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残りの朝食をさっさと腹におさめ、
帰り支度をすべく立ち上がる。
ふと気になってポケットを探ると案の定お金の入っていた右ポケットは空っぽだった。
きっとあの公園で殴られたときに盗られたのだろう。
たった千円札二枚だ、とも思えるが今の私には致命的だ。
そうなると残りは飲み物を買ったときのお釣りである850円。
これからどうしようか…
しかしとりあえずここに長居するわけにも行かない。
私はパンパンッと着ていたジャージのしわを伸ばし
先程までお世話になっていた布団を丁寧にたたんだ。
そしてあの日と同様に勢いよくさほど重くない鞄を肩にかけ
この場所にさよなら、と手を振った。
スパンッと一気に
襖を開ける。
「あれ………?」
廊下が続くのかと思いきや、目の前には昨日倒れたという石段が続いていた。
やはり不思議なところだ。
一歩踏み出した瞬間
私の寝泊まりしていたあの広い客間はすぅっと跡形も無く消えていく。
そして代わりに古ぼけた汚らしいお堂と
色の剥がれ落ちた今にも倒れてしまいそうな鳥居がそこに現れた。
…ゾクッ…………
私は急に嫌な寒気を覚えた。
そして振り向くことなく急いでその場所を後にした。
「…夢でも見ていたのかな……。」
そうだ、きっとそうに違いない。
神様?妖怪?そうなのいるわけないじゃんか。
先程から立ち止まってはあの男を思い出し
違う違う、夢だ。と自分に言い聞かせ
うん、うん
と一人街中で深く頷く…
ということを事をひたすら繰り返していた。
…それだけ動揺していた。
全て夢ではなく本当にあった事なのだと心の何処かではわかっていたから。
気がつくと私は狭い路地の入り口にいた。
迷った…ここはどこだろう?
一休みしようとそばにあった柵にもたれかかる。
履きなれない学校のスリッパで数時間歩き続けるのはいくらなんでもきつい。
せっかく治ったはずの豆がもう顔を出している。
「あーつーいー…」
駄目だ。暑さで頭がぼーっとする。
あの時全て事情説明してあの場所に置いてもらえばよかったかな。
…ううん
きっとあいつは優しいから
そんなわがままな私を文句を言いながらも受け入れてくれる。
毎日ああしてご飯作って私に食べさせてくれる。
…違う。それは駄目なんだ。
神様を独り占めしてはいけない。
甘えちゃいけない。
強く生きなくちゃ…
それがお父さんお母さんの願いだったはず。
甘えん坊でわがままな私であることなんか望んではいない。
だから泣いてはいけない。
弱音なんか吐いてはいけない。
強く強く生きる。
そしたらまたあの時の幸せな日々が戻ってくるかもしれない。
もう一度お父さんお母さんに会えるかもしれない…。
「あれーっ?この間の子じゃん?こんなところで何してるのー?」
声のするほうへ顔を向けると
そこには見知った顔があった。
あの時公園にいた男たち…
殴られた時の恐怖が私の心を支配していく。
「その顔はちゃんと俺らの事覚えてるってことだよねー?あの時はお世話になりましたーっ。」
「……………」
「あれ?なんか君も俺らに言う事あるんじゃないかなー?」
「……………」
「あの時俺超痛かったんだよねー、ここ。」
そう言って男はべーっと舌を出す。
「慰謝料払ってもらえるかなー?」
ギャハハハハ…
「ちょっ、見ろよこいつ、スリッパ履いてるぜ?」
「山城第一高等学校……って学校のスリッパかよ!」
「ぶはっ、てゆーかそれ俺の行ってる高校のだしー。一緒の学校だったのかよ。」
ギャハハ…
「んー?そういえばお前見たことある気がするー。確か向井とかいう名前じゃなかった?一年三組の。」
「えーなんでお前知ってるわけ?気持ち悪っ」
「知ってるも何もこいつん家超貧乏で有名だもん。なーいじめられっ子ちゃん?」
ギャハハハハ
「だから靴買うお金もなくてスリッパなのかー。それは可哀想に。」
「なら慰謝料は期待できねーなぁ?」
少しづつ男たちが近づいてくる。
「この前の続き楽しもっか?上手にできるかなー?」
すると後ろの男が鞄からなにやら黒い機械を取り出した。
ビデオカメラだ…
何をされるかなんていくら私でも想像がつく。
犯されそれを撮られるのだ。
怖い…
「この間の続きっ。どこから始めようかなー?」
そう言って男は無理矢理私を押し倒し唇を奪う
「…いやっ」
「あれ?向井ちゃん、抵抗するのかな?そんな悪い子にはお仕置きー」
バシンッ
思い切り頬を殴られる。
痛みから涙がこぼれそうになるのを歯を食い縛り必死で我慢する。
「さぁて。次はこっちかな?」
男はポケットからナイフを取り出し私に見せびらかす。
「動くと危ないよー?間違って切っちゃうかもしれないからー」
「ひっ…」
思わず顔が引き攣る。
「いいね、その顔。すっげぇいいビデオが撮れそうー。」
ギャハハハハ…
こんなことだけじゃ
きっと終わらない。
犯され、
抵抗すれば殴られ蹴られ
あの尖った凶器で切られる。
嫌だ…怖い…
……熈濤……助けて…
甘えちゃいけないのに
頼っちゃいけないのに
私は呼んでしまう
貴方に助けを求めてしまう。