不安
薄暗い洞窟の中で人形のように虚ろな老人の目は地獄を映していた。
黒い炎に身を焼かれている男が泣きながら助けてと老人にしがみつく、だが老人はその手を足蹴りし男に唾を吐いた。男は呪いのような呻き声を上げやがて動かなくなった。
失敗か…老人は小さくそう呟き、左手に持った長い針を壁に叩きつけた。
「まーた失敗ですか? いい加減成功してくれないと困りますよ。」
「その間の抜けた声…ルドンか? お前がいい素材を寄越さないからだろう。この程度の能力者など腐る程いる。」
老人は真っ黒になった男の死体を蹴ると、死体はパラパラと音を立て散りになった。
「はーいはいはい。分かりましたよ、今度連れて来る子は絶対大丈夫です。死なない子ですから。」
「ほう…それは楽しみだ。そいつはどんな能力を持っているんだ?」
「驚かないでくださいね、能力はあの再生です。」
再生と聞いた瞬間、老人の体に電流が走ったかの様に震えた。
「再生か… いいぞ! いいぞ! 最高の素材じゃないか! これでやっと私も解放される… 」
老人の不気味な笑い声が洞窟中に響き渡る、虚だった老人の目は光を取り戻し不気味な明かりを宿していた。
「見えたぞー、俺たちの帰る場所。」
ハチが指を指している場所には巨大な城があった。
ハチと一緒に魔道馬に乗り、雲を突き抜ける前に地上を見た時、この場所にあったのは小さな城だった。
だが今私が見ている城はその2倍程大きかった。
「私がいた場所はあんなに大きかったか…? 」
「あぁヴェルは知らなかったよな。夜になって帰ってくる訓練兵を城に入れる為に能力で城を大きくしてるんだよ。さてここら辺かな… 」
巨大な鳥は降下し始める。
着地した場所は魔道馬によって壁が壊されたハチの部屋の前だった。
地面に降りてハチの部屋に入ると、一番会いたくない奴が待っていた。
「おかえりー待っていたよ。」
「ルドン様⁉︎何故私の部屋に?」
ハチが床に跪き頭を下げた。
「ハチ君頭を上げて。それよりヴェル君、後ろにいる子は誰だい?」
ルドンは後ろに隠れて震えているマカロを見ると厭らしく笑った。
「分かっているんだろうルドン。」
「うん、マカロちゃんだね。凄く綺麗だ、よろしくね〜」
私はマカロに触れようとする薄汚いルドンの手を払いのけた。
「ルドン…」
「怖いなあ、そんな顔をしないでくれよ。君が望む環境にしてあげるから。」
「…どういう事だ。」
「マカロちゃんはここにいて良いよ、それにここにいる兵士にはマカロちゃんには触れさせない様に命令を出しておくから。どういいでしょ?」
何か裏がある、そう感じた。
「分かった、…でお前は何を企んでいるんだ?」
「話が早くて助かるよ、ちょっと連れて行きたい場所があるんだ、外へ行こう。あっハチ君、上に空き部屋があるからそこにマカロちゃんを案内して。」
「へっ…分かりました。」
マカロはしがみついて離れない。一緒に行きたいと言ったが危険が及ぶかもしれないのでマカロをどうにか説得し私はルドンと一緒に外へ出た。
私とルドンは何も喋らず歩き、10分程してぽっかりと大きな穴の空いた洞窟に着いた。
「ここに君に会ってほしい人がいてね。」
「誰だ?」
禁術師さ、ルドンはそう言うとニヤリと笑った。