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ー3

「おい!お前達!何してるんだ!」


「やべっ警察だ。逃げろっ!」


バタバタと男達の足音が四方に遠ざかって行く。

そして代わりに別の足音がこちらに近付いてきた。


「君、大丈夫か?」


ゆっくりと目を開けると

そこには、青い制服を着た男の警官が2人、心配そうにこちらを見下ろしていた。


「立てるかい?」


さっきとは違う優しい手。


私は警官2人に半ば抱きかかえられるように起こされた。


「大丈夫か?」


「はい…。」


そしてわたしをベンチに座らせ

別の女の警官を連れてきた。


「何があったの?大丈夫?あら…?血が出てる!殴られたのね?」


「ほら、これで抑えて。」

そう言ってその婦警さんは私にハンカチを手渡し、これで額を抑えるよう指示した。

そして近くの警官を呼んで

「ちょっと、坂本くん。救急車呼んでちょうだい。あ、それと、お水買ってきてもらえる?」


「はい、了解しました。」


坂本と呼ばれた若い警官は

びしっと敬礼をし、命令を実行すべくコンビニの方へ向かって行った。


「とりあえず病院に行かないと…」

女警官はまた私に向き直り

「あなた、名前は?」

「…………」

「住所と生年月日を教えてちょうだい。」

「………」

「大丈夫、怖がらないで。私たちはあなたの味方だから。……あなたお父さんやお母さんは?きっと心配してるわよ?私たちが責任を持ってあなたを両親に送り届ける。だからそのために名前と住所を教えてもらわなくちゃいけないの。わかる?」


今、この人に私には帰る家も両親もいません、

だなんて言って信じてもらえるだろうか。

もしそれが事実だと信じてもらえた所で父さんや母さんはどうなってしまうのだろう。

私を放って家を出た両親をこの人は許すだろうか。育児放棄とみなされ、この人たちに捕まってしまうのではないのか……


……そうなってはもう二度とあの大好きな父と母に会えなくなってしまうのではないか…


「…すみません、あの…トイレ行きたいんですが。」

「え?あ、あぁいいわよ。そこにコンビニがあるから借りましょうか。」

「あ、いえ。もう我慢できそうにないので、そこの公園のトイレじゃ駄目ですか?」

そう言って近くのトイレを指差した。

女警官は少し考え渋々了承してくれた。

「その代わり危ないから近くで待たせてもらうわね。」

「はい…。」


コンビニのトイレなんかに行ってしまえば

もう逃げる隙はないかもしれない。

でもここなら少しは希望がある。



夜の公園のトイレって

どうしてこうも気味が悪いんだろう。

薄暗い蛍光灯に張り巡らされた蜘蛛の巣に

明かりにおびき寄せられた可哀想な虫達が群れをなして命が尽きるその時を待っていた。


幸い公園のトイレにしては意外と広く、

入り口から奥まで緩いカーブがかかった作りになっているため

女警官がいる入り口から

私が入っている個室は死角になっていて見えない。

そしてこの一番奥の個室には換気のための小窓がついていた。


洋式トイレのタンクを踏み台にして

小窓によじ登る。


地面までさほど高さはない。

しかしこのままだと荷物が邪魔をしてこの小さな窓からは出られそうにないため

鞄を先に窓からそっと下ろし、

続いて私も体をひねるようにして外に出た。



私、

お母さんとお父さんを守ったよ。

……これでよかったんだよね…?

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