禁術師ゼルビィ
洞窟は道が複数に別れ、一度入った人間は二度と出れない迷路のようだった。
ルドンは時折こちらを見ながら前に進んだ。
「ねえヴェル君…ちょっと話さない?」
洞窟に入り数分後ルドンが止まりこちらを向いた。
「何だ…」
「君はこの世界の能力者について何処まで知ってる?」
「この世界に生まれた人間は何かしらの能力を持って生まれる、私が知ってるいるのはそのぐらいだ。」
「うん、そうだね。だけど生まれもった能力だけじゃなくて能力は覚える事が可能なんだ。」
ルドンが指を鳴らすと突然目の前にマカロが現れた。
驚いている私をルドンは馬鹿にするように笑った。
「違うよ、これは幻だ。僕の第二の能力は幻を作る能力だ。」
ルドンが手を叩くとマカロの幻は消えた。
「ヴェル君…君には第二の能力を持って欲しい。だけど第二の能力を身につけるには」
「…遅いぞ、ルドン貴様は下がれ。」
暗闇から老人が現れる。老人の顔は骸骨に薄皮を貼り付けたような顔で死人のようだった。
ルドンは老人の姿を見ると私の肩を叩き、頑張ってね…そう言い残し消えた、一瞬だがルドンの目が優しく見えたのは気のせいだろうか。
老人に連れられ来た場所は壁に血の跡が残った不気味な空間だった。
「ここは…」
「おいヴェル…そこに寝ろ。」
老人の指差した場所には大きな台がある、私は老人に言われた通り台の上で横たわった。
寝ている横で老人はあちこち走り周りハンマーやナイフ等の武器を集めていた。
「儂の名はゼルビィ、禁術師をやっている。ヴェル…いい体だ、これなら耐えれるだろう。」
ゼルビィがぼっそりと呟く。
「ゼルビィ…何をする気だ。」
「貴様に第二の能力を身に付けて貰うため、今から貴様の心臓に代償のタトゥーを入れる。」
「代償のタトゥー?」
ゼルビィは動きを止め話し始めた。
「本来第二の能力を身につけるには数年かかる、それでは1年後に起こる戦争に間に合わん。だが死んだ能力者の血液と墨を混ぜ心臓にタトゥーを入れれば、タトゥーを入れた者はすぐ死んだ能力者の力を得る事が出来る。」
「…なるほど、だがタトゥーを入れても無駄だぞ。一回見世物でタトゥーを入れられたが数日で消えてしまった。」
何か可笑しかったのかゼルビィは不気味に笑う。
「これはそんな優しいもんじゃない、一種の呪いだ。このタトゥーは貴様が死ぬまで消えん…」
ゼルビィはそう言い手に持った鎖を地面に置き何かを呟き出した。
すると鎖からどす黒い影が現れる、影はねっとりと老人の右腕に取り憑いた。
「もう時間がない…急がねば。」
ゼルビィの右腕から長い黒針が飛び出す、その針を手にとりゼルビィは笑った。
「さて…始めるか…」
ゼルビィの針が私の頭に触れた瞬間、針の触れた所から黒い影が広がった。
黒い影は虫のように這い回り私の体を侵した。
痛みは感じない、だが頭の中に悪魔のような囁きと真っ黒な邪悪が入ってくるのを感じた。
「ほう…普通の人間ならばここで発狂するというのに…ヴェル貴様の心は中々強いな…だがここからが地獄だ。行くぞ…」
ゼルビィはナイフで丁寧に胸を裂く、そして邪魔な内臓と肋骨をハンマーで砕き心臓を露わにした。
再生の力のおかげかあまり痛みは感じなかった。
「さて彫るぞ…」
針が心臓に触れた瞬間、身体中に激痛が走る。
全身の筋肉と骨の間に熱せられた鉄杭をぶち込まれたようなそんな痛み、あまりの痛さに体を動かすことさえ出来ない。
しばらくしてゼルビィの持つ針が音を立て壊れた、だがゼルビィの腕からまた黒い針が飛び出した。
「今度はもっと痛いぞ…我慢しろよ。」
再び針が心臓に触れる、あまりの激痛に私は意識を失った。