頭の中の住人
ヴェルは胸に痛みを感じ目を覚ました。
ヴェルの横には黒い影に侵されたゼルビィが何も喋らずただ静かに立っている。
「ゼルビィ…おいどうしたんだ。」
ヴェルの問い掛けにゼルビィは何も喋らない、両の目は別々の方向を向き涎を垂らしていた。
(クソ餓鬼…そいつに話かけても無駄だぜ)
突然頭の中で鳴り響く声にヴェルは戸惑った。
「その声…ゲルマさん?」
(あぁその通りだ、気に食わねぇ。)
「何故…」
(ふん禁術の事もこのジジィは教えてねえのか。どうだっていい、取り敢えず言える事はお前は死ぬまであたしの声を聞き続けなきゃいけないって事だ。あぁ面倒くせえ寝るわ。)
ゲルマの声は消えヴェルはどうすればいいのか困った、しかしその時ヴェルの後ろから笑い声が響く。
後ろを振り向くヴェル、そこにはルドンが満面の笑みで立っていた。
「ふふお疲れ様ヴェル君!いやあ禁術が成功するなんてね」
「クソ野郎…てめえ何しに来やがった!?」
なるべく感情的に喋らないようにしていたヴェルは、自身の言った荒っぽい言葉遣いに驚いた。
「うんうん。禁術の成果が表れてるね。」
「なっどういう事だ⁉︎」
「禁術は能力だけじゃなく死んだ能力者の特徴も受け継ぐんだ。君の口調が変わったのも死んだ能力者が随分乱暴ものだったからだろうねふふふ。」
ルドンの不気味な笑い声が響く。
突然ヴェルは右手の小指を近くにあったナイフで切り落とした。
切り落とされた指は黒く変わり散りになる。
その光景をルドンが理解した時、ルドンの右腕は切り飛ばされていた。
「ふふふ油断したぁ…ヴェル君いや今の君はゲルマかな?」
肩から溢れる血を抑えるルドン、だがその顔は余裕といった顔だ。
「正解だクソ野郎。てめえの汚物みたいな顔をこうして見るなんて久しぶりだ。何が乱暴もんだ、てめえの所為でこうなったんだろうが。」
ヴェルの体は宙に浮きルドンに向かって突進する、だがルドンはその突進をヒョイと躱しヴェルの体に蹴りを入れ地面に叩きつけた。
「うんうん。やっぱり代償の能力って凄いね、君が生きてた頃を思い出すよ。」
「黙れ!てめえ絶対殺して…クソッ!」
ヴェルの体に激痛が走る、その激痛はゲルマに体を乗っ取られた時の対策のためゼルビィが施したものだった。
「ふふふん、体を完全に乗っ取る事は出来ないみたいだね。まあでもこれでこの国に君も戻って来た訳だ。またよろしくね」
ルドンは切り飛ばされた右腕を付け直しその場から消えた。
辺りに静寂が訪れる、ヴェルの体を乗っ取ったゲルマは小さく呟いた。
「おいクソ餓鬼、聞こえているか?」
(…あぁ)
「本来の体の持ち主はお前だ、だからお前に返す。だがあのクソ野郎がいる時だけはあたしに体をよこせ。いいな!」
そう言うとゲルマの意識は消えヴェルの意識に戻る、ヴェルは体に急激な疲れを感じその場で眠ってしまった。
ヴェルは夢を見た、戦場でゲルマが戦っている夢だ。
ゲルマは敵を圧倒的な力で倒している、だが力を使うたび泣いていた。
敵を殲滅し屍の山の上に立つゲルマ、そんな彼女に近寄る青年がいた、それはーーー
次はヴェル視点で書きます。




