ー4
「まだ…私ここに住むって決めたわけじゃないから。」
私は75畳程あるであろう広い和室宴会場のような場所にいた。
そこで大きな長方形の座卓を挟み今まさに熱い議論が繰り広げられようとしている。
「まだそんな事を言っているのか。しつこいのも嫌いじゃないがどちらかというとさばさばとした女の方が好みだ。」
「あんたの好みなんか聞いてない。」
はぁ……
本日14回目のため息。
ここには住まないと
何度言えばわかってくれるのだろうか。
「だいたいね、何でこんなところで女子声生が変な狐妖怪と一緒に住まなくちゃならないわけ?そもそもどうして私のような何の能力もない普通の人間が……」
「簡単な事だ。お前には住む家がない。だからここで俺様と暮らす。それだけだ。」
「…それだけってあんた……」
「その理由の何処に不満があるのだ?短くて分かりやすい。」
男は満足そうに自らうん、うんと相づちをうつ。
「はぁ……………」
駄目だ。拉致があかない。
「…それよりさっき聞きそびれたことだけど…どうして私に住む家が無いなんて事知ってたの?」
「ん?あぁ、それか。知りたいか?」
「うっうん。」
男の機嫌を損ねないよう今度はなるべく優しく接してみる。
「ふんっ、最前にも言ったが俺様は当年とって1026になる身。妖というのは天琥が言っていたように長い年月を生きる間、年数ごとにその身を変化させていく。」
「うん…」
「例えば俺様のような妖狐だが元々尾は一本だ。しかし500年ごとにその本数は増えていき、4000年で9尾となる。」
「じゃあ今熈濤は1026歳だから…3尾ね?…でも今見えているのは一本だけよ?」
「当たり前だ。この姿でいるのには相当な妖力を使う。その分尾の本数は減るのだ。」
「なら尻尾の数で妖力は決まるのね?」
「あぁ、妖狐に限るがな。」
「ふぅん…なんだかすごいのね。」
私の態度に気を良くしたのか
男はさも愉快そうに言葉を続ける。
「で、本題だがな。妖狐は年月と共に尾が増えるだけでなく、特殊な能力も身につける。例えば狐火や人化の術等の変身術、幻術もそうだ。そして1000年生きた俺は新たな能力を身につけた」
そこで男は一息をつき私をみてニヤリと笑う。
「千里眼だ。」
…………?
「千里眼………ってその場にいながらにして千里先を見通せるっていう………あの…!?」
ここにはテレビで見るような超能力者なんかよりも
何倍も何十倍も凄い人が揃っているようだ。
「あぁ、その通り。千里先を見通せるのだから近くの者の心を読むことなど容易い。」
「………あーっ!!!!」
「やっと気付いたか馬鹿女。お前が先ほどから俺様の機嫌とりをしている事など全てお見通しだ。」
「…っ!…………」
成る程、男の機嫌が良いのは私の考えを読み面白がっていたからなのか。
「酷いっ……勝手に心を読むなんて最低っ…」
「あの時は仕方なかろう。傷跡だらけの女が倒れて上から降ってきたのだ。誰でも不思議に思う。」
「あの時は仕方がなかったのかもしれないけど…でっでも今は……」
男はこちらを見下す様な目で私を睨み
「本当に心を読んだと思ったのか?俺様はこう見えて士君子。そのくらいの教養は身につけているつもりだ。」
「でもさっき…」
「お見通しだ、とは言ったが誰も心を読んだとは言ってない。断りも無しにすぐ人の心を読むなど、人格劣等品性下劣。」
「…………」
自分だってあの時は勝手に心を読んだくせに…
「自分だってあの時勝手に読んだくせにだと?ふんっ、お前はすぐそうやって思っている事が顔に出るな。だから心など読まずとも全てお見通しなのだ、馬鹿女。」
「………………!」
一言文句を言ってやろうと口を開いたそのとき
ガチャガチャと食器を鳴らして部屋に入ってきた人物達に言葉を遮られた。
そんな私の様子を見て男はニヤリとまた意地悪く笑う。
「熈濤様!透様!お食事をお持ち致しました。」
「冷めないうちにどうぞお召し上がりください!」
そうこうしているうちに次々酒や料理が運びこまれ
部屋はみるみるうちに豪華な宴会場となる。
「すごい…これ全部天琥くんと鬼璃くんが作ったの?」
「いえ、熈濤様が…」
「人である透様のためにと。」
「我々の食べ物はお口には合わないとお聞きしまして…」
そう言って二人の小さな妖怪はぺこりと頭を下げた。
「何だかんだ言って根はやっぱり優しい人なのね。」
「……ごちゃごちゃ言ってないで食え。」
照れているのか、そう少しぶっきらぼうに言う男が何だか可愛らしく思えた。