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ここに…住む?
私が……?
「何を…言ってるの?」
「何度も言わせるな馬鹿女。今日からここがお前の家だと言っている。」
「えっ…家…!?………ここが!?」
駄目だ。
あまりにも唐突にそんな意味の分からないことを言い出すものだから
脳が混乱して機能を一時停止させている。
「何を府抜けた顔をしている。何も不思議ではなかろう。お前には住む家がない、だからここに住む。違うか?」
「いや…確かに家がないのは事実だけど………」
…待てよ、そもそもどうして私に住む家がないのを知っている?
今時の女子高生の大半は家なき子…だなんてそんな馬鹿な話聞いた事もない。
「どうした?ここで神である俺様と共に幸せな毎日を過ごせるのだぞ?何が不満なのだ?」
「いや、そうじゃなくて…」
「では何だ、金か?地位か?名誉か?欲しいならいくらでもくれてやるぞ?」
「そんなことでもなくて…」
どうしてそんな考えに至ってしまうのだろうか。
文句を言いたい気持ちをぐっと抑えてできる限り冷静に言葉を並べる。
「どうして私に家がないことを知ってるの?」
「あぁ…それは…」
「熈濤さまー!」
男は何かを言いかけたがその言葉は熈濤を呼ぶ声に掻き消された。
「戻られておりましたか、熈濤様!」
「宴の用意が出来てございます。ささっどうぞ中の方へ。」
「ん?あ、あぁ。」
「あっあの…どちら様で……?」
私は新しく出てきた耳と尻尾のはえた登場人物たちに少々圧倒されながらも恐る恐る出てきた疑問を口にする。
「あぁ!これはこれは、透様!ようこそおいでくださいました。」
「我々は熈濤様の神使、狛犬の天琥こ(テンコ)と」
「鬼璃にございます。」
「はっはぁ…」
「以後、何なりとお申し付けくださいませ。」
「透様の身の回りの事は全て我々にお任せくださいまし。」
何なのだろう。この嫌にできた子どもたちは。
「挨拶など後ですればよかろう。そんなことより俺は疲れている。早く中に通せ。」
「ははぁ…申し訳ございません…」
そう言って小さな体を更に縮こまらせて二人の幼い妖怪は熈濤に深々と頭を下げる。
「ちょっとあんた!何考えてるのよ!こんな小さな子どもにむかって!」
この狐の妖怪は何を考えているのだろうか。
こんな幼子をこき使うなど
非常識な男だとは思っていたがここまでとは…。
「は?小さな子ども?何のことだ。」
「何のことってあんた…天琥くんと鬼璃くんは…」
「透様!我々はこう見えて御年208つになる身でございます故」
「心配なさらずとも見た目よりは長く生きてございます。」
「えっ…?」
私は自分の腰の高さもない可愛らしい小さな妖怪たちを見下ろす。
「ちなみに俺様は当年とって1026歳だ。」
「………は?せんにじゅうろくさい……?」
「あぁ、俺などまだまだ若いほうだがな。中には3000年10000年…それ以上だっていくらでもいる。」
「……………」
「まぁ想像もつかんだろうな。人間など精々生きて100年。しかし獣には稀にその寿命の何十倍をも生きるものがいる。…恨みや念い(おもい)が我らを殺さぬのだ。そして300年以上生きたものだけが妖力を得、後なりを変え、妖怪としてまた何白何千年という時を生きる。」
「その間、我々は年を重ねるごとにまたその姿を変えていくのでございます。」
「故に長く生き、力の強いものは大きくそして美しく」
「逆にまだ歳の浅いものは小さく、力も弱いのでございます。………まぁまさに我々がそうですが。」
そう言って赤い髪の間からはえる二つの可愛らしい小さな耳をしょぼんと垂らした。
「さっ、立ち話はこのくらいにして続きは中でいたしましょう。」
「せっかくのお料理が冷めてしまいます。」
「……?何をしている、馬鹿女。行くぞ。」
可愛らしい顔立ちをした茶髪の癖っ毛、天琥。
少し釣り目で長めの赤髪、鬼璃。
そして銀色の髪をもった強く美しい妖怪、熈濤。
そんな非現実的な者たちに連れられて
私は煌びやかな竜宮城へと歩を進める。