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ー8

「何をしている、早く休めと言っただろう。」


「熈濤…」

「熈濤様…」


「お前たちもなんだ?何時まで油売ってるつもりだ。」


「申し訳ございません…」


「だいたい、あれだけ言うなときつく命じただろう?どうして俺の命令が聞けんのだ。」


「申し訳…………」

「待って!天琥君たちは悪くない!」

責められ、俯く小さな狛犬の男の子達を見て

私は思わず口を挟む。


「お前は黙ってろ!」

案の定元々目つきの悪い吊り目を更に吊り上げ、ものすごい形相で睨み、怒鳴りかかって来る。


私も負けじと声を張り上げ

「黙らない!だって無理矢理この話をさせたのは私だもの!私に責任があるわ!」

「透様………!」


「だいたいあんたね、勝手なのよ。私の意見も聞かず、理由も何も言わないで此処に住めとか色々命令だけして。いい加減にしてよ!せっかく助けてもらっといてこん事言うのもなんだけど、いくら私だって混乱するわよ!」


「……………」

男はごもっともな反論に面喰らったような顔をして

一気に文句をまくし立てはぁはぁ、と息を切らしている私をただぽかん、と見つめている。


「なによ…言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ。いくらでも相手になってやるから!」




「…………ぶっ…くくくくくっ………あはははははは!」

黙ったと思えば今度は腹をかかえて弾けたように笑出す男。

てっきりまた怒鳴られると思ったが、次は私が唖然と見つめる番のようだ。

全くわけがわからない。


「なによ。」


「いやぁ…すまんすまん、つい…な…くくくくくっ」

まだ笑がおさまらない男を見て、流石に気分が悪くなる。

「いい加減にしてよ!なんだか私、馬鹿にされてるみたい。」


「はぁー………すまんかった」

ひとしきり、笑ってようやく落ち着いたのか

大きく一度咳払いをしてこちらに向き直る。


「やはりお前は面白い。」


「は…?」


「お前に免じてこいつらの失態は許してやる。」

「本当に…?」

「本当ですか!熈濤様!」

私たちは同時に声を上げる。


「ん…あぁ。」

「ありがとうございます!熈濤様!透様!」

「いや…私は別に………」


「わかったら余計な事は考えず早く休め。」

そう言って去ろうとする男の服の袖を

今度は逃がさない、と

私は思い切り引っ張った。


「ちょっと待った!まだ話は終わってないわ!」

「…今度は何だ。」

先程とは打って変わり

あきらかに不機嫌な顔がこちらに向けられる。


「なにが今度は何だ、よ。殺されるかもしれないなんて聞いて素直にいい子で寝ますー、なんて誰が言える?私本当どうなるの?はっきりしてくれなきゃ余計に怖い。」


「はぁ……だから俺様に守られていればいい、と何度言えばわかる。」

「は?守るってなに?だいたいあんたみたいな何も出来ない二流妖怪がイザナミに叶うわけがないじゃない!」


「契約でございます。」

今にも喧嘩に発展しそうな私たちを見かねて思わず天琥が口を挟む。


「天琥!」


「もっ申し訳ございません……!」

「何?天琥君、契約ってどう言う事!?」

「そっそれは……」

しまった、とばかりに両手で口を塞ぐ天琥に

私はこれ見よがしに詰め寄る。


「熈濤様これはもう……」

隠しようがありませんと小声で続ける鬼璃。


その様子にとうとう観念したのか

盛大に舌打ちすると

男は話せ、とでも言うように

狛犬達に目配せする。


「それでは…」と

鬼璃がそれに答えるように話を始めた。


「透様がイザナミ様に狙われていることは事実でございます。そして熈濤様が透様をお守りする…こちらも事実でございます。」


「どう言う事…?さっきも契約って…」


「はい、確かに今の熈濤様ではイザナミに対抗することは少々難しい事でございます。しかし、透様と主従の契約を結ぶことによって熈濤様のお力は何倍にも増幅いたします。」


「えっ…?」


「元々、力の強いものを喰らう事で妖力というのは増幅される場合がございます。しかしそれはとても危険な事…故にそうではなく主従の契約を結び、名をもらう事でそれ同等の力を得る事ができます。」


「名前を…でも私と契約したってそんな力は…」


「透様は元々、強力な力をもっておられるお方です。」


「透様は熈濤様の術無しに初めから我々を見る事が出来たでしょう?」

天琥も鬼璃に続くように口を開く。


「通常普通の人間に我々は見えません。」

「ところが透様は何の苦労もなしに我々を見る事が出来ました。それだけでも驚いたのですが

透様はその上、千里眼を使われた熈濤様を欺くほど強力な結界を張られておりました。」


「結界…?」


「はい、無意識に…という感じではございましたが…」

「普通そのように強いお力をもっておられる方は妖どもに狙われやすく…」

「既に喰われてしまってる事がほとんどなのですが…無意識だったとしても結界を張られていた、ということならば納得がいきます。」


「だがなあまりにも結界の形が歪だったのでな、思わず笑ってしまった。」


「だっ、だってそんな生まれてこのかたそんな力があるだなんて知らなかったもの!仕方ないじゃない!」

嫌味だけを言うために口を挟む男に

つい言葉がきつくなる。


「それが不思議なのでございます。」

「そのような強い力がありながら今までご自分自身でも気がつかなかったと…」


「それを抑えるだけの力があるんだろう。だからイザナミもそれを知ってお前を欲しがった。あの女はその身を取り戻すためなら手段を選ばんからな。」


「何だかよくわからないんだけど…」


「まぁ、俺様と契約すれば自身の力の意味も自ずとわかってくるだろう。」


「でも私あんたに食べられる事だけは嫌!」


「はぁ?さっき鬼璃が言ってただろう。名前をもらうと。聞いてなかったのか!?」


「う…………」


「図星か。」


「でっでも、どうして名前なの?」


「はぁ…お前、本当に何も知らないんだな。」

男は心底呆れた、とでも言うように左右に頭を振る。


「あのな、名前というのはその者にとって命と同等の価値をもつ。契約を結び、名を渡すということは相手に命を捧げるのと同じ事。」


「相手を自分の思うままに操る事も出来てしまうのです。」


「えっ……」


「しかし契約を結ぶ、ということはそう悪いことばかりではありません。」

「契約を結んだ相手は何処で何をしていても」

「いくら強力な結界を張られていたとしても」

「千里眼を使わずともその相手の居場所が即座に分かる。もう、あのようにお前に怖い思いをさせる事もなくなる。」


「…イザナミからも……」

「お前の力をもらうことでお前自身を守ることができる。」


「……………」


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