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言われた通り閉じていた瞼をそっと開けてみる。
「わあぁっ…すごい……」
目の前に立ちはだかる札の貼られた大きく立派な鳥居。
あの狭く急な石段は
緩やかな幅広の石階に変わり、
その段に沿う様にして何百という灯篭がずらりと立ち並んでいる。
赤々と楽しげに輝くその灯りはどこか祭りの提灯を思わせた。
「これでもうお前も段から転げ落ちる事はあるまい。」
そう言ってまた意地悪く笑う。
「その灯篭の中の火…あれも狐火?」
狐妖怪の嫌みをわざと無視するかのように言葉を続ける。
「ん?あ、あぁ。触ってみるか?」
「えっ…」
私の返事を待つ事なく
男は一番手前の灯篭から火種を取り出し、それを先程と同じ様に手のひらにのせた。
「ほら、手を出せ」
言われた通り素直に片手を差し出すと
そのまま腕を掴まれ無理矢理その火を持たされる。
「あっあっつ………くない?」
不思議だ。火が…熱くない。
それどころか心地良い熱が手のひらを伝い全身にひろがっていく。
「今は、な。」
男はにやりと笑うと私の手のひらでゆらゆらと揺れ動くものをじっと見つめた。
するとその火は手の上でどんどん温度を上げていく。
「あっ…あっ熱!熱い!」
思わずぽとりと地面に火種を落としてしまった。
しかし消えると思いきやますますその色を濃くして赤々と燃え続けている。
「狐火は落としても水をかけても消える事はない。俺が消えろと念じるまではな。」
男は落ちた火種を拾い、元あった場所に戻しながら言葉を続ける。
「だから温度を変化させる事など容易い。一瞬で人肌から灼熱の地獄火にだって変えられる。」
「意地悪……!」
「ふんっ、意地悪なものか。俺様の言葉を無視した罰だ、馬鹿女。」
「だってそれは!私が段から転げ落ちるだとかなんだとか嫌みを言うからで…」
「事実だろう?違うか?」
「そう、だけど………」
「これで懲りたらもう二度とするな。」
「…はいはい」
全く、どれだけ子どもなんだろう。
本当に困った妖怪さんだ。
「はい、は一回!」
「はーい…」
男は不満気な顔をこちらに向けると
一発こつん、と私の頭を殴り
自分はさっさと目の前の石段を登って行った。
「まっ待ってよ!」
私も急いでそれに続く。
はぁはぁ…と少し息が上がったところで
今度は幾千にも連なる鳥居の前に出た。
「これまた立派な……」
声をかけると男は私の反応に気をよくしたのか
先程とは打って変わり笑顔で応える。
「そうだろう、でも驚くのはまだ早い。」
「えっ…?」
「行くぞっ」
男はそう言うと今度は優しく私の手を取りまた歩き出した。
朱色に輝く千本鳥居抜けると
目の前にそびえ立つ煌びやかな建物。
その絢爛な佇まいに思わず息を呑む。
舗装された参道を歩き
立派な楼門を潜ると
広い境内の中にこれまた大きな光り輝く社殿。
庭には橋のかかった大きな神池や注連縄の結ばれた立派な御神木。
それが一層社の美しさを引き立てている。
「どうしたの…これ…」
「お前のために設えたものだ。」
「えっ……?」
「今日からここがお前の家だ。」
「ようこそ、そしておかえり………透。」