焼滅の戦斧 赤月姫
「光だ…」
数時間掛けやっと洞窟を抜け出した、途中何度も迷ったが頭の中のゲルマが暴言を吐きながらもアドバイスしてくれたおかげで何とか脱出する事が出来た。
外は明るい、太陽が真上に上がっている。
(クソ餓鬼…良いこと教えてやる。)
洞窟を抜けて数分後ゲルマの声が頭に響いた。
「何だ…?」
(お前…狙われてるぜ)
そう言われ辺りを見回す、だが周りにあるのは枯木と小さな岩だけだ。
ゲルマが嘘を言ったのだろう、そう思い歩いた瞬間、背中を何かに引き裂かれた。
「何だこいつは…」
現れたのは人間になり損ねた形をした化物だった。
(クソ餓鬼…そいつはどっかの国が開発したボマって言う生体兵器だ。)
キリリリとボマは奇妙な鳴き声を発し口の形をした所から紫色の液体を噴き出した。
液体に触れるな!頭の中でゲルマの声が響く、近くにあった枯木を盾にしどうにか回避した。
液体に触れた枯木は燃え上がった。
(まあまあの判断だ、そうだな良いこと教えてやる。取り敢えず利き腕じゃない方の爪を一つ潰してみろ、やるかやらないかはお前次第だ。)
ゲルマの声は消えた。
化物は再びキリリリと鳴き始めた、盾になる物はもう無い。
一か八かゲルマに言われた通り左の親指の爪を潰した。
遠く離れた場所ーー
「ねえリール君見えるかい?」
ルドンは遠くで赤く光るものを見ながら欠伸をする、隣にいるリールは目を凝らし光りの中心を見つめた。
「あれは…あの武器は代償の能力ですね。」
「やっぱりね、あれをまた見れるなんて思わなかったよ〜嬉しいな。」
「…ルドン様、あの武器を見るためにあの兵器を使ったのですか?」
ルドンは不敵に笑う。
「違うよあの力を早く使いこなして貰うためさ、一日でも早くヴェル君には強くなって欲しいからね、国の為に。さて見るもの見たし僕は帰るよ〜、後の事はお願いね。」
ルドンは辺りに不穏な空気を残し去った。
赤い光を放つ三日月斧が突然目の前に現れた。
恐る恐る赤い三日月斧を手に取ると強く心臓が脈打ち刃が赤熱し始めた。
(クソ餓鬼!来るぞ…)
ボマがさっきより大量の液体を飛ばす、その液体は途中で燃え始め、火を纏った蛇の様になり襲いかかってきた。
「月を赤く染めし非情なる業火よ、我が身を侵し力を喰らい、眼前の敵を焼滅せよ。」
気がつくと口が勝手にそう動いていた。
三日月斧の刃が限界まで赤く赤熱し辺りの空気を揺らす、俺はその刃を思い切り振り降ろした。
刃から火を纏った巨大な女が現れ火の蛇と激突した、女は火の蛇を噛みちぎり叫び声を上げながらボマを焼き尽くした。
紅蓮の火の中で叫び声を上げる化物、やがてその叫びは段々と小さくなっていった。
「…何だこれは」
(それは赤月姫、敵を焼き殺す事に特化した
戦斧だ。)
赤月姫はやがて光を失い霧の様に消えてしまった。
赤月姫が消えた瞬間何か心の中にある感情が消えてしまう感じがした。
(いいか、代償の能力は心に負荷がかかる。自分を失いたくないならそれは覚えておけ)
「あぁありがとうゲルマ…」
(ふん…代償の能力はお前の中にいるあたしにも負荷がかかる、だから使うな…もう寝る…)
ゲルマの声は優しかった。
火は収まり周りは黒焦げの大地が残った。ボマの亡骸は散り一つ残っていない。
歩き出そうとしたが足が動かない、予想以上に体力を使ったようだ。
「ヴェル…」
後ろを振り向くとリールが立っていた。
「リール…何でお前がここに?」
「動けないお前を連れて帰るよう言われたのだ。」
「……そうか、これは試していたって訳か、あの男らしいな…うっ」
目が回り地面に倒れる、ギラギラと太陽が眩しい。
「ヴェル…よくやった。」
気を失う時リールがそう言った気がした。




