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親衛隊は、七人です!  作者: 鳥無し
幽霊王子と青い髪飾り
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第二話『旅立つ少女二人』

 厳しい冬が空け、雪が完全に溶けて、世界に春がやってきた。

 ゲルイセン王国。その巨大な国にも、等しくその春の気配が訪れ、あちこちに草花が芽吹き、暖かな空気に包まれる。

 地方はそうでもないが、この王国中心では、少しあわただしい空気が漂っていた。

 

 ゲルイセン王国では伝統的に、成人となる王族一人一人に、男と女を分けた親衛隊を一部隊ずつ組織する風習があった。その組織する時期は前後することもあるが、成人する一年くらい前には結成され、成人となる王族に与えられることになっている。

 今年は、国王フリッツと女王カミラの二番目の王子である、ノルベルトの女親衛隊が結成されることになっていた。ノルベルトはあと二年すると成人になるため、今年全国に募集をかけ、来年までに結成すれば十分間に合うのだ。

 

 中央ではその準備で騒がしくなっており、全国から受験者が集まってくるから、なおのこと賑やかになっていた。

 

 そしてとある田舎道。ここにも、親衛隊になることを目指してやってくる少女達がいた。

 

 *    *    *

 

 細い木々の列が、大きな道に沿うように生えている。その木々が見守る道には、人が歩いていたり、木に寄りかかって休んでいる者がいたり、出店が出ていたりした。

 ただの道にしては人が多すぎるようなこの場所を、二人の少女を荷台に乗せた馬車が走っていた。

 

「わぁーわぁー、クララちゃん人がいっぱいいるよー!」

「見ればわかるわよ、あんまりはしゃいでると田舎者だと思われるわよ」

 そういったほうの少女も、しきりに首を動かしては周りの様子を観察している。

 二人の少女の名前はモニカとクララ。幼いころからずっと一緒に育ち、誰もが親友と認める二人だった。

 

「しっかし感慨深いねぇ。あんなに小さかった二人が、王族直属の親衛隊になるなんてさ」

 馬車を操っている男がそんなことをつぶやく。モニカが母親のために親衛隊試験を受けると決めたとき、ちょうど中央に用事があったこの村人が送ってくれると言い出したのだ。

「まだモニカは合格したわけじゃありませんから。それに私は、記念受験みたいなものなんだから、受かりっこありませんよ」

 そういって返事をしたのはクララだ。モニカから母親の相談を受けていたクララが、親衛隊募集の話を聞きつけ、モニカにそれを教えた。そしてモニカが乗り気になって試験を受けに行くというと、心配だからと一緒についてくることになった。

 クララも試験は受けるが親衛隊になりたいわけではない。試験を受ければ、その期間中宿に安く泊まれるから受験するだけだ。ただ、クララも文官になることには興味があり、もし何かの間違いで合格したなら、親衛隊になることに抵抗はない。

 

「じゃあモニカ、勉強の続きをするわよ」

「えぇー、ぶーぶー」

 クララの言葉に、モニカはあからさまにいやな顔をする。モニカには学がない。簡単な文字すら読めないほどに勉強などしたことがないのだ。ただそれは田舎村ならいたって普通のことで、そこまで恥じることでもない。二人の村でも、本が読めるのはクララを含めて5人くらいしかいないくらいだった。

 今回の親衛隊試験に学力を問うものはないが、試験官との簡単な受け答えくらいはできなくてはならない。親衛隊への志願理由で、『ノルベルトに忠誠を誓っているから』と答えろと入れ知恵をしたのもクララだった。

 

 そんなわけで、モニカはやったこともない勉強を、村からここまで馬車の中でずっとさせられていた。なれないことをやらされるモニカは、すっかり参ってしまっている。

 クララがモニカに解答させる問題をいくつかピックアップする。すると、荷馬車を操っていた村人が声をかけてきた。

 

「モニカちゃんには朗報だよ。中央が見えた」

「え、ホントッ!? どこどこ?」

 村人の言葉に、モニカは荷馬車から身を乗り出して進行方向を見つめた。

「ほら、あれだ」

「……わぁ~!」

 村人が指をさし、その方向に目を向けるとその街はすぐに見つかった。

 はじめは小さな山かと思ったが、それが街であることに気付くと、思わず声が漏れてしまった。

 

 街の幅は非常に広く、高い建物がいくつも建造されていた。そして、それらを圧倒するほど大きく立派に建てられ、街や周りの景色を見下ろしているのがゲルイセン王国の城だった。

「さすがに……圧倒されるわね」

 クララも始めてみる中央都市に目を奪われ、その感動を噛みしめていた。

 

「あそこに私の仕えるかもしれない人が……ノルベルト様が暮らしているんだ」

 モニカはそう呟き、どんどん近付く街に見とれていた。

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