マカロと共に
「私の家族にあったんだ。レムという女性で私が攫われる前に一緒に暮らしていたらしい。それと…」
私はマカロに軍に入った事は話さず、これまでに起きた事を話した。
マカロは笑いながら夢中になって話を聞いてくれた。
「色々あったんだなヴェル、でもお前が無事で良かった。」
「何言っているんだ。当たり前だろ、私は死なないからね。」
「ふふそうだな。ヴェル…私はお前が居ればいい。これからはずっと側にいたい」
そっとマカロの手が触れる、マカロの笑顔を見て心が痛んだ。
誰にも邪魔されずマカロと一緒に暮らしたい、金や食料は何とかなる、住む場所もあの小屋以外ならどこでもいい、だが軍に入るという約束を破ればあの厭らしい男はマカロに何かするだろう、それが一番不安だ。
「ヴェル…お前何か隠し事があるんだろう?」
「ないぞ!私はお前に何も… 」
「嘘だな、お前は隠し事があると左手で口を抑えるからな。言ってくれ、お前に隠し事されるのは辛い。」
マカロはこちらを真剣な目で見ている。
こうなったマカロに何か言って誤魔化そうとしても無駄だ。
「…すまない、私はこの国の軍に入る事になった。だから一緒に暮らす事は出来ない…かもしれない。だが安心しろ軍の偉い奴がお前を保護すると言っていた、お前はここで安全に暮らしてくれ。」
「…駄目だ。そうだ私もお前と一緒に軍に入る!それなら一緒にいられるじゃないか。」
「それは駄目だマカロ! 軍に入れば傷つくかもしれない。私はお前の傷つくとこなんて見たくない… 」
さっきまでの幸せな時間は消え、お互い何も喋らず重苦しい空気が流れた。
マカロが右の親指をいじっている、この仕草はかなり苛ついてる時に見せるものだ。
「マカロ…」
「分かっている。お前の事もお前が何故軍に入る事になったのかも大体予想がつく。だけど嫌なんだ!お前と離れるのが!」
マカロが胸に飛び込んできた。
涙がポタポタと落ちる。
「この2日お前の顔を見なくて私は死にそうになった!ここが安全だろうがそんなの関係ない!ヴェルがいなきゃ…私は」
そう言ってマカロは泣き始めた。
今触れるとマカロが消え去ってしまう気がした。
(何をしているんだ、マカロを守るために軍に入ったんじゃないのか… マカロを泣かせるためじゃない。私がやりたい事はただ一つ、世界で一番大切なこの家族と一緒に暮らし守る事だ、なら私は…)
心臓の鼓動が早くなる、自分の心に渦巻いてる不安や恐怖を殺しマカロの手を握った。
「マカロ聞いてくれ… 私はお前が傷つくのが怖いし嫌だ。だからお前だけは平和に暮らして欲しいと思っている。」
マカロは何も喋らない。
心の中が熱く騒ついてくる、自分の本当の思いを願いを全てぶつけた。
「だけどやっぱり駄目だ。私もお前がいなきゃ駄目なんだ。お前は私が必ず守る、だからお前は私と一緒に来てずっと私の側にいてくれ。戦争になったらお前に危険がおよぶかもしれない、だけどこの身を盾にしてお前を守ればいいだけだ。何があってもお前を守る。だから…来てくれマカロ! 」
そこからは何も言葉が出て来なかった。
傷つけてしまう、本当に守れるのか? だんだんそんな考えが重なっていき、弱い自分が情けなくなった。
マカロは私の顔を見ている、怒っているようにも見えるし笑っているようにも見えた。
「…お前はいつも私を守ってくれた。だけど守られてばかりはもう嫌だ。これからは私もお前を守る、お前の傷は私の傷だ。ヴェル…好きだ。」
ありがとう、そう言いマカロの唇がそっと頬に触れた。
マカロを抱き締める。この温もりは決して離さない死んでも守る、そう心に誓った。
「本当にいいのか? 」
「あぁもう治っているからな。」
病院を出てマカロは左腕に巻かれた包帯を捨てた、まだ赤く腫れていたがマカロは平気だと笑った。
「おーいヴェル!悪いがそろそろ戻らなきゃいけない。マカロって人に会えたのかって誰だその美人!」
ゼーゼーと息を切らしながらハチがこちらに走って来た。マカロは不安な目でこちらを見たが、さっき話したハチだと伝えると安心した表情になった。
「初めまして、私の名はハチャラカ。ヴェル君の…」
口調を変えウンタラカンタラある事ない事を喋るハチが少し可笑しかった、マカロも面白いのか、笑っている。
「悪い悪いつい話し過ぎちまったぜ、急いで帰らないといけないのに。」
「何かあったのか? 」
「ヴェルがいないって今レムが大騒ぎしてるらしい、だからあそこに早く帰んねえと… 」
「そうか…、なあマカロも一緒に連れて行ってもいいか?」
ハチは目を丸くして驚いた。
「いいがマカロは保護を受けるって連絡があったからここで暮らすんじゃないのか? 」
「いや、私はヴェルと共に行く。ヴェルがいない場所なんて私にとって地獄だ。」
ハチが少しニヤニヤとしている、何か可笑しいのだろうか?
「ふふ分かったよ、とりあえずマカロも連れて行くぜ。さて三人なら馬じゃ駄目だな…よしならこいつだ!」
ハチが口笛を吹くと、空から巨大な鳥が現れた。
私の3倍近くもある巨大な鳥が地面に降りると周りの建物が少し揺れた。
「こいつは巨獣種ていう珍しい動物だ、今回はこいつに乗って帰るぜ。さあ早く乗った乗った!」
ハチに急かされ鳥の背中にしがみつく。鳥の背中の毛の先端は大きな輪っかになっていて、それに手足をかける仕組みだった。
「慣れりゃけっこう楽だ、じゃあ帰るか!」
周りの建物のガラスを全て割って鳥は大きく羽ばたいた。
悲鳴をあげるマカロを右手で抱いて側に寄せた。
「大丈夫だマカロ。」
「あっありがとう。なぁヴェル、これからもずっと一緒だ!よろしくな」
マカロはそう言うとニッコリと笑った、それは今まで見た中で一番綺麗だった。