
「フン、言われるまでもない!」
立ち位置的に、俺が最もミイラに近い。左腕に装備している『エンブレムシールド』を構えて、ミイラの攻撃に備える。
「アァアァァ……アアアァアァ……」
ミイラは不気味なうめき声をあげながら近づいてくる。
そうしてお互いの攻撃が届く範囲にまで近づいたら、俺は先制攻撃を仕掛けた。
「喰らえぇぇえっ!!」
「アアァァ……!」
右手で正拳突きを食らわせた。ミイラはややノックバックしたものの、一撃で倒れることはなく俺を睨みつけてくる。
「来るか……!」
俺は盾を構えて、ミイラの攻撃に備えた。しかし、
「…………?」
「アァアァ……アァアァァァ……」
「……なんだ?」
ミイラは一向に攻撃してこない。俺の方を見つめ続けて、うめき声を上げるばかりだ。
俺は首をかしげる。
「攻撃してこないのか?」
「ふむ……もしかしたら害のないモンスターなのかしら」
「害のないモンスター? そんなモンスターがいるのか?」
「わからないわ。わたしにも見当がつかない。でも何もしてこないのを見ると、わたしたちに敵愾心はないはず……」
アイリは警戒心を解いて、ミイラに近づいていった。
だがアイリがミイラの攻撃範囲に近づいた瞬間、
「アアァァアアァァ……!!」
「!?」
それまで大人しかったミイラが豹変した。さっきまで攻撃する素振りさえ見せなかったのに、アイリが近づいてきた瞬間、包帯に包まれた右手で襲いかかっていった。
完全に油断していたアイリは、ミイラの先制攻撃を許してしまう。
「く……っ!? 何をする気!?」
「アァァ!」
「!!?」
バッと伸ばしてきた手は、アイリのスカートの中に入った。
ミイラはその中でゴソゴソと手をまさぐり出す。
「きゃあぁっ!? あなた、何してるのよぉ!!」
顔を赤くして抵抗するアイリをものともせず、ミイラはスカートの中を弄ぶ。
「アァァァアァーー!」
「!? ……ほ、宝石が!」
しばし弄んだ後、アイリの衣服型インベントリであるスカートの中から、ミイラは宝石を奪った。先ほど拾った24カラットの宝石を、嬉しそうなうめき声をあげつつ手にしたのだ。
そうして宝石を奪ったミイラは、
「アァァアァァ~~っ!」
ダバダバと、今までの緩慢な動作からは想像もつかないほど大急ぎでダッシュしていって、俺たちの前から姿を消した。
呆気にとられて三人とも口を開けてぽかんとする。が、一連の動作を見て、俺はようやくミイラの特性を理解した。
「そうか、理解した。ミイラは宝石を奪うモンスターだ。だから攻撃してこなかったんだな」
「宝石を奪うモンスター……そんなのもいるのね! メルナは知っていたのかしら?」
「ふぇ!? い、いえ、知らなかったです……私も先回りしていたのでミイラとは出会っていたのですが、そのときは宝石を持っていなかったからか何もしてこなくて……」
「なるほど、宝石を持っていない人にとっては無害なモンスターというわけね」
「? だったらどうしてミイラは俺の宝石を取らなかったんだ……はっ!」
左腕に装備している『エンブレムシールド』を見て思い至った。
「そうか……このエンブレムシールドのおかげか。これを装備しているから、ミイラは俺の宝石を奪うことはできなかったんだな」
エンブレムシールドの効果は、持っているアイテムが奪われないようになるというものだ。この効果によって、俺は宝石を持っているのにミイラに狙われなかったのだ。
「そういうことだったのね! さすがシト様、頭の回転が速い!」
「感心している場合じゃない。逃げたミイラを追いかけにいくぞ!」
「そ、そうです……! きっとまだこの近くにいるはずです……!」
俺たちはマップを見ながら隣の部屋に行った。三つ目の自然湧きのアイテムがある部屋だったので来てみたが、幸運なことに先ほど逃げたであろうミイラがそこにいた。
「アァ……アァァ……」
「見つけたわ! こら、返しなさい!」
シャキィィン!
アイリはブロードソードを振ってミイラを攻撃した。
「アアァァアァァっ!」
事前に俺が一撃食らわせていたことも響いたのだろう、アイリの攻撃でミイラは倒れた。
奪われた24カラットの宝石も、無事にドロップしていった。
「ふぅ、なんとか取り返すことができたわね」
アイリは宝石を拾った。
俺がその姿を眺めていると、隣にいたメルナも部屋内に落ちているアイテムを拾いに行っていた。落ちていたアイテムは、またしても宝石だった。
「シ、シトさん……! 私も、宝石を拾いました!」
「おお、よかったな」
「3カラットの宝石です!」
「小さいな!?」
豆粒のような宝石をメルナは拾い、それから俺たちはホールを探して次の階に進んでいった。
次回の更新は2/12の午後7時です。