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「はぁはぁはぁ……」
ここは何処だろうか。
わからない。
公園を抜け出した後も
振り向くことなく
暗闇の中をひたすら走っていた気がする。
「はぁはぁ…ごほごほごほっ」
咳き込む度に脇腹が痛む。
くたびれた両足も
もう走れないよ、と悲鳴をあげていた。
殴られた所が今更ズキズキと痛み出し、
足の裏に出来たばかりの
つぶれた豆が更に痛みを盛り上げている。
さすがにもう走れない…。
最後の力を振り絞り
私はそばの石段に腰掛け、
そして間もなく重たくなった瞼を閉じた。
「おい、女!起きろ!」
「ん…んん?……」
声をかけられ目を開けるが誰もいない。
夢か…と思いもう一度眠りにつこうとすると
今度は何かでゴンッと思い切り頭を殴られた。
「いったぁ…」
頭を抑え、涙目で声のするほうを見ると
私がいる石段のすぐ上に
1人の男が物凄く不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいた。
「お前がそこにいると掃除ができん。邪魔だ。どけ。」
「え、あ…ごめんなさい…。」
殴られたことに対する怒りよりも申し訳ないという気持ちが
勝り、急いでその場所から体をどけようとするが
思うように体が動かない。
昨晩幾度も殴られたせいか死ぬほど走ったせいなのか…それともこんな硬い石段の上で眠ってしまったせいだろうか、
とにかく全身の様々な箇所が痛みで悲鳴をあげていた。
「早くしないか。」
ますます不機嫌そうな声が少し上からズケズケと私に降り注がれる。
「ごめんなさい…あの…動きたいんだけど、でもどうしても体が動かないの…」
そう現状を説明する私を馬鹿にしたような目で一罰し、ふんっと鼻をならした。
「はっ、自業自得じゃないか。そんな所で寝るからだ、馬鹿女。」
そういうと男はいかにも面倒だ、と言いたげな顔ではぁ…と大きくため息をつき私のいる所まで降りてきた。
そして持っていた箒を下に置きひょいっと軽々私を抱き上げ、上段まで運んだ。
「あ?お前…痣だらけだぞ?転んだのか?」
「…………」
「………まぁいい、そこで少し待っていろ。これがすんだら傷を看てやる。」
礼を言おうと
暑さと疲労で少しぼーっとしてきた頭をなんとか回転させ、必死で言葉を探したが
今の私には頷くことが精一杯だった。
遠くから男がサッサッサと
箒で地面を掃く音が聞こえる。
ん…?あれ…?
あの人こんなに髪長かったっけ?
腰まで伸びる銀色の長い髪がキラキラと朝の光に反射してとても綺麗…
それに……変だな、あの人コスプレなんかしてた…?
着物着て、頭とお尻に耳と尻尾付けて。
…ううん、これはきっと目の錯覚だ。
きっと暑さで頭がまいってるんだ。
何考えてるんだろ
馬鹿だな…私。
本当にどうしようもない馬鹿だ…