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大輔の鬼退治  作者: 弥太郎
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幼馴染

「「「先輩、お疲れさまぁっす!!」」」

「先輩! 今までご指導ありがとうございます!」

「高校行っても、剣道頑張ってください!」

「おう! あんがとな」


俺の名前は武多大輔。中学三年生だ。今日は剣道部を引退する日で、練習後、後輩たちが祝ってくれた。ものすごく嬉しいが、男集団が汗臭い道着のまんま密集しているので、少し暑苦しい。

「お前らも、来年こそ全国大会目指せよ!」

「はい! 先輩の仇を絶対とるっす」

そう、中学三年の最後の大会。決勝での大将戦、俺は負けた。皆は俺のせいじゃないと言ってくれたけれど、あそこで勝ってさえいればと、俺はいつも後悔している。高校では俺を負かしたアイツに絶対リベンジしてやる。

「よっしゃ! 俺も高校剣道で頂点を目指すぜ!」

「さすが先輩っす!」

「よっしゃ! 最後胴上げだ!」

ワショーイ! ワショーイ! と皆に胴上げしてもらいながら、俺はリベンジへの闘志を心で燃やした。


「悪いっ、待たせたか?」

「遅い! いつまで待たせるのよ」

テニスのラケットを抱えた、ショートカットの女の子。

日に焼けた頬をぷくっとふくらませて、目くじらをたてているのは俺の幼馴染、鮎川咲。

「ほんと大輔は時間通りに待ち合わせに来たことないわよね」

「へへっ、わりぃ。皆が離してくれなくてよ」

今日は部活後に咲にたいやきをおごるという約束であった。咲もバトミントンの練習後なので腹が減っていることだろう。たしかテスト前に勉強を教えてもらったとかそんな理由だったきがするが、咲には普段から迷惑かけっぱなしなのでたまのたい焼きぐらいはおごってやろうという俺の優しさだ。

 そんな俺のやさしさを知って知らずか、くどくどと咲による説教が続く。

「もう高校生なんだから、時間に関してはきちっとしなよ? 常に五分前行動を心がけること。わかった?」

「はいはい」

「はいは一回!」

「へーい」

「大体あんたはいつもいつも――」

咲とは腐れ縁で幼稚園からずっとクラスが一緒だ。最近、母ちゃんみたいに口うるさくて

「あー、説教終わり! 早く行こうぜ。たい焼き屋しまっちまうよ」

しょうがない。このままだといつまでも説教が続きそうなので咲の手をとり、歩き出す。すると、さっきまでギャンギャンと俺に説教をしていた咲はなぜか急におとなしくなった。

「あ……」

「なんだよ。急に黙って」

「なんでもない」

「ん? お前顔赤いぞ? 風邪でも引いたか?」

「うっさい! 顔近づけんな! 汗臭い!」

「なんだと! お前こそ汗臭いぞ!」

「なっ、あ、汗臭くないもん! 制汗スプレーしたもん!」

ぎゃーぎゃーと口喧嘩しながらたい焼き屋まで向かう二人であった。 


「んーっ、クリームおいしい♪」

「へっ、クリームなんて邪道だぜ」

「じゃあ一口あげなーい」

「いいよ別に。おっちゃん俺あんこで。粒あんね!」

「あいよ」

ガタイのいいたい焼き屋のおっさんにほくほくと焼きたてのたい焼きを手渡され、部活帰りの空きっ腹が刺激される。

「くぅ〜、うまそっ。いっただきまー」


刹那、たい焼きが空を飛んだ。

いや、宙を飛んでいたのは俺の体だった。

「―――!!!」

幼馴染が何かを叫んでいる。おいおい、なんだよ。そんなに必死になって。たい焼き落としてるぞ。もったいねーな。

ドンっ、と思い切り地面に激突する。

「ごほっ!?」

肺の中空気が一気に吐き出され、鉄の味が口の中に広がる。

一体なにが起こったんだ? 俺は車にでも惹かれたのか?

「だいすけぇっ!」

 咲の悲鳴。

霞んだ視界の中で、二m近い、赤い肌の男が、立っていた。

額に角のようなものをつけている。顎も異様にでかい。何かのコスプレだろうか。奴が俺を吹き飛ばした、のか?。

「おいお前子供に何やってんだ!」

たい焼き屋のおっちゃんが赤い男に食ってかかる。

おっちゃんの首が飛んだ。

周囲の悲鳴。

赤い男が嗤う。体が風船のように膨れ上がる。三m、四m、もはや人間の域を超えていた。巨人だ。

巨人はゆっくりと咲の方へ近づく。

「咲っ!」

体を起こそうとして、動かなかった。

見ると足がありえない形に曲がっていた。

「くそっ! 咲! 逃げろ!」

咲はその場に座り込んだまま動かない。腰が抜けたのだろうか。

「咲!」

俺は這いずって咲のところへ向かった。

巨人が咲の体をつかみ、軽々と持ち上げる。

「咲! くそっ、このやろう!」

叫ぶ。けれど巨人はこちらを見向きもしない。

「だ…だいすけ……」

震えたように咲が俺に呼びかける。

「咲を離せっ!」

パトカーのサイレンが聞こえる。警察が来たのだ。警察さえやってくればコイツをなんとかしてくれるはず……それまで時間を稼がなければ。

「このっ」

近くにあった小石を巨人に投げる。コン、とこ気味良い音がして巨人の頭にあたる。

「ぐぉぉ」

巨人がうめいた。

ぐちゅっ

咲が潰れた。

飛び出た上半身が地面に落ちる。

「あ、あああああああああああああ!!!!」

ナンデ何で何で!?

さっきまで一緒にたい焼きを食べていた。元気だった。あいつは真面目でいいやつで、いつも俺の面倒を見てくれて……。

巨人は咲の下半身をゴミのように捨てると、こちらを見た。

巨人の瞳は俺を移していた。俺を殺す気なのだ。いいだろう。来い。俺もお前を殺してやる!

「動くなっ! きさまは包囲されている!」

警察だ。銃を構え、パトカーに乗った警官が巨人を囲んでいた。

「君、大丈夫か」

警察の人が俺を運び出そうと担架を持ってやってくる。

「ぐおおおおおおおおおおっ!!!」

巨人が走った。

「撃てぇ!」

パンパンっと渇いた音がして、弾が当たる。けれどそのどれも巨人の表面で弾かれてしまう。

「なっ」

警官が担架ごとふっとばされる。

巨人は一瞬で俺の目の前までやってきた。

巨人がにぃ、と嗤う。

巨人が俺の折れた足を踏み潰した。

「あがああああああああっ!!!??」

激痛。しかし、激痛を上回る怒りが俺の中に渦巻いていた。

咲を殺しやがった。

あんな、ふうに。絶対にゆるさねぇ。

その思いに反して、体は動かない。力が抜けていく。

「ちく、しょ、ぉ」

――俺にもっと力があれば


鬼に踏み潰され、暗くなる視界の中で声が聞こえた。


力が欲しいか


濁流の中、藁をも掴む思いでその言葉にすがる。

――欲しい。咲の仇を取りたい。そのためだったらなんでもしてやる!


よかろう。では、キサマと契約してやる。くーりんぐおふは効かんからな


闇が晴れて、閃光が走った。



「ぐお?」

巨人は疑問に思った。先ほどまで足の下にいた人間がいない。どこにいったのだろう。


「こっちだ木偶」

頭部に衝撃を受け、顎から地面にめり込む巨人。


鬣のような髪。体中には幾何学模様が浮かび上がった少年。

大輔であった。

(感じる。すごい力だ。この力なら)


「ぐおぉぉぉぉ!!!!」

怒り心頭の巨人が顔を上げ突進してくる。


「咲の仇だーっ!!!」


巨人と少年の拳がぶつかる。


衝撃と爆風でパトカーが何台かひっくり返る。

ようやく風が収まった時、そこには原型がわからないほどぐちゃぐちゃになった巨人の死体だけがあった。



読んでくれてアリガトウございます。

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