新しい出会いと再会
目を覚ますと毛布が掛けられていた、どうやらレムの部屋でそのまま眠ってしまったらしい、辺りを見回してみたがレムの姿はなかった。
机の上に文字が記された紙がある、だが何が書いてあるのか分からなかった。
「困ったな…取り敢えずレムが来るまで待つ事にしよう」
だが長い時間待ってもレムは来ない、レムの部屋にあるものを適当に触りながら私は欠伸をした。
「外に…出てみるか…」
私はレムの部屋を去った。
レムの部屋がある階には大きな階段がある。階段からレムの部屋までは間隔を空けて扉が並んでいる。扉の向こうはレムの部屋と同じような空間があるのだろう。
少し開けて見たいと思った、そんな風に思った事は今まで無かったので可笑しくなり、笑ってしまった。
「ワン?」
階段まで行くと後ろから低い声が聞こえた、振り返ると青い毛の犬が真っ直ぐにこちらを見ている。
私はマカロが犬に変身した事を思い出した。
「犬か…マカロは犬になるのは嫌だと言ってたな。あいつに会いたい、早くレムを探してマカロに会いに行こう。」
歩き出した瞬間犬が私の足に噛み付いた。今まで何度も斬られてきた、この程度の傷は何ともなかった。
「可愛いな、お前…」
犬はまだ噛み付いている、私は可愛らしい犬の頭を撫でた。
だがその時犬の口から何かが肉を裂き体に入って来るのを感じた。
「凍らせろ!」
その声を合図に足が段々と凍り始めた。
見世物小屋にいた頃、少しの間チャッピーという犬を飼っていた。
チャッピーは魔道犬と呼ばれる魔法が使える犬で、炎の牙を持った犬だった。
「もしかしてこの犬もそうなのか…」
完全に凍った右の膝からつま先までを無理やりねじ切り、這いながら階段に向かった。
「逃がすな!」
犬に噛まれる寸前、何とか階段に辿り着き転げ落ちる事が出来た。
だが転げ落ちた先には金髪の男が槍を構え待っていた。
「見ない顔だな…敵国の兵か?ここに忍び混むなんざ相当な手練だな、名を名乗りやがれ!」
「…ヴェルだ。」
「ヴェル…?どっかで聞いた気が…?まさかヴェル⁉︎」
男は慌てて胸ポケットにあるシワくちゃの紙を取り出すと、私と紙を交互に見た。
「長い黒髪、金色の目、物凄く細い腕…あんた本当にヴェルなんだな」
「あぁそうだ」
青年は思いきり溜息をつき、土下座した。
「あぁぁすまねえ!やっちまった…どうしよう…ゆっ許してくれ。そうだ怪我はないか?えーとこんな時は…そうだ!」
青年は早口にそう言うと私をヒョイと持ち上げ慌ててどこかへ連れて行った。
着いた場所は青年の部屋だった。たくさんの本が散らばった汚い部屋だ。
青年は先程からゴリゴリと何かを削っている。
出来た…青年がそう言いこちらに甘い匂いのする茶色い粉を持ってきた。
「これは魔法の粉だ…これであんたの傷の治りが早くなるはずだ」
私にその粉を振り掛けると切り離した右膝からいきなり足が生えてきた。
「うお…すげえ!本当に再生の能力を持ってるんだな、」
「あぁ、それよ」
「悪かったよぉ、知らなかったんだよぉ。あんたがあの再生の能力を持つ人間だなんて、お願いだからこの事は黙っていてくれ」
青年は唇が触れてしまいそうなくらい顔を近づけてきた。
「分かったから離れろ…近い」
「本気で許してくれんのか?やったぜ、ありがとな」
青年の顔が離れ私はホッとした。
「見ない顔だから敵だと思って襲ったんだ…本当に悪かった。」
「構わないよ、ええと」
「俺の名前か?俺はハチャラカだ!変な名前だろ?仲間からはハチって呼ばれてるからハチって呼んでくれ」
ハチと握手を交わした。まだ出会って間もないがハチの笑顔は良いと感じた。
「なあヴェル?お前何してたんだ?」
「私はレムを探してたんだ、ペーラって所に行く約束をしていたんだが…」
「レムはいないぜ、隣国の化物がこっちに現れたからそれの討伐に向かったんだ。何か置き手紙みたいなのなかったか?」
「あったが…私は字が読めないんだ」
そうか…ハチはそう言うと突然立ち上がった。
「なら俺がペーラに連れてってやるぜ!」
「…いいのか?」
「当たり前だ!じゃあ早速行くぜ!」
ガシャンガシャンと金属がぶつかり合う音が聞こえたかと思うと、外から銀色の金属を纏った馬が壁をぶち抜き現れた。
「何だこれは…」
「こいつは魔道馬のスー!こいつに乗ればペーラまでひとっ飛びだ!さあ行こうぜ!」
よろけながらハチに手を引かれ一緒に馬に乗った。
ハチが手綱を持つと馬はゆっくりと宙に浮き始めた。
「ヴェル口閉じてな!」
ハチが馬を蹴ると馬は嘶き一気に上昇し雲を突き抜けた。
銀色の鎧を身に纏った馬は太陽に照らされ猛スピードで空を駆けた。
「さあて着いたここがペーラだぜ。」
私とハチはペーラの上空にいた。ペーラは砲台や砦に囲まれた要塞の様な都市だ。
「さっさと降りるぜ、撃ち落とされるからな」
ハチは馬に何かを囁き始めると馬はゆっくり地面に向かって歩き出した。
地面に降りると見張りらしき人間が走ってこちらに向かってきた。
「ハチャラカ!どうしたのですか?まさか奴らが攻めて来たのですか⁉︎」
「違う違う、ちょっと人に会いにな」
「ホッそうですか…あのこちらの方は?」
見張りらしき女は私を不思議そうに見ている。
「ヴェルだ。」
「ヴェルってあの幻の…会えるなんて光栄です!」
彼女は唇が触れてしまいそうなぐらい顔を近づけてきた。
「おいマチャラカ近すぎるぞ」
「はっすいません!」
「マチャラカって…もしかしてお前達兄弟なのか?」
ハチとマチャラカは同じ金髪で見た目もよく似ていた、マチャラカは少し幼い感じがした。
「そうだ!こいつは俺の妹だ、最近軍に入ったばかりなんだ!」
「はい!そうなんです!よろしくお願いします!ヴェルさん、私の事はマチとお呼びください!」
「あぁよろしくマチ…」
マチの笑顔はハチと同じで気持ちの良いものだった。
私はハチとマチに案内されペーラを歩いていた。
上空から見るとかなり物騒だが、こうして歩いて見ると私が以前いたあの街より安全で、人々の笑顔が優しい平和な都市だった。
「ここにマカロさんはいます。私が許可を取ってくるので待っていてください。」
マチにそう言われ、今私はマカロがいる病院の外で待っている。ハチは魔道馬を馬小屋に置いて来ると言い、ここにはいない。
もうすぐマカロに会える、その事ばかりを考え私はそわそわしていた。病院に入っていく人はそんな私を不審な目で見ていたが、気にならなかった。
「ヴェルさん!許可取れましたよ!案内します!」
いよいよだ!私は急いで病院に入った。
マカロがいるという部屋の前に着いた。
マチは気遣ってくれたのか病院の外にいますのでごゆっくりと言ってくれた。
私は大きく深呼吸をしてマカロがいる部屋に入った。
「…」
マカロは美しかった。髪は見世物小屋にいた頃は埃をかぶりボサボサだった。だが今は水の様に透明で夕陽によってキラキラと金色に光り輝いている。
顔はふっくらと膨らみ、暖かな優しさを放っていた。
「ヴェル…?」
「マカロ会いたかった!」
マカロを全身に感じるため力いっぱい抱き締める、マカロは苦しいぞ…と苦笑いをした。
「ふふヴェルだ…嘘じゃないんだな…、嬉しい今まで一番嬉しいぞ…」
「何泣いてるんだ…いや私もか…、マカロ…」
泣きながら時々笑いながら世界で一番大事な家族を抱き締めた。